5‐⑦ 兎は貴族の弱点を見破った・・・筈だった
貴族というのは不思議なもので、爵位が上がれば上がるほど権力を持つ夫よりも妻の方が独自の情報網を持っている事が多く、また女性の方が立場が強い事が多い。
理由は分からないけれど、恐らく悪魔や猛獣蔓延る貴族社会を生き残るのに女性のお茶会等で交わされる情報のやり取りが大きな意味を持つからだと思われる。
一説ではお茶会が国を動かすこともあるのだとか、そんな場所で悪い噂なんて流された日にはあっという間に干上がってしまう。そりゃ奥さんを大切にするのも当然だろう。
さて、なぜそんな話をしたかというと、女性が強いのは言わずもがな伯爵然り、侯爵然り、公爵然り、そして王族も然りなのだ。
マルセナさんに持ち掛けられた献上品の話、その際僕が彼女に提案したのは「貴族の女性を味方に付けちゃわない?」というもの。
果たしてそんなことが可能なのかという話だが、実は「可能」。
先程も説明した通り、貴族女性の井戸端会議もといお茶会は非常に大きな力を持っている。それはどこぞの家の悪い噂に限らず、その場にいるお茶会仲間の力関係にも影響する。
実はお茶会仲間=お友達と
たとえ王妃であっても褒め、貶す。それがお茶会。
優雅に笑い合っている蝶や華の腹の中では、ドロドロの探り合いと貶し合いが行われている。女の人って怖すぎじゃない? え、僕も女だって? ・・・・・・そういえばそうだったね。
その話題は目新しい物、流行の物から、ドレスのデザイン髪型、そして「美貌」。
貴族の女性は、一般の女性の数百倍も美しさにお金をかける。何故なら、手を抜けば貴族生命が断たれることもあるから。最早、執念である。
話は長くなったが何が言いたいかというと、もしそんな世界に美しさを引き上げる物があったら? 結果は火を見るよりも明らか。
女性はこぞって求め、そんな奥さん娘に男は勝てない。
その時、一番力を持っているのは? 王族? 美容品を手に入れた貴族? 違う。一番強いのは「美容品を売っている商人」だ。
僕は「その立場を手に入れようぜ!」とマルセナさんに提案したのだ、そりゃ悪い顔もするでしょ?
その手始めに王様・・・にではなく、王様を通して王妃様に美容品を献上しちゃおうという計画。
勿論、その商品にも当てはある。僕大勝利、あっはっはー!
「おねーちゃんが、もの凄く悪い事を考えてる顔してるの。たぶんいつも通り大した事じゃないの」
「私も最近、お姉様の表情を読むことが出来るようになって参りましたわ!」
「・・・勝手に読まないでよぉ」
ピアちゃんがいつもの様に、僕の胸をもみもみしながら冷静にツッコミを入れる。お姉ちゃんちょっと寂しい。
最近エリザベートもピアちゃんと同じリアクションになってきた、そろそろマジで自重しないと愛想尽かされそうだ。
「うふふ。それでぇ、ユウちゃんは何を出してくれるのかしらぁ?」
「これなんてどうでしょう? 『メズの香り石鹸』と『速乾スライムタオル』です!」
「あら、石鹸が兎の形で可愛いわねぇ」
この石鹸は僕が普段使いしている物だ、この世界の石鹸はアワヒメという微妙にいやらしい名前の花から作られた「花石鹸」を使用している。
この石鹸、加工の必要が無く使い易いが洗浄力が微妙。そして花石鹸のくせに花の香りがしない、何故だ・・・。
現代日本を生きていた僕には物足りなさが天元突破したので、ギルドで偶然見つけた「メズの脂」、それに灰を混ぜて花で香り付けをしたのが、この石鹸。
型に入れて固めれば、兎石鹸の出来上がりだ!
「この石鹸は凄いですよ。汚れはよく落ちるのにお肌の潤いは保ちますし、泡の目が細かいので毛穴の汚れも落ちます。更に花の香りが肌に残るので、2~3日は香りを楽しめます! 油汚れも落ちるのでクレンジングは要りませんし、洗濯や洗い物にだって使えます。更に肌荒れ手荒れも起きません。いつでもツヤツヤスベスベです」
「これのお陰で、おねーちゃんのお肌はいつもスベスベなの!」
「ピアちゃんもスベスベで、頬擦りしやすいよぉー! ん~、すりすり」
「な、何てこと・・・・・・こんな石鹸があるだなんて、これは戦争が起きるわよ・・・」
んな大げさな! 僕は「またまたぁ~」と手をヒラヒラさせるが、マルセナさんの目は真剣だ。
「分からないかしらぁ? 献上品として渡すのは良いと思うの、でもその後は? 王妃様は見せびらかすために絶対お茶会を開くわ。最初は自慢する程度でしょう、でもその内出所が知れる。その時に殺到する貴族がいったいどれ程になるか・・・」
おっと、雲行きが怪しくなってきたぞ・・・。
「しかもこれ、わざわざ兎の形にしたってことは献上する際に別の形にするのでしょう? あと花の香りも変えれるんじゃないのぉ?」
「う、うん。国章の形とかにしたら良いかなって。あと王妃様の好きな花の香りにしようかなって」
「それ、貴族がこぞってオーダーメイドの注文を持ってくるわよ?」
「(´>ω<`;)」
「そんな顔しても、この結果は絶対よぉ。あとそっちのタオルもきっとすごい物なんでしょう~?」
この「速乾スライムタオル」は以前作った「ひんやりスライムタオル」を別のスライムで作ったものだ。
効果としては水気をさっと吸い取ってくれるのだが、この「さっと吸い取る」というのが重要なのだ。
水分というのは蒸発する際、必要な水分も一緒に蒸発してしまう。これが肌の乾燥に繋がるのだが、このタオルはその水分が蒸発する前に吸い取ってしまうので必要な水分が残る。
つまり肌や髪に潤いが残る素晴らしい美容アイテムだ。
オイリーな男肌では分かり辛いが、潤いとは若さだ。
権力者や女性が若さにかける情熱は、もはや語るまでも無いだろう。ついでにシルクの編みタオルというかスポンジみたいなものも付けて、編み物を宣伝しようと思っている。
「どうせまた、ユウちゃんのとんでもスキルでしか作れないのでしょう? ユウちゃん、一生作り続けることになるわよ? まぁ、私としてはジークと結婚してずっとシルクマリアに居てくれた方が嬉しいけれどね!」
「結婚しないって! でも確かにそれは不味い。どど、どうにかしないと・・・」
僕はおろおろ、ピアちゃんは胸にスリスリ、マルセナさんはニコニコ。何だこの光景。
エリザベートも羨ましそうにピアちゃんを見るんじゃありません!
「せ、石鹸は此処で手に入る素材から手作業で作ってるからっ、また職人を募集しようっ! タオルは黙っててもらう感じでっ!」
「うふふっ、仕方ないわねぇ~。じゃあそれでいきましょうかぁ、王妃様にはそう伝えておくわぁ」
話は纏まり、それからは石鹸づくりになった。
石鹸は自分用に型に入れる前の物があったので、一週間かけて国章の型を作り、20個ほど量産した。
これで出発の準備が出来たのだが、どうして僕はこんなギリギリまで物作りをしているのだろうか?
おかしいなぁ、このお披露目パーティーって僕一切関係無い筈なのになぁ・・・。
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