4‐⑱ 猫と仲間と日常への帰還

 僕は腕の中にミミちゃん、膝にピアちゃんという完璧なフォーメーションでアニマル’sの戦いを観戦していた。

 エリザベスさん曰く、自分達だけで戦わせて欲しいと願い出たらしい。

 だが相手は多少弱体化したといっても、曲がりなりにも偽神。怪我をしないだろうかと心配で仕方ない。

 これは男の意地の戦いとやららしく、邪魔せず最後まで見ていてやれとエリザベスさんが言うので、僕はハラハラしながらじっと見守っていた。心配だが男の意地なら仕方ない、手出し無用がマナーなのである。


「あぁっ、ポルトスがジリジリ押されてるっ!! えっ、そんな真正面からっ!? 危ないっ危ないって、怪我しちゃうってーー!」

「アンタはあの子達の母親か何かかい? もうちょっと落ち着きなっ、全く・・・」


 だって、あんな小さな体で大きな相手と戦ってるんだよっ!? 心配に決まってるじゃんっ!!


 アニマル’sはポルトスを壁に接近戦を挑むらしい、4匹の役割を完全に分担し陣形を組んでいた。

 ポルトスはスキル重視のタンクだったらしく、スキルを駆使してゆっくりとだが着実にスクナに近付いる。そしてそれを補助するのがアラミス、役割としてはバッファー兼ヒーラー。それでいて戦闘もある程度熟すのだから、ある意味万能型なのだろう。見た目は白まんじゅうだけどなっ!

 そしてスクナとの距離が数メートルとなった時に反撃が始まった。うわっ顔面直撃の反射攻撃、痛そー・・・。

 その衝撃で仰け反ったスクナを捕らえるのがアトス。彼の凄い所は、あのスクナに対し使用している魔法全てにおいて

 魔法は詠唱しなければ効果が下がる、つまり下がっているのにあの威力だということだ。地味にすごい、今度魔法を教えて貰おう!

 そしてそれを合図に飛び出したダンタルニャン、相変わらず素早いっ! あっ、こらっ目の前でチャージ技なんて使ったら危ないでしょっ!? 怪我したらどうするのっ!! めっ!


 僕は百面相しながらアニマル’sの勇姿を見守る。

 最後にスクナが放った咆哮に少し耳を痛めつつも、ダンタルニャンの白銀の光刃がスクナを討ち取る瞬間をしかと見届けた。


「すごいっすごいっ! 皆頑張ったね、戻ってきたらいっぱい褒めてあげないと!」


 アニマル’sは勝鬨を上げ喜びを分かち合った後、此方へ駆け寄ってくる(一匹は飛んできた)。その様子はまるっきり子供である。


「姫っ、姫っ、吾輩頑張ったのでありますっ! 無事に討ち取ったのでありますっ! 見ていてくれたでありますかっ!」

「姫さんっ、俺も全部防いだぜっ! 何か敵のすごい攻撃っぽいやつも防いだぞっ、しかも跳ね返してアイツの顔に当ててやったぞっ! すごいだろっ!」

「お姫様ひいさまっ! 拙者、皆を守る為に補助に徹したので御座るっ! あの大きな木の根っ、あれ拙者で御座るっ! 弱点を見付け申したのも拙者で御座るっ!」

「吾は皆も、エリザベス殿も、ドラニクス殿も傷一つ残さず回復しました。戦闘ではあまり活躍出来ませんでしたが、裏役を完全に熟しました。知っていて戴けると嬉しゅう御座います」


 周りに集まってきたかと思えばニャーニャー、ワンワン、キューキューと捲し立てる様に話し掛けてくる。内容はまちまちだが、つまりは「頑張ったから誉めて欲しい」ということなのだろう。

 僕は彼等の顎の下、耳の裏、頭をゆっくりと撫でてあげる。

 毛並みに逆らわず、労わるように、マッサージをするように手を動かすと気持ち良さそうに目を細めて、ダンタルニャンに至ってはごろごろと喉を鳴らし始める。


「にゃぅ~~ん、至福でありますぅぅ~~~~」


 僕はうにゃんうにゃん言っているダンタルニャンの耳を掻いてあげる。

 こうして触ってみて初めて気づいたが、彼等に編みぐるみだった頃の名残は全く無く、完全に動物と化している。

 綿とは違う柔らかさで触れれば暖かい、勿論瞬きも呼吸もしているし、毛質だって生き物特有のものだ。かといって、完全にリアルな動物かと言われるとそうでもなく、どことなくデフォルメされている感じもある。アラミスなんてシルエットが鳥というか鏡餅だ、何ともメルヘンな光景である。

 その後、僕がずっとアニマル’Sばかり撫でていたからだろう、膝のピアちゃんやミミちゃんからも撫でろとの要求が入ったので、僕は彼女等も労わるように撫でた。


 そうこうしていると、遠くから沢山の人の気配が近寄ってくる。どうやらアルバートさん達が戻ってきたようだ。


 「あっちも無事なようで良かった」と安心して息をつく僕に、ギルマスさんが服を片手に声を掛けてきた。


「ユウ、女子おなごがそのような恰好のままではイカン。ひとまずこれを羽織れ」


 彼に言われて初めて気付いたのだが、僕の服はヤバいくらいに焦げて破れてボロボロになっていた。

 上の下着なんて半分モロ見えだし、何なら下着そのものもボロボロになっている。ちなみに犯人はほぼエリザベスさんイグニス・アルマである。

 ギルマスさんが差し出してくれたのは、先程まで彼が着ていたシャツ。多少ボロボロになっているものの、小柄な僕の体を隠すには十分であった。


「ありがとう御座います! いやぁ、全然気づきませんでした。あはは!」

「いや、気を付けた方が良いと思うぞ。周りの者の為にも」


 周りの人の為にってどういう意味だ? まさか、僕の胸はそんなにも見苦しいものだったのか⁉

 体の割に大きくて形も良い、最近ちょっとだけ自慢だったんだけど・・・そっかぁ。

 地味にショックを受けつつ、そんな見苦しいものを隠すために大人しくシャツを借りた。


 アルバートさん達が駆けつけてくる、ガルドさんやジーク達も一緒に来たらしい。

 ・・・いや、何で当主と次期当主が一緒に危険地帯に来るんだよ、おかしいだろう。

 呆れてものが言えない。ついでい言うと疲れて何も言えない。僕は黙って皆がやって来るのをその場で待つ事にした。


「ユウッ! 大丈夫かっ、怪我してないか⁉」

「嬢ちゃん、無事かっ! って、何かいっぱい居ねぇかっ⁉」

「ユウちゃんっ、お姉さんが来たよっ! もう安心だから・・・何っこの子達っ⁉ 可愛いっ!」

「お兄様っ! お姉様が猫になってますのっ! もふもふもいっぱい居ますのっ!!」

「あらー! ユウちゃん、可愛くなっちゃってぇー。うふふ♪」

「姉様・・・無事でよかった・・・」


 場が一気に賑やかになる。ちなみに二人程声が聞こえないなと思っていたら、マルクスさんはダンタルニャン達に対し跪いて祈りのポーズ(?)のようなものをとっていて、ゴンズは猫になった僕を見て唖然としていた。


 喧しいことこの上ないが、この騒がしい雰囲気に包まれてようやく僕は全てが終わったのだと実感したのだった。

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