4‐⑯ 猫と目隠しと音響兵器
僕の胸に飛び込んでくる、桜色のセミロングで花弁を集めたような服装をした幼い女の子。
「マーマッ、マーマッ!」
魂だけだからか、重さも触れられている感覚も無い。体は半透明で、実体が無いことが伺える。やはり助け出しただけでは、食べられた体は復活しないらしい。
可哀想だとは思うが、相手がスライムで良かったとも思う。これが悪喰だったなら、魂も残さず食べられていたことだろう。
それでも、こんな幼い子供(実年齢は分からないが)があんな空間で必死に堪え続けていた、本当に偉いと思う。僕は労わるように、安心出来るように声を掛けた。
「よく頑張ったね、痛かったでしょう? もう大丈夫、僕が守ってあげる。何も怖がらなくていいよ、よしよし」
触れられないのでよく分らないが、僕は頭を撫でるように手を動かした。
すると少女は少しでも安心できたのか表情が安らぐ。胸に頭をぐりぐりする様子は、出会った頃のピアちゃんそっくりだ。
「マーマ。マーマのなか、やすみたい。いい?」
「僕の中? 良いよ、入っといで。あとで出て来れるんだよね?」
「うん。げんき、なったら、でれる」
「わかった、じゃあお休み」
僕がそう言うと、少女は僕に溶け込むようにスゥっと消えていった。
この子を安心させるのを優先してスルーしていたが、なぜ僕をママと呼ぶのか? 一度たりとも母親になった事はないのだが・・・。まぁそもそも、一度たりとも女として生まれたことも無いのだが。
後で訂正させて貰えるだろうか? 十五歳で子持ちはちょっと・・・。
僕の周りは主張を強引に突破してくる人物が揃っている。この子もそうだったりするんじゃなかろうかという一抹の不安を抱きつつも、無事に少女の救助に成功。僕はスクナに向き直った。
スクナはエネルギー源を失ったためか、徐々にその神気が薄れていくのを感じる。巨体から放たれる攻撃も皆によって封じられていた。
”もう手段は選んでいられない”、そう思いでもしたのかスクナは一度大きく腕を振り抜き、纏わりつく皆を引き剥がす。そしてその場で四つん這いになると、僕の方へ顔を向け口を大きく開いた。
「・・・? なんだ? 何やってるんだ?」
高い位置にある頭をわざわざ下げる恰好、攻撃してくれとでも言っているようだ。
スクナの理解できない行動を警戒し僕達は全員動きを止めた、すると次の瞬間飛んできたのは『見えない砲弾』だった。
『Aaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!』
「──っ⁉ ピアちゃんっ!!」
嫌な予感がした僕は、咄嗟に横に居たピアちゃんの耳を塞ぐように抱き締めて床へ伏せる。
次の瞬間体に叩きつけられる大音量、耳だけでなく全身に響く凄まじい振動──『音響兵器』、僕の頭の中に浮かんだイメージはそれだった。
スクナから放たれたそれはソニックムーブの衝撃と音の振動による共振破壊を起こし、放射線状にあったものを尽く崩壊させていった。
「──っ!!」
空気が震える。続けて襲い来るであろう衝撃に身構えた僕、しかし何時まで経ってもそれはやって来ない。不思議に思った僕は、揺さぶられた頭を多少ふら付かせながらも体を起こした。
「あれ? 何ともない?」
見ると僕の居た線上だけ攻撃が避けていた。
不思議に思い振り返ると、そこには盾を構えたポルトスが居た。
「姫さんっ、ピア様っ、大丈夫かっ!!」
どうやらポルトスが僕達を攻撃線上から遮ってくれたらしい、左右を見ると床や建物が粉々になっていた。ポルトスが居なければ僕達もあちらと同じ末路を辿っていたのだろう、ポルトスに感謝だ。
「ポ、ポルトス・・・ありがとう。僕は大丈夫!」
「──ぷはっ! ピアも大丈夫なのっ! おねーちゃんも、ありがとうなの!」
僕の胸から息苦しそうに顔を上げたピアちゃん。
彼女の全身を見るが、砂埃にまみれているだけで無傷。僕は猫耳から血が出ているものの、特に怪我はなし。「この耳って血が通ってたんだなぁ」と、謎の納得感を感じた。
空に目を向けると、ミミちゃんが燕のように空を飛んでいる。他の皆も元気そうで良かった。
「それにしても今のは何なんだったんだろう、咆哮かな? でもあれってドラゴンとかの技だよね?」
「たぶんさっき助けた女の子の力なの、その子の力は音とか声とかだと思うの!」
「なるほど、力を吸い取ってたんだもんね。十分あり得る話かな」
朧げに覚えている、あの子は捕らわれながらも唄っていた。たぶん『唄の力』なのだろう。
そんな平和な力も、使い方によってはこんな事が出来るわけだ。
スクナは先程の攻撃で貯めていた神力を大分消耗したのだろう、目に見えて神気が薄まっていた。
ギルマスさんの言う通りあの巨体の維持にも神力を使っていたのだろう、サイズが縮んでいて今では三階建ての建物程度になっていた。目算三分の一程になっている。
だがスクナもただ弱体化しているわけでは無いようだ、動きは機敏になり、背中・・・どっちが背中だろう? 背中合わせの体でどちらが前か分からないが、背面らしき方からスライムの触手がたくさん生えていて、何か卑猥だった。
「うん? おねーちゃん、何でピアノお目目を隠すの?」
「何となく子供が見ちゃいけない光景な気がして・・・」
あの光景は子供には早すぎる、僕はピアちゃんのお目目が穢れないように視界を遮った。
少女は助け出せた、後は倒してしまっても問題ないだろう。あの子を助けた後となれば、あれはただのデカいスライムだ。
別にスライムだからって殺していいわけじゃないけど、ほおっておくと街を壊してしまう。悪いけど排除させて貰うしかない。
とはいえ”ただのスライム”と言い捨てられる程弱い存在でもない、相手は改良された特殊スライムで未だ神力を持ち続けている。エリザベスさん達だってあまり無理はさせられない。
さてどうしたものかと考えていた僕の元に、ダンタルニャンがやって来た。
「姫っご無事でありますか?」
「うん、お陰様で」
「目的は達せられたようで、何よりであります! この後は如何なされるのであります?」
アニマル’sはまだ余裕がありそうだ、彼等だけでスクナを倒せるだろうか?
「神力がだいぶ抜けたとはいえ、それでも強いと思うけど・・・ダンタルニャン、何とか出来る?」
「片手間でありますな、どうか吾輩共にお任せを!」
凄い自信だな、なら彼らに任せるとしよう。
「じゃあ後は任せた、徹底的に排除しちゃって」
「御意であります!」
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