2‐② 絵になる二人

  冒険者ギルド、それは世の男子達の憧れ。

 名誉を求めた益荒男ますらお達の巣窟で、力と金と夢の集う輝かしい場所。


 ……そう考えていた時期が僕にもありました。


「何か、ばっちぃ……」

「くさいの……」

「がぅ……」


 辿り着いた冒険者ギルドは、物語で見るような荒々しさの感じない品の良い外観。

 赤い屋根に丸い窓の付いた、どちらかというと可愛らしさが先立つ建物だった。

 扉は西部劇で見るようなウェスタンドア。


 建物は綺麗、職員も綺麗、なのに屋内及び冒険者が汚い。そして臭い。

 運動部の部室みたいになっていた。

 受付の綺麗なお姉さん達も、あの笑顔の下では歯を食いしばっているのだろうか?


「よく考えると冒険者って肉体労働の日雇い労働者の事だもんね。細かい所まで気を回している暇がないのかもしれない」

「皆忙しいの? ご飯食べられるの?」

「食べてるから大丈夫よ。でもランクが上がらない内は苦労することが多いんだぁ」

「俺も苦労したなぁ……」

「それに、汚れもね。女性冒険者はその辺りも気を付けてはいるんだけど、男はねぇ……」

「勘弁してくれ……」


 どの世界でも男の人は汚れがちなようだ、クレアさんがガルドさんにイタズラっぽい視線を向ける。

 マルクスさんは……あれ? そういえばマルクスさんは綺麗だな、何で? 美容男子?


「僕達エルフは元々汚れにくいんですよ、体の半分が魔力で出来ていますので。あと、エルフは綺麗好きなんです」


 僕の視線に気付いたマルクスさんが教えてくれた、締めくくりのウィンクが似合ってて悔しい。

 今初めて知ったが、マルクスさんはあのエルフだったらしい。

 ドワーフと並ぶファンタジーの代表格、通りで綺麗な顔なわけだ。


「あれ、でも耳は? 長くないの?」

「あぁ、勘違いされがちなのですが、耳の長さは部族によって違うのですよ。私は山エルフなので尖っているだけでそう長くは無いですよ」


 横髪をかき上げたマルクスさんの耳は、短いが確かに笹のような耳をしていた。

 おぉ、何か感動! 思わず手を伸ばしていた僕を、マルクスさんは子供を見るように微笑んでいた。


「マルクス君、おねーちゃんとイチャイチャしないで。おねーちゃんはピアのなの!」

「えぇ、別にそういうんじゃ無いんだけど」


 しかし周りを見ると皆が、特に女性陣から熱の籠った視線を向けられていた。

 どうやら周りからはそう見えるらしい。


「マルクスは勿論、ユウちゃんも吃驚するくらい綺麗だもんね。美男美少女コンビだわ、絶対許さないけど!」

「許さないの!」

「おーい、馬鹿な事してないで入るぞー」


 入り口で騒いでいたのを忘れていた。


 ◇


「おぅ、エレナ! 依頼と、内密に報告がある。ギルマス居るか?」

「ガルド様、お帰りなさいませ。ギルドマスターはギルド長室におられます、ご案内いたしますので此方にどうぞ」


 エレナと呼ばれた美人の受付嬢は、ガルドさん達を何処かへ案内するらしい。

 僕達も一緒に行ったら良いのだろうか? 出来れば着いていきたい。

 部屋中から視線を感じるし、中には悪意の籠った視線もあるから気分が悪い。

 僕はピアちゃん達を背中に隠した。


「あら? そちらのお嬢様方は……って、服が血だらけじゃないですか!? どうされたんですか、どこか怪我でも!?」

「あぁ、いえこれは僕の血じゃないです。心配してくれてありがとう御座います」


 僕はぴらりとローブを捲って怪我がないことをアピールした。


「ちょっ!? なんて格好しているんですか!! ガルド様、いくら子供とは言え女の子になんて恰好を!! 貴女大丈夫? 何か怖い思いはしませんでしたか?」


 エレナさんはきっと子供好きなのだろう、会ったばかりの自己紹介すらしていない僕の事を涙目で抱き締めてくれる。

 嬉しい、すごく嬉しいんだけど、こちとら中身は男子高校生なので居た堪れない。

 僕は返事代わりに一度エレナさんを抱き締めると、ガルドさんは良い人だと伝えた。

 ここで頑張らないとガルドさんにロリコンの疑いが掛かりそうだからだ。


「さっき言った内密な報告は、こいつらの事だ」

「……分かりました、先にギルド長室にお通します。その間はクレア様、お願い致しますね」

「お願いされましたー!」


 エレナさん、ガルドさんは何も悪くないよ。だからその冷たい目を止めてあげて!

