【Side Story②】 最後の在庫処分
「う~~ん・・・」
僕は今机の上にある草、『ヤマビコ草』を見て唸っている。
これは僕がこの街に来た日、つまり買ってから半年間ミミちゃんの中で眠り続けていた物である。
「ヤマビコ・・・『山彦』? これを文字通りに受け取っても良いのかな?」
「ヤマビコって何なの?」
ピアちゃんは山彦を知らないらしい。
日本において「山彦」は妖怪の仕業と言われているけど、この世界では本当に魔物の可能性もあるからなぁ・・・。
「ピアちゃんは、山に向かって大声で叫んだことってない?」
「ないの」
そうだ、そう言えばこの子、僕と会うまでの記憶が無いんだった!
僕は山彦についてピアちゃんに説明をする。ピアちゃんは「ほー」とか「へー」とか言っていたけど、これよく分ってないな。
とぼけた顔が可愛いかったので、とりあえず抱き締めて頬ずりした。
「まぁそんなわけでね、ヤマビコ草って言われてどんな糸が出来るのか考えてたんだ!」
「早く糸にしちゃえば分かるの!」
「ふっふっふー、違うんだなぁ。加工前の物を見て何が出来上がるのか想像するのも、物作りの楽しみなんだよ?」
「それなら分かるの! ピアもよく考えるの!」
ピアちゃんの中には、着実にクリエイターの魂が根付いているらしい。
「それに、ミミちゃんも一緒に使えるものができたら嬉しいしね! ねっ、ミミちゃんも一緒の方が嬉しいでしょ?」
「がうっ♪」
ネコミミヘアバンド以降、ミミちゃんには何もあげられていない。
今回何かしら彼女にも使える物が出来たら良いと思うんだけど・・・植物名からして、音に関係するアイテムになりそう。
「音・・・山彦・・・音が響くアイテム? メガホンとか?」
いや、糸でメガホンってどうやって作るんだよって話だな。
「まぁ、糸にしちゃうか」
「それが一番早いの!」
「がぅがぅ」
ヤマビコ草はヒマワリに似た植物で、一本一本が大きい。それが全部で五本、それなりに作れるんじゃないかと思っている。
まぁテントみたいな大きさの物もあるので足りない場合もあるが・・・その時は追加で買いに行こう。
ちなみにこの植物は「音を溜め込む」という謎の性質があり、尋問や会議の際のボイスレコーダーのような魔道具に使われる。
犯罪性も高いアイテムの為それなりにお値段が高く、また各ギルド長の許可が無ければ購入できない。
僕の場合はギルマスさんが許可してくれた。
「『神様のレシピ本』発動──ヤマビコ草に『加工』」
《『ヤマビコ草×5』を『ヤマビコ草の伝糸×20』に加工します》
いつもの様に素材は繊維が解される様にバラけて、糸玉に変化していく。
糸巻のような動きでくるくる回り始めた糸は、片手に乗るサイズまで大きくなるとそのまま手元に落ちてきた。
「太さは2号くらいかな、あまり大きな物は作れないね」
「おねーちゃん、この糸プルプル震えてるの! 指がこそばいっ」
「がうううううううううううううっ」
「あぁ、ミミちゃん噛んじゃダメだよ。ペッしなさい、ぺっ」
糸に噛みついたミミちゃんが、バイブレーションのようになっている。
何かよく分んないけど楽しかったらしく、同じことをして遊んでいるんだが歯が痛くないのかな?
震えているという事は糸ノコに使えたりするのかな?
とりあえず出来上がった糸に鑑定をかけてみると以下のように出た。
【ヤマビコ草の伝糸】
ヤマビコ草の性質が色濃く残った糸、糸同士で響き合う能力がある。120メートル
長い間放置されて、少し怒っている。
「怒ってるって何っ⁉ ていうか前も思ったけど、ちょいちょい鑑定に感想入れてるの誰っ⁉」
「おねーちゃん、悪いことしたら謝った方が良いの!」
「えっ、これ僕が悪いの?」
「がうっ」
何か知らんが僕が悪いらしい、とりあえず謝っておこうゴメン。
「伝糸さん、これからはいっぱい活躍して貰う・・・と思います。謝るので力を貸してください」
《・・・ハァ。『神様のレシピ本』オートモード起動、『山彦糸伝話』『伝話のミサンガ』を作成します》
自分のスキルに溜め息つかれたっ!?
神様のレシピ本が勝手に起動する、これは許してくれたと思って良いのだろうか?
