4-⑰ 猫と偽神とアニマル’s
「皆っ、姫からの指令が下ったのであります。悪鬼は排除でありますっ!」
「あいよっ!」「承知」「了解した」
姫の元から戦場へ戻った吾輩は、下された命令を皆に伝えるとその足でエリザベス殿の所へ向かったのであります。
彼女はスクナの力が目に見えて下がっていることに気付き、何やら技を繰り出そうとお考えだったのでありましょう、武器を片手に構えを取っていらっしゃいました。吾輩はそんな彼女に待ったをかけたのであります。
「エリザベス殿、少々お待ち下さい。此度の戦、
「あん? 別に構いやしないよ、だけどアンタに出来るのかい? アタシの見立てじゃアンタじゃまだ勝てないよ?」
「策はあるのであります。何より、姫に我々の雄姿をお見せしたいのであります。姫に侍るものが強者であることを知っていただきたいのであります!」
「そこまで言うならやってみな、男なら一度吐いた言葉を違えるんじゃないよ」
「感謝でありますっ!」
エリザベス殿は吾輩に一言釘を刺すと姫の元へ移動されました、吾輩の代わりに護衛に付いてくれるらしいのであります。どうやら、吾輩が有言実行できるよう手助けをしてくれるのでありましょう。
奥を見ればドラニクス殿も姫の元へ移動し始めた様子、あちらもポルトスと話が済んだのでありましょう。空を飛んでいたミミ殿も同じく姫の元へ帰っておられました。
これで悪鬼と対峙しているのは吾輩達だけとなったのであります。彼奴の視線が吾輩の方を向く、恐らく吾輩の後方に姫が居るからでありましょう。
彼奴は力を取り戻そうとしているのか、技を防がれてもなお姫を狙い続けているのであります。なんという執念深い奴でありましょう。
『GuOoooooooooo!!!!!!』
立ちはだかる吾輩に怒声を上げる悪鬼、しかし吾輩は動じることなく睨み返す。
騎士としての誇りが、姫に対する敬愛が、あのような大声如きで揺らぐはずがないのであります。
少し縮んだといっても彼奴にとって吾輩達は鼠のような存在、しかし鼠とて油断すれはどのような手痛い反撃を受けるかその身に教えてやるとしましょう。まぁ吾輩は鼠ではなく猫でありますが!
そして悪鬼との僅かな睨み合いが続く間に、吾輩の元に仲間達が再び集ったのであります。
「よう、待たせたな。で、俺等だけでアイツをとるのか?」
「悪鬼の氣は、減れどまだ拙者等を上回っておる。首級を取るとなると少々無理する必要が御座る」
「となると、一点突破であろう」
「『
簡単に意見を交換し合った吾輩達はすぐさま己の配置に着く、『鏃の陣』とは己よりも強い敵に対し特攻を仕掛ける陣形であります。
悪鬼を正面に前にポルトス、二メートル開けて吾輩、そして後方にアトスとアラミス、これで陣は成った。そんな吾輩達の様子に悪鬼も何かを感じ取ったのでありましょう、再びあの号砲を放ってきたのであります。
『Aaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!』
後が無いとでも思ったのか、今度は先程の数倍神力の込められた砲撃。余波だけで脳を激しく揺さぶる騒音と、内臓に打ち付けられる振動。思わず膝をつきそうになったのでありますが、姫にそのような情けない姿は見せられないと思い立ちバックラーを構え耐えるのであります。
そして迫りくる攻撃の本体、しかしそれはポルトスの盾にとって防がれることとなったのであります。
「『ラージシールド』『マジックシールド』『アイアンターゲット』、おらぁああぁぁぁぁぁ!!」
ポルトスは元々の高い防御力に加えスキルを重ね掛けすることで無敵の盾を作り上げる騎士であります。
敵意を一身に集めたポルトスは、壁のように巨大化した盾を構え砲撃を防ぐ。鼓膜を
