4‐⑲ 猫は戦後状況を聞く

 激戦のあと僕達は、アルバートさんと事の詳細と顛末の情報共有の為に一度領主邸へ移動することになったのだが・・・移動中に僕がぶっ倒れたらしい。知らんけど。


 皆疲れていたこともあり、仕方ないので先に寝かせて話は後からということになった。

 僕はそのままアニマル’sに運ばれ客間に寝かされたらしいのだが、1日2日と時間が経っても起きる様子は無く、結局目を覚ました頃にはあの戦いから一週間も経過していた。


「へぇ、そんな事が起きてたんですね!」

「呑気ねぇ、私達がどれだけ心配したと思ってるのぉ?」

「お姉様っ、ヒドイですわっ! 私、お姉様が心配で心配で夜しか眠れなかったというのにっ!」

「それは普通じゃないかな?」

「がうぅ~がうぅ~!」


 心配そうに顔をぺろぺろ舐めてくるミミちゃんを相手しながら、僕はベットの上で寝ている間に起った事を聞いていた。

 現在部屋にいるのはマルセナさんとエリザベート、そしてピアちゃんとミミちゃんのみ。僕が寝間着だからということで男性立ち入り禁止なのだ。ちなみにアラミスだけは治療の名目で特別に許可されている。

 ジークくらい子供なら良いんじゃないかなと思うんだけど、まぁ日本でも『男女七歳にして席を同じゅうせず』とも言うし、彼は十歳くらいだからアウトなんだろう。

 ちなみに言葉の意味は知らない。


「ピアちゃんは騒がなかったんですか?」


 彼女は今、僕の胸に普段以上に頭をぐりぐりしている。何かいつもと感触が違うなと思ったら、下着を付けていなかった。きっとボロかったので捨てられたのだろう。

 ピアちゃんが沢山ぐりぐりしてくるのも、下着が無いので頬擦りし易いからだと思う。

 その様子に心配をしていた雰囲気は無い。


「力を使い過ぎて倒れたから、溜まったら起きるって言って心配そうにはして無かったわねぇ。あ、でも寂しそうにはしてたわよ!」


 たぶん神力の事だろう、一気に使いすぎてオーバーヒートしたのかもしれない。

 力を使いすぎてランクダウンしてやしないかと心配になったが、スキルを見る限りその様子はなかったので一安心だ。


 マルセナさんは冗談を交えつつ話を続けた。

 まず敵組織だが、捕まえた小悪党は大した情報を持っていなかった。なんと誘拐をしている事すら知らない者が居た程だ。コイツ等は纏めて奴隷鉱山もしくは戦場の前線行きとなった。

 軍人らしき者も居たらしいのだが、そいつ等は自決用の術式が仕込んであったらしく、翌日に全員頭が破裂して死亡。大した情報は得られなかったが、所持品から恐らく帝国兵だろうとのこと。

 そして『リアムの転輪』についてだが、スクナを操った男──名前がわからないので一先ず『手前さん』と呼ぶが、手前さんの死体は見つからず、現場にあったのは大量の檻とスライムの死骸だけだったらしい。

 結局何も分からなかったという残念な結果になった。


 拠点となっていた商会は、かなりの大手ということもあり潰されることこそ無かったものの、会長及び会長夫人と長男坊がかなり悪どい事をしていたらしく全員斬首刑。親戚筋であり、副会長補佐を務めていた男が新会長となった。この人は善人らしい(ピアちゃん確認済み)。

 元会長にはもう一人息子がおり、その子は幼く何も知らなかったという理由から無罪。新会長が養子に迎えた。

 一応取り調べは行ったが、やはり元会長もリアムの転輪については何も知らなかった。


 次に救出メンバーだが、騎士冒険者の全員が無事生還。怪我もアラミスと救護所の術師が治療済みらしい。

 ちなみに一番の重症者はギルマスさん。ほぼ全身の骨にひびが入っていたらしい、痛そう・・・。


 スラム街の住民はスラム街がほぼ壊滅してしまったこともあり、いくつかに分かれて市街にテントを張って生活している。

 領主邸の庭にも露店メンバーを中心に住んでいるため、窓から覗いたそこには沢山のテントが貼られていた。

 小悪党が一掃されたためか残っていたスラムの住民は善人が多く、割と街に溶け込んでいるらしい。

 このまま街に移ってくれたら良いなと思っているが、まぁ長い事隔離された環境に住んでいたのですぐには無理だろう。


 変化した事といえば、まずジークが戦闘訓練を始めたらしい。先の騒動で何か思うことがあったらしく、「次は自分も守りたい」と言っているとのこと。誰の事を言っているんだろうか? 「ピアちゃんの事かな?」と聞き返したら、「ジークもまだまだね」と返ってきた、意味がわからん。


 次にアニマル’sが街に受け入れられたこと。

 見た目が可愛らしいのもあるが、市街地の復旧作業に積極的に参加しているらしく、それも相まってすごい人気らしい。


「市街地の復旧作業?」

「そう、あの大きな鬼の攻撃が一部スラムの外にまで影響していたのよぉ。幸い周辺住民は避難してたから、空き巣以外は怪我人は無しよぉ。ユウちゃんの指示のおかげね!」


 たぶんあの音響攻撃だな、見た目通り攻撃範囲が広かったらしい。というか逃げろって言ってんのに泥棒に入った奴誰だよ。偽神とは言え「神を恐れぬ行為」って正しくこう言うことだな、天罰が下ったんだろう。


 ちなみにそんな人気者が僕の事を「姫」と呼ぶものだから、騎士と冒険者以外にも僕の事を姫と呼ぶ人が増えているのだとか。アイツ等は何やってくれてんだっ!?


「今、貴女の事の正体が何なのかギルドで、アンケートという名目で賭けが行われているそうよ。一般の人も沢山参加しているらしいわぁ」


 始めた奴、バカじゃないのかな?

 僕が何とも言えない表情をしていると、マルセナさんは「これはすごい事なんだ」と教えてくれた。


「うちの街は比較的、冒険者と市民の距離は近いの。でも、それでもやっぱり市民にとってギルドって近付き難い場所だったのよ、まぁそれは仕方ないわね。それが貴女という話題一つで取払われたのよ、これすごい事よ?」


 そうなのか、よく分からんが。

 まぁ良い出来事なら、どんどん起きれば良いと思う。


「本人に自覚無しね、そういうものなのかしらぁ」

「お姉様は後程、冒険者ギルドに顔を出して差し上げて下さい。皆お姉様を心配いていらっしゃいました」

「いや、今の情報を聞いて行けるわけないじゃん」


 まぁギルマスさんにお礼を言わないとダメだし行くことになるんだけど、行き辛いなぁ・・・。


 僕が寝ている間に色々な変化が起こってたんだなぁ。特にアニマル’sが街に受け入れられたというのは朗報だ。

 正直還そうかちょっと悩んでいたんだけど、問題なさそうならそのままで良いや!


 その後も細々とした話を聞いていたのだが、一番最後に聞いた情報に僕は目を剥いた。


「はぁっ!? 結婚したぁっ!?!?」

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