5-⑭ 兎は仕事環境を改善したい

 「さて、減刑による自由は許したが、本来は盗賊を雇用する場合は魔法による契約を行う。だが執行官が居ないことと、ユウからの願いに免じて無しとしておく。言っておくぞ、この子を裏切ったら──絶対に許さん」

「決して裏切らず誠心誠意お仕えする事を、祖父トラノオの名に誓います」

「ならば良し、期待している」


 これにてアンサスさんの件は一件落着となった。

 一応契約とか行動制限する物とか言われた時の代用品は用意してあったんだけど、使わずに済んで良かった!


 それから皆を連れて移動したのは、他の盗賊さん達が捕まっている場所。

 そこには叫び声こそないが、地獄絵図が広がっていた。


 発狂した様な表情の髭面のおじさん、白目を剥いて泡を引いているおっちゃん、左右の目で別の方向を向きながら痙攣しているお兄さん等バリエーション豊か。

 他にも色々な状態の人が居るが、さてどの状態が一番幸せなんだろうね。


 盗賊さん達が縛られている場所には、昨晩とは違う騎士さんとガルドさん達も居た。

 念の為見張っていてくれたらしい、流石気配りの男ガルドさんである。


「ガルドさん、マルクスさん、クレアさん、騎士の皆さんも、おはよう御座います!」

「おう、嬢ちゃんおはよう。嬢ちゃん、コイツら今朝からこんなんなんだが何か知らねぇか? というかお前だろ?」


 名探偵ガルドさんの推理に皆頷く。

 どうやら皆そう確信しているらしい。


「フッフッフ・・・よくぞ見破った。そう! 私が今回の事件のっ『真面目にやれ』──はい、すみません。僕です」


 なんだよー、ちょっとくらい遊びに乗ってくれたって良いじゃーん!


「嬢ちゃん、自分では何もしねぇってって言ってなかったか?」

「うん、直接は何もしてないよ。悪いことをした糸を伝って罰が下ってるだけ! ちゃんと罪を認めて悔い改めればすぐにでも楽になると思うんだけど・・・この分だとまだまだだね。改心するまで一ヶ月でも半年でも、まともに寝ることも出来ないよ」

「エゲツねぇな・・・」

「お姉さん、考えただけで吐きそうになってきた」

「文字通り生き地獄と言うやつですね」


 みんな同情こそしないものの、青い顔で気の毒そうに盗賊さん達を見ていた。



「あっ、この人達に今まで依頼をした人全員に同じ罰が下ってると思うよ! これで世の中がちょっと平和になったね☆」

「嬢ちゃんは鬼かっ!?」


 えー、心から罪を認めたら良いだけじゃん。

 救いがあるだけ優しいと思うんだけどなぁ。


「まぁ、人権を侵害した人の人権なんて守る必要無いし、良いでしょ!」

「おねーちゃんに甘える時間を邪魔した天罰なの!」

「がぅっがぅっ、がるるるぅぅぅぅ!!」

「外道に生きる資格は無いのであります!」

「まぁ当然の結末だな」

「生きておるだけ、お姫様ひいさまに感謝をするので御座る」

「吾も異存なし」

『マーマの・・・邪魔する人・・・キライ』


 ほら、うちの家族の意見は一緒だよ!

 先程の説明通り、実は心から罪を認め、罰受け入れ、謝罪し、悔い改めれば、この状態は解除される。


 まぁ解除されると言うよりストレスから解放されるだけだが、だいぶ楽になるはずだ。

 だが、罰を受け入れるということは自分たちを襲っている神力を受け入れるということ。


 どこの世界に、劇物を身体に受けれる人間が居るだろうか? だが罪を認め、受け入れた先に贖罪の機会があるのだということを知ってもらおう。


 罪を認めて心を入れ換える、もとい入れ変える、これを『改心』と言うのだと僕は思う。


 因みに重圧に耐えきれず自害したところで、糸は魂に繋がっている為逃げられない。

 それどころか贖罪の機会すら無くなり、永遠の地獄が始まるのだ。


「『過ち改めざる、これを過ちという』ってことだね」

「そりゃ誰の言葉だ?」

「昔の偉い人!」


 僕が「うししし」と笑って答えると、ガルドさんは「まぁ天罰だな」と溜め息をつくのだった。


「放置も出来んし、騒がないだけ助かると考えるか。全員を第二馬車の荷台に乗せろ。使用人達は第一馬車へ移動だ、狭くなるが相乗りしてくれるか?」

「畏まりました! 全員指示に従い行動せよ!」


 そっか、アニメみたいに盗賊さんを馬車で引っ張るわけにもいかないのか。

 某アニメに出てくる変態騎士でもない限り、馬車に引っ張られて喜ぶ人などいないのだ。


「かと言って、代償に騎士さんやメイドさんが窮屈になるのはイヤだなぁ。幌馬車とは言え空気も籠もりそう・・・まったく盗賊のおっさん共めっ、お仕置きをし終えても迷惑な奴らだなっ!」


 まぁ、愚痴を言っても仕方ない。というわけで僕はミミちゃんに保管して貰っていた素材を出して貰う。


 取り出して貰ったのは、ラッパのような形の花が付いた植物。これは毛糸の素材を集める際に手に入れた物で、「エアリアルツリー」という魔樹の一部である。

 この機動戦士を彷彿とさせる名前の植物は名前から想像できないほど物騒なやつで、なんと80m近い遠距離から空気の弾丸を撃ち込んでくるヤバい植物だった。


 高速で近付いたミミちゃんにより呆気なく討伐されたが、そうでもしなければ遠距離からスナイパーのように急所を打ち抜かれていたかもしれない。ミミちゃんに感謝だね、良い子良い子!