 僕達はエレナさんが放つ極寒のオーラに晒されながらギルド長室に向かった。


 ◇


「ドラニクスさん、調査に出ていた鋼の旋風の皆様が戻られました、ご報告があるそうです」

「入れ」


 案内されたのは二階の踊り場にある部屋だった、そこがギルド長室らしい。

 ノックのあと入室した中で僕達を待っていたのは2mを超える人型の蜥蜴だった。


蜥蜴人リザードマン……いや、角があるから竜人ドラゴニュートかな?」

「うむ正解だぞ、兎の少女よ。よく来たな、俺はシルクマリアの冒険者ギルドマスターで『ドラニクス』という。よろしく、お嬢さん方」

「申し遅れましたが、私は受付嬢のエレナと申します」

「初めまして、僕はユウ。この子はピリアリート。そしてこの子がミミックのミミちゃんです!」

「「ミミック!?」」

「おぉう、デジャヴュ……」


 やはり鞄型のミミックは珍しいからかギルマスさん達は驚いてくれた。

 最近ミミちゃんで驚かせるのが僕の趣味になりかけている。

 ノルマを達成し終わったところで、ガルドさんの依頼達成報告の話に入った。


「ふむ、オーガの特殊個体か……」

「あぁ、鑑定が使える嬢ちゃん曰くそうらしい。で、今回のゴブリン大量発生とは別物だろうというのが、俺達の考えだ」

「称号に『武人』『探す者』と入っていて、戦い終わると立ち去った様子から予想するとですが」

「確かに人間っぽかったよねー」


 ドラニクスさんは机に置かれたオーガの角を見て調査の継続を悩んでいたが、最終的には増員の上、再度調査を行う事となった。

 勿論、鋼の旋風PTは強制参加。ガルドさん達はかなり嫌そうな顔をしてた。


「さて、次にお嬢さん……ユウ達についてだが、いくつか問題がある。まずユウ達はかなり目立つ外見をしている上に身寄りがない、外国の貴族を警戒しなければならない」


 この話はクレアさんからも道中、散々注意を受けていた。

 僕は……自意識過剰みたいで嫌だが、かなり見栄えが良い。正直地球でも異世界でも見たことが無いレベルだ、それは同じ顔であるピアちゃんも同様。

 この世界には奴隷が居る。基本的には罪を償う為にある制度だが、中には違法に奴隷制度を利用する者も居る。

 お金や権力を持っている人間は、欲を満たす為ならば手段は選ばない。

 僕達はその標的になりうるという事だ。


「そしてもう一つが、そいつだ」


 彼が指さす先はミミちゃんだ。


「まず、マジックバッグという時点で危険だ。容量次第では軍需物資になる、それが容量無限の時間停止付きだと? 国宝級ではないか! そして本来動けない筈のミミックが移動している、懐かない筈の魔物が人に懐いている。魔物研究家が解剖したがるぞ」

「がぅっ!?」


 まぁ、国宝級ではなく神話級なんだけどね。

 やはりミミちゃんの存在は相当に危ない、この子は僕が作ったとはいえ今ではもう家族のような存在だ。


「絶対に誰にも渡さない……。ミミちゃん安心して、君はピアちゃんと同じで僕の妹みたいなものなんだから、絶対にお姉ちゃんが守ってあげる」

「ピアもおねーちゃんとして守るの!」

「がぅぅ~~~~」


 二人の間ではピアちゃんがお姉ちゃんで落ち着いているらしい。

 とりあえず僕がやらなければいけない事は、①実績を作って味方を増やす ②可能ならば後ろ盾を作る

 以上の二点になる。


「俺は一先ず、こいつ等を母ちゃんの所へ連れて行こうと思う」

「それが良かろうな」


 ガルドさんのお母さん? よく分からないけど、味方になってくれたら嬉しいな。


 一通り話は纏まり、ドラニクスさんに退室を告げる。

 その後僕達は、エレナさんの案内で冒険者登録をすることにした。


「あ、ユウ様。先に此方をお渡ししておきます」

「んや?」


 エレナさんが何やら模様の入った布束を渡してくれた、広げてみるとそれはワンピースだった。

 薄黄色に赤のラインが入っていて、腰の左右にリボンがありウェストを調節出来るようになっている。

 あと、隠れて下着もあった。上を付けていなかったのがバレているようだ。


「え、これどうしたの!?」

「お話し中に職員に買いに行かせました。お金はガルド様持ちなのでご心配なく」


 僕の恰好を心配して用意してくれていたらしい。

 エレナさん、何て優しい人なんだろう。


「エレナさん……、ありがとうっ!」

「いや、買ったの俺なんだがな……」


 笑顔でお礼を伝える僕を、エレナさんは柔らかく微笑みながら撫でてくれる。

 その横ではガルドさんが、マルクスさんに慰められていた。


 その場で着替えようと思ったら超怒られたので、仕方なく受付奥の部屋を借りて着替える。

 戻ってきた僕はエレナさんから一枚の紙を手渡された。


「用紙に必要事項をご記入ください。どうしても書きたくない事は無記入で構いません」

「え、良いの? これ身分証明になるんですよね?」

「名前と身分、罪科が分かれば問題ないので」


 まぁ、称号とか知っても何がどうなる事も無いのかな?

 僕は指示された通り記入していく。


「編み物師? 妹? 何ですか、この職業?」

「何と言われても、そう表示されていますし」


 エレナさんは少し悩んだ後、そのまま手続きを行った。

 クレアさん曰くギルドではPT斡旋もしているので、変な職業を書くとPTを組ませ辛いのだとか。

 まぁ、組むつもりないし問題ないでしょう。


 記入や手続きが終わり、後は登録書を発行して貰うのみとなった。

 僕が冒険と夢、ロマンの世界に心躍らせていた時、後ろから粗暴な男の声が聞こえる。


「おぃおぃ、ガルドォ。お前何時からガキを連れて歩くようになったんだぁ?」

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