5-⑱ 兎のパワーアップ講座
ガルドさんの一撃により綺麗に両断されたハイハンリノセロスは、現在旅のメンバー総出で解体中。
といっても僕は解体した素材を、種類ごとに纏めてミミちゃんに入れる役だ。
(ガルドさん達も騎士さんも、何ならメイドさんすら手伝っているのに、解体に参加させてもらえない冒険者の僕って一体・・・)
メイドさんも参加する中、流石に申し訳なくなって手伝いを申し出たのだがアルバートさんに禁止された。
──何でダメなの?
──やりたいのか?
──やりたくは無いけど・・・。
──じゃあしなくて良い、手に怪我でもしたらどうするんだ。
こんな感じの流れだった、不器用だとでも思われているのだろうか?
「みんな過保護じゃない? さっきまでカブトムシと戦ってたんだよ? 指先の傷とか今更じゃない?」
「みんな、おねーちゃんの事が好きなの!」
「がぅ!」
「まぁ気に入られてるなぁー、とは思うけどね」
「でも一番好きなのはピアなの、ピアが世界で一番おねーちゃんの事が好きなの!」
「がうっ、がうっ♪」
「僕も二人が宇宙で一番大好きだよ」
好きあらばイチャつく、それが僕等姉妹ismである。
「いつも思うが、お前本当に仲良いよな」
「あ、ガルドさんお帰り」
「そういや気になってたんだが、大岩が出たときミミは何処に居たんだ?」
ガルドさんの疑問にももっともだろう。
先程の戦闘でミミちゃんは、敵を叩き落とすという大役を担っておきながら誰も姿を見ていないのだ。
「でしょー、全然見えなかったでしょ? 実は魔蟲の背中にくっついてたんだよ。ねー、ミミちゃん?」
「がうっ♪」
「はぁっ!? いつの間に・・・すげぇなお前」
ミミちゃんはイビキをかくけど呼吸をしない、心音も無いし、歩かないし羽ばたかない、つまり生物の気配らしい気配が一切無いのだ。
しかも念動力で無音高速飛行してくる、言ってしまえば超小型のステルス戦闘機のようなもの。しかも高火力。
「・・・お前は何を目指してるんだ? 最終的に何になるんだ?」
ガルドさんが呆れたような視線をミミちゃんに向ける。
ミミちゃんがどう進化するのかは僕にも分からない、この子は今でも十分謎生物だからね。
僕はミミちゃんに視線を移すと、彼女はピアちゃんの腕の中で楽しそうにしている。
「がうっ♪ がうっ♪」
「かわいいから何でも良いやっ!」
「・・・まぁ、気にしても仕方ねぇな」
話をしている間に片付けまで終わったようで、各々本来の作業に戻っていた。
◇
時間帯も丁度良かったので、本日はこのままここで野営となった。
各々仕事もしくは休息をしている。
「あっ、そうだガルドさん。僕も聞きたいことがあったんだ!」
「あん?」
「ガルドさんってさ、さっきこう剣がピカーってなって、ズバーって切ってたでしょ? あれってどうやってるの?」
ガルドさんはスクナ戦で強固な壁を一撃で切り飛ばすという必殺技を見せてくれた。
それは先程の戦闘でも見せてくれたように凄まじい威力で、彼の二つ名『大斬撃』の元にもなっている。
「僕さ、前にクソ貴族に襲われたとき似たような光が足から出て、剣を受け止めたんだ。だからガルドさんを見て、似たようなことが出来るかもと思って!」
「嬢ちゃん、女がクソとか言っちゃいけねぇだろ・・・」
そこは多様性の時代だから、気にしなくて大丈夫!
ただピアちゃんの教育にも宜しくないので、気をつけようとは思う。
「で、『肉体強化』の話だったな。そもそも嬢ちゃんは人間と獣人のどっちで考えたら良いんだ?」
「それって何が違うの? 強いて言えば、かわいい女神様だけど?」
「それ、自分で言うんじゃねぇよ」
この顔はピアちゃんの顔なので、僕は自信を持って自分が可愛いと言い切れるが何か?