 そしてエアリアルツリーに続き取り出したのは「薬草」、これは普通の薬草。

 この二つをレシピ本で加工していく。エアリアルは少量で良いが、薬草は結構な数がある。まぁ作る数が数なので仕方ない・・・足りるよね?


「《神様のレシピ本》起動! エアリアルツリーと薬草を糸に変換」

《『エアリアルツリー』を『清浄の空糸』に、『薬草』を『快癒の治糸』に加工します。サイズを指定して下さい》

「じゃあ、『清浄の空糸』は四号。『快癒の治糸』は八号で宜しく!」

《畏まりました、加工を開始します》


 スキルの声に合わせ宙へ浮かぶ素材達、それらは一瞬強く光ると毛糸玉になり手元に落ちてきた。


──ポコポコポコポコポコポコ


「っと、あわちゃちゃちゃちゃちゃっ、めっちゃ出てきたっ!? そういえば薬草一つで結構毛糸玉作れるの忘れてたよっ!!」

「山盛りなのー、すぐ使わない分はミミちゃんに入れておくのっ!」

「がうっ、がうっ♪」


 ピアちゃんの機転で毛糸玉を土に落とさずに済んだ・・・んだけど、ピアちゃんがミミちゃんで毛糸玉を受け止める姿が餅撒きをキャッチする時のポーズになっていて・・・二人ともそれで良いのかい?

 あっ、楽しいからOK? まぁ本人が良いってならいいんだけど・・・。


 糸に加工し終わって、僕が魔道具作成作業をしている間に各々出立の準備を進めることと慣れた為、解散となった。


 ガルドさん達、使用人のみんな、騎士さん達は身支度や装備品の手入れ、消耗品の補充を。


 アンサスさんはお風呂に連れて行かれ、身なりを整えに。


 スピンドル一家は騎士団長、ガルドさんと簡易的な地図を見ながらルートの確認。


 アニマル’sはテントの片付けや盗賊の移動を、セレナは僕のポケットでお昼寝、ピアちゃんとミミちゃんは作業の手伝いだ。

 といっても横で見ているだけだが。


「おねーちゃん、何を作るの?」

「騎士さんやメイドさんが、狭い馬車でも休めるような物を作るんだよ!」

「クッション?」

「うーん、惜しい! 出来上がってからのお楽しみね!」


 教えて貰えず悔しかったのか、ぷくーと膨れるピアちゃんのほっぺを楽しみつつ僕は『清浄の空糸』を手に取る。


「《神様のレシピ本》オートモード起動。『清浄の空糸』を加工」

《『清浄の空糸』を魔道具に可能します、加工先をレシピ本より選択して下さい》


 目の前に出現したレシピ本はペラペラと勝手にページが進み、『清浄の空糸』から作れるリストの欄で動きが止まった。


 『清浄の空糸』はエアリアルツリーの特性『空気を作り出す』という能力を受け継いでいる。

 何と驚いた事にあの魔樹、あの空気の弾丸に使用する空気を光合成で賄っていたらしい。


 すごく自然に優しい魔物だ、人には優しくないけど。


 この糸は発射口が無いので、刺激を受けると超高速の光合成で空気だけを作る。つまるところ空気清浄機みたいな糸なのだ。

 ただその性質上、光に当たる場所に置かねばならない事と、光の当たる面積が重要である事。

 そして使用面として邪魔にならず、叩くなりして刺激を与えても勝手に元の位置に戻る物が望ましい。


「となると、これが良いよね! これで決定っ、加工開始!」

《『清浄の空糸』を『清浄の起き上がり小法師』に加工します》


 レシピの音声に従いしゅるるるるぅーっと解けていった清浄の空糸は、殆ど待つ事なく20cm程の達磨に加工されて手元に戻ってきた。ちなみにウサギ達磨である。


【正常の起き上がり小法師】

 『清浄の空糸』から作られたあみぐるみ。

 刺激を受けると周囲の悪い空気を吸い光合成する、リラックス効果あり。

 どの様な叩き方をされても設置場所から動かない、不屈の魂と根性で起き上がってるよ!

 

「根性で起き上がってくるって何だっ!?」

「・・・お人形さん? 変な形してるの」


 ピアちゃんが起き上がり小法師を指でつつく。

 すると起き上がり小法師は、倒れそうになるのを必死で耐え元の位置に戻ってくる。

 耐えている様子はすごくファンシーだが・・・なんだコレ?


「これはもう起き上がり小法師では無くないか?」


 時々このスキルで作る魔道具は、変な効果が発生する。それは作ってみるまで僕にも分からない。

 その為、この魔道具が意味不明な変化を起こしていた事に僕も後になってから気付くのだった。

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