襲い来る衝撃に後退こそしないものの手からは血が噴き出し、後方に居る吾輩達の頬に赤い飛沫を飛ばす。通常ならば数秒で手を放している事でありましょう、しかしポルトスの剛腕と後方に控えるアラミスの支援が盾を決して崩れさせないのであります。
「『癒しの波動』『五色の加護』」
聖魔法を極めた
吾輩達全員の体を包む癒しの光と、五重の身体強化。それを視認したポルトスはニヤリと笑い、更に盾を前へ前へと押し込んでいったのであります。
「『シールド・チャージ』!!」
地を割り突き進むポルトス、それに追従する吾輩達。激しい砲撃のなか尚も盾は突き進み、遂に比嘉との距離は約三メートルほど。そこでポルトスは受けていた攻撃を、砲撃の為に四つん這いになっていた悪鬼の顔面目掛け跳ね返したのであります。
「『シールド・パリィ』!!」
あれだけの攻撃を至近距離から返され大爆発、今まで痛がる様子すら見せなかった悪鬼も流石に顔を大きく逸らし後退する様子を見せた。そこへアトスの追撃が入ったのであります。
「『大樹の縛』」
悪鬼の足元から生えた太い根は彼奴の手足と触手を縛り、地面へ
そこへ追撃とばかりに二つ目の魔法が発動したのであります。
「『針の
アトスの発動させた魔法により無数の針が悪鬼へ襲いかかったのでありますが、刺さりこそすれ彼奴にとっては小さな針。多少嫌がる素振りを見せた程度でありました。
しかしそれで良いのであります、吾輩達の目的は別にあるのでありますから。
「見えたっ。ダンタルニャン、奴の額に御座る!」
「了解でありますっ!」
アトスの言葉に吾輩は仲間の敷いた陣から飛び出し、一直線に悪鬼の額へ向かったのであります。
先程行ったアトスの魔法、あれは悪鬼の中にある核を探す為のものでありました。以前に姫がおっしゃられていたように、相手の姿形は変われど結局はスライム。必ず弱点となる核がある筈なのであります。
魔法の針の雨の中、唯一攻撃を避けようとした場所、それが『額』。
確かによく考えると最も安全な場所でありましょう、声による砲撃の時以外はあの巨体の最も高い位置にあるワケでありますから、攻撃のしようが無いのであります。
ですが今は地に横たわり、更には四肢をアトスにより
目前に迫る吾輩の姿に悪鬼は咆哮を上げ暴れ出すが、それをアトスの魔法が阻止する。
スライムであるのだから、ゲル状になり逃げることも可能なのではないかという考えも過ったのでありますが、曲がりなりにも人型を保っている為かその様子はないのでありました。
額の核が視認できる距離まで近付く、核は恐らくその体を構成するスライムの核すべてが集まったのだろう、無数の泡がそのまま石になったかのような歪な形をしていたのであります。
吾輩の姿を目にし、悪鬼とスライム半々になった目を剥く。
吾輩は闘気を剣に纏わせ構える。剣の帯びた白銀の光はそのまま刃先の形となり、吾輩の身長の倍ほどまでに伸びたのであります。
『GAaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!』
最後の抵抗とばかりに大声を上げるのでありますが、そんなものは何の抵抗にもならないのであります。だが──。
「無礼者っ、その汚い口を閉じるのでありますっ! 姫のお耳に障ったら、どうするのでありますかっ!!」
遠くで、その愛らしいお耳を痛そうに抑えるお姿が見えたのであります。
本当に最後の最後まで、姫にご迷惑しか掛けぬ無礼者でありますなっ!!
吾輩は姫への使命感と、騎士の誇りと、最後の怒りを込めて剣を振り下ろしたのであります。
「猫騎士剣術『
吾輩の放った二振りの剣戟は十文字の巨大な斬撃を生み、悪鬼の核を塵と化したのでありました。
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