とりあえず、僕がどちらなのかという事実はさて置き話を続けて貰った。
先程ガルドさんが使用していたのは『肉体強化』、それとは別に『身体強化』というものがあるらしい。
「『肉体強化』は防御寄りでな、魔力で体の外側を覆う鎧みてぇな力だ。逆に『身体強化』は『気』とか言う力を身体の中に巡らせて、力強さやら足の速さやらを強化する力だな。ちなみに『肉体強化』は赤く『身体強化』は白く光るぜ」
「似てるようで違うんだね」
「おう、それで『肉体強化』は鎧とは言ったが、強化スキルには違いねぇんだ。だから俺みてぇに剣を肉体の一部と思って魔力を溜めると、あんな事も出来るってぇ訳だ。因みに人間は『肉体強化』、獣人は『身体強化』しか使えねぇらしいぜ」
なるほど、肉体硬化ではなく肉体強化だから、武器強化にも転用できるんだね。
先程のガルドさんの話からすると、剣を受けた時も猫の爪も赤く光っていた。という事は、見た目が兎人族でも僕達の現在の体質は人間なのだろう。
「足も爪も赤く光ってたし、僕が使ってるのは『肉体強化』ってことだね!」
「あん? 嬢ちゃん旅始まってからずっと『身体強化』使ってるじゃねぇか、だから獣人タイプなんじゃねぇのか?」
「えっ、使ったこと無いけど?」
使ってたら流石に分かる、だって光るし。
しかしガルドさんから見ると違うらしい。
「嬢ちゃん、ずっと馬車の上で音聞いてたろ? あれ、身体強化だぞ」
「そうなのっ!?」
「数百メートル先とか、聞こえすぎだと思わなかったのか? 身体強化で聴覚を上げてんだろうよ、たぶん」
身体強化は肉体強化とは違い、五感を含めた身体能力の底上げをするらしい。
その後聞いた説明によると、人間で身体強化を使える者も居るが獣人ほどの上昇効果は見られない上、肉体が損傷してしまう。
逆に魔力の少ない獣人が肉体強化を使うと、すぐにガス欠してしまう。
余程才能に恵まれないと両立は難しいとのこと。
アホ貴族に絡まれた時の謎が解けたな。そして新たな事実も判明する。
「つまり、じゃあ僕って天才? いやぁ〜、実はそうんなんじゃないかなって思ってたんだよぉ!」
あぁ、自分の才能がコワイ!
「天然なんじゃねぇか?」
「どういう意味さっ!?」
◇
夜はようやく完成したスペアリブのコンフィを振る舞った。
食べる量が分からなかったのでビュッフェ形式にしてあったのだが、みんな余程気に入ってくれたのか貴族、騎士、使用人問わず、問答無用の
「
「あらー、貴方はそろそろお腹のお肉を気にしたほうが良いわよぉ。だから私が食べてあげるわぁ」
「奥様っ、使用人はお嬢様の食事を頂く機会が少ないのですっ!! ここは是非私共にっ!!」
「騎士は体が資本でありますっ!! この旅を成功すべく、どうか我々に優先権をっ!!」
「お姉様の物は私のものっ、私のものは私のものですのっ!!」
(・・・肉ゾンビだ)
トングを使った攻防に、スペアリブが宙を舞う。
そこに優雅さは一欠片も無かった。
ちなみに、うちの家族の分は予め確保していたので、ミミちゃんもアニマル’sもそれには加わっていなかった。
もし加わったとしたら・・・ミミちゃんが無双する未来しか見えないな、うん。
肉ゾンビ達に呆れた視線を送っていると、唯一その環に居なかったジークにお礼を言われた。
なんでもオークの肉は骨周りが非常に硬く、とても食べられたものではない。というのが一般的な認識らしく、毎度捨てられるらしい。いわゆるフードロスだ、その量なんと年間約70トン(ジーク談)。
ところが今回、僕が調理法を確立させた事により、余裕が出た分の支援を各村に回せる様になるとのこと。
楽しんでやっていた事が、巡って人助けに繋がった。実に僥倖だ!
さて、それとは別件でスペアリブでもうひと騒動起こった。
食事中、スペアリブを食べた若い騎士さんの一人が突然立ち上がり、僕の側まで歩いてきた。
そして跪いたかと思ったら、真剣な目で口言ってきた。
「結婚して下さいっ!!」
「・・・・・・はっ?」
はて、この人は何を言っているのだろう?
結婚? 僕が? 何で?
言ってることが理解できない。だが、騎士さんの言葉は続く。
「俺はかねてより、結婚するなら可愛くて、料理上手で、スタイルが良い、俺好みの肉料理が作れる子が良いと考えておりました! 貴女様は正しく俺の理想っ! 世界一の女性です! 絶対に幸せにします、なのでどうか俺と結婚して下さいっ!」
「ま、待ってっ、落ち着いてっ!?」
騎士さんは余程興奮しているのか、僕の両手を握り、顔がずいっと寄ってきていた。
(待って、近い近い近い近いっ! 超近いっ! もうガチ恋距離とか言うレベルの近さじゃ無いからっ! あご引かないと、チューしちゃうからっ!?)
この騎士さんは日頃から会話する事も多く、顔も性格も良いイケメンさん。 だからか? わりと悪い気はしない。
(でも、結婚は話が別だろっ!!)
更にじりじりと近付いてくる騎士さん。不味いっ、抵抗しないとっ!
「必ず幸せにしますっ! 命懸けで守りますっ! 僕に貴女様のご飯をずっと食べさせて下さいっ、家族になりましょうっ! 僕達の子供で騎士団を結成しましょう!」
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
「僕に何人産ませるつもりだっ!!」
──ドゴンッ!!
「ごはぁっ!?」
「何言ってんだっ、何言ってんだっ、何言ってんだっ!? 僕に何するつもりだっ、ナニするつもりかっ!!」
あぶねっ、流されるところだったっ!!
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