というかスキルの起動って、糸の意思で勝手に動くのか。普通に起動してビックリしたわっ。
出来上がった魔道具は二つ。『ヤマビコ糸伝話』はトゲの付いた組み紐、『伝話のミサンガ』は名前の通り普通のミサンガだ。
ただ注目したいのは二つに共通して書かれている『伝話』の文字、文字こそ違うけどこれはもしかして・・・。
「ピアちゃん、ミミちゃん、道具の実験をしに行こう!」
◇
現在僕は一人で西の森に居る。
出来上がった魔道具の実験でここに来ているのだが、この魔道具は恐らくは「携帯電話」だろう。
「電」が「伝」なのは、たぶん電気を使っていないからなのと、ヤマビコ草の能力で声を伝えているからだと思う。
「そうなると、あと気になるのは通話距離だよね。どのくらいで圏外になるのか調べてみないと。・・・圏外とかあるのかな?」
似たようなものが二つも出来たんだから、何かしら違いがあるんだと思うんだけど・・・通話距離くらいしか思いつかないなぁ。
ちなみに電話のように番号を使わない辺り、同時通話できるのでは? と考えて、ピアちゃんはそのまま宿に、ミミちゃんはエリザベートの所へ行って貰っている。
「あー。マイクテスト、マイクテスト、本日は晴天なり。ピアちゃん、ミミちゃんどうぞ!」
『えっ、まいくて・・・えっ? おねーちゃん、何て言ったの。ピアよく分らなかったの』
『がぅっ! がぅっ!』
「あはははっ! ごめんごめん、気にしないで!」
ちょっとふざけ過ぎてピアちゃんを困らせちゃったらしい。
ミミちゃんは声こそ聞こえるが、やはり言葉だけだと言っていることが分からない。彼女の場合、一方通行の電話になりそうだな。
『お姉様っ⁉ アクセサリーからお姉様の声がしますのっ⁉ ミミちゃんっ、このアクセサリー私に下さいましっ!』
『エリザ、ミミちゃんに無理を言ってはいけないよ』
「おっ、二人の声も聞こえるね!」
ふむふむ、携帯電話のスピーカー状態って感じかな。
結構声の位置が近いから、そこまで広く声が聞こえるわけでは無いようだ。
「グループ会話ができる点で言えば携帯電話より便利だね」
『おねーちゃん、ケイタイデンワってなんなの?』
「遠くの人とお話しできる道具だよ」
携帯とかスマホとか、説明しても分からないだろうなぁ。僕も説明できる自信ないけど。
そう言えばこの魔道具って異世界初の電話だったりするのだろうか? 似ている別の物がありそうな気がするけど・・・。
「ねぇ、ジーク、エリザベート。こんな感じで遠くの人と話が出来る道具って他にあるの?」
『聞いたことがありませんの。あ、でも手紙を飛ばす魔法ならありますわ!』
『以前マルクスさんに、念話という遠くの人と話すことが出来る魔法があると聞いたことがあります。ただ実際に会ったことがあり、契約をした人同士でないと出来ないそうです』
「えっ、その手紙を飛ばす魔法がめっちゃ気になるんだけど」
マジかよ、ハ〇ポタじゃん、ハリ〇タ! すごい見たいっ!
それから会話をしながら少しづつ離れて検証したところ、最低でも五人は同時に会話できることが分かり、距離は街の両端までが限界だと分かった。
ただ形がミサンガなので、何かに引っかかって千切れる可能性があるのと、声が漏れるので隠密性が皆無&珍しい道具なので注目を集めることが分かった。
ちなみに魔力を流して使用するのだが、魔力を切っている時に誰かが連絡を入れるとミサンガが震えるらしい。バイブレーションかっ!
なんかこれを利用してマッサージ器作れそうな気がする、作らないけど。
「さて、もう一つの『ヤマビコ糸伝話』なんだけど・・・どうやって使うんだろうね?」
見た目は小さなペグに組み紐が結んである形状の、用途不明な道具である。
糸電話って言ったらコップから糸が伸びているんだが・・・。
「何かに刺して使うのかもしれない」
ペグみたいなのも付いてるし、きっとそうなのだろう。あとは刺す対象は何でも良いのかだが・・・。
糸伝話の使い道を模索する僕。
この時、思考の沼に浸かっていた僕は背後から忍び寄る魔物に気付いていなかった。
「ゲギャギャギャーーッ!」
茂みから音がしたなと振り返れば、ゴブリンが飛びかかってきた。
「うわっ!? のわわわわっ!?!?!?」
僕は驚いて、その拍子に糸伝話を宙に放り投げてしまった。
ひゅーーーーん・・・サクッ!
「ギャァアアァァァァッ!?!?!?」
「──あ、ゴブに刺さっちった」
意外と鋭かったようで、ゴブの頭に落ちた糸伝話は勢いそのままにペグの半分近くまで刺さってしまった。
何というか・・・見ているだけで毛根がヒリヒリする。
かなり痛そうだ(当たり前)。飛び跳ね、転がり、のた打ち回るゴブ。
いくら魔物とはいえ、このままというのも可哀想だなぁ・・・。
しかし抜こうにも暴れ回っているので近付けない。仕方ないのでトドメを刺してあげようと猫爪を構えると、不意にゴブの動きが止まる。
『おねーちゃん、どうしたのっ? 何かあったのっ?』
「あれ? ピアちゃんどこから喋ってるの?」
腕を見るが、ミサンガは魔力を切っている。ということは、もしかして・・・。
僕は倒れているゴブリンに近付く。
『おねーちゃん、お返事してほしいのっ!』
「ゴブからピアちゃんの声がするぅぅっっっ!?」
(ゴブリンからピアちゃんのキュートでラブリーでエンジェルな声がするぅ!? い、いくらピアちゃんでもこの姿は愛せる自信がない・・・)
ものすごく不快なのでゴブにトドメを刺して糸をスポッと引抜いた。
それから偶然見付けたアルミラージに再び糸伝話を突き刺し色々と実験を繰り返した結果、ミサンガとの違いが色々分かった。
まず糸伝話の方が、通信距離が圧倒的に長い。限界距離は分からなかった、もしかしたら別の国同士で会話が出来るかもしれない。
次に、ミサンガとは違い話せるのは一対一。魔力を流した者にしか使えない仕様だ。
そして此処が一番重要なのだが、相手が生物の場合、刺さった生き物の意識と
先程確認してみたら、ピアちゃんには僕の姿が見えていたらしい。つまりテレビ電話になると言う事だ。
中々面白い魔道具だと思う、使い方次第では楽しいことが出来そうだ!
こういう使い道を考えるのは、物作りにも通ずる所があるのですごく楽しい。すごく楽しいんだけど──。
(ゴブを背中側からトドメを刺してよかったぁああぁぁぁ!! 一歩間違えたら、ピアちゃんにトラウマが残るところだった!!)
僕は偶然にも、九死に一生を得るのだった。
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