【Character Story⑥】 ユウちゃんとおやすみ

「あら、皆帰ってきたのねぇ・・・えっ⁉ ユウちゃんどうしたのっ⁉」

「すまん、話はあとだ。皆、急いで部屋を整えろっ! ダンタルニャン殿、メイドが部屋まで案内するのでついて行ってくれ」

「ユウ様のお部屋は常に準備を整えて御座います・・・えっ何この子達、かわっ。ごほんっ。お客様、ユウ様をこちらへお願い致します」

「感謝でありますっ!」


 アルバートの指示に従い動くメイド達と、その後ろについて行く不思議な獣人達と気絶しているユウちゃん。

 何が何やら分からなかったが、ひとまず女手は要るだろう。私はエリザベートとジークを連れて、ユウちゃんお部屋(専用)について行った。


 ユウちゃんは気を失ってこそいるが、特に外傷は無い。

 服が異様に焦げているのは何故だろう? あと、このボロボロの男性物の服は? 周りで心配そうにしている小柄な獣人達は誰だろう、鎧もやたら可愛いわね、騎士?

 分からない事が多すぎる。私は世話が落ち着くまで手伝い、その後エリザベートと部屋の前で冬眠前の熊のようにウロウロしているアルバート、落ち着いた様子のジークを連れて執務室へ移動した。

 男の人って、こういう時おろおろとしかしないのは何でかしらね? ジークにはそうならないよう教育しないと。


 ◇


「さてぇ、貴方が戦場に向かってから起ったことを教えて貰えるかしらぁ?」

「私も知りたいんですのっ! あの大きな鬼(?)は何なんだったんですのっ!? ピアちゃんも途中でミミちゃんを連れて行ってしまいますし、あの可愛い動物さん達は一体っ!」

「僕も姉様が心配です。 次期領主として領民の事も気になります」

「順を追って説明するから少し待て、お前達・・・」


 それからアルバートは、私に代わって戦場に向かってからの事を教えてくれた。

 子供達は無事全員保護出来た事。あの大鬼はスライムらしく、あれ以外にも何種類か居た事。敵組織は壊滅、赤鱗は死亡し組織員も確保。中には外国の騎士らしきものも居た事。そして何より・・・。


「そう、やっぱりユウちゃんは・・・」

「お姉様が神っ⁉」

「姉様・・・」


 そう、私の予想通りユウちゃん達の正体は女神の一柱であった。

 とは言っても本人に確認を取ったわけじゃないみたいだけど、エリザベス様がそう言っているので確定でしょう。


 元々疑ってはいた。初めて家に招いた時に近くで二人を観察していたけれど、二人の容姿は整いすぎていたのよ。肌のキメや髪の状態が最早人間のそれじゃない、そして何より顔や体の作りがあまりにも左右対称過ぎる。


 人間どれだけ体を整えようとも、そもそも内臓が左右非対称なの。

 あそこ迄きれいに左右対称になるなんてあり得ない、まるで体の作りをしている。

 美を追求する者たる私の目は誤魔化せないわよ。


 他にも聞いたことが無いような知識、年齢不相応な思考力、兎人族とは思えない戦闘力、ミミちゃんの存在、その他諸々。

 隠したいのか隠したくないのか、その態度もよく分らなかった。

 ただ、良い子。すごく良い子だという事だけはよく分ったの、だから受け入れた。


 でも、神であると確定してしまった。となると、嫌な事も聞かなきゃいけなくなる。

 私は・・・あの子達を本当の娘のように接していた。願うならばジークと結婚して欲しいとさえ思っている。

 お願い、裏なんてない普通の女の子であって・・・。


 詳しい事はユウちゃんが起きてから直接聞くことになり、私達は彼女の目覚めを待った。

 アルバートも今回ばかりは、すんなりと覚悟を決めることが出来ないみたい。そりゃそうよね、あの人もユウちゃんをすごく可愛がっていた、嫌な事なんて聞きたくないでしょう。

 ユウちゃんも相当疲れていたのか、すぐに起きてくる事は無かった。


 ◇


 ユウちゃんが眠り続けて二日目、流石に女の子をそのままという訳にもいかない。

 そこでメイド達にお願いして二人をお風呂に入れて貰ていたのだけれど・・・最近メイド達の様子がおかしい。


 彼女達もユウちゃんと仲が良かった為に心配する声が多く、世話係を希望する者が多かった。

 しかし、その係りの入れ替わりが激しい。日によっては一日に二回も入れ替わっている。

 そして担当から外れた者は例外なく幸せそう、いったい何なのかしら・・・調べてみる必要があるわね。


「貴女達、いったい何をやってるのかしらぁ? もしユウちゃんに何かしたら許さないわよぉ」

「そんなっ、姫様に何かしようなど滅相も無いっ!」


 姫様? 確かにご飯の国もお姫様かなと思ったことはあるけれど。


「じゃあ、どうしてこんなに人が入れ替わるのぉ?」

「・・・奥様は、姫様がお眠りになられている時、近くにいらっしゃったことは?」

「いえ、無いけれどぉ・・・どういうこと?」


 メイド達の言っている事が分からない。


「口で説明するのが難しいのです。奥様さえ宜しければ、今晩姫様のお部屋でお休みになられませんか? それですべてが分かります」

「よく分からないけれど、とりあえず今晩はそうしようかしらぁ。危険ではないのよねぇ?」

「はい・・・いえ、ある意味これ以上ない程危険です」

「どういうことなのっ⁉」


 要領得ないが、ひとまず怪我の危険なのは無いようなので一緒の部屋で寝ることにしましょう。

 エリザベートは・・・いえ、ひとまず私だけかしらね、何かあっては困るし。


 その晩私は、この選択を激しく後悔・・・いえある意味神に感謝をすることになった。


「じゃあ私は今晩ここで寝るから、後はよろしくねぇ」

「本当に大丈夫なのか? メイドの忠告もある、やはり止めた方が・・・」

「その通りですわっ! 私がお姉様と一緒に、もとい、尊い犠牲になりますわ!」

「僕は・・・何とも言えません」


 家族の心配する声を背に、私はユウちゃんと一緒のベッドに入った。

 ちなみに妹のピアちゃんはユウちゃんを挟んで反対側に、ミミちゃんは枕元に居る。


「うにゅうにゅ・・・ぴあちゃぁぁん、うへへへぇ」

「この子は、夢の中でもピアちゃん一筋ねぇ。妬けちゃうわぁ」


 もごもごする表情も愛らしい、寝顔が姉妹そっくりだ。


「私も寝ましょうかぁ、ミミちゃんもおやすみなさい」

「がうっ」




 ・・・・・・・・・。




 ・・・・・・。




(・・・流石に四人もいると、賑やかで眠れないわね)


 別にうるさいというわけでは無いが、やはり自分以外の存在が側にあると普段と違うからか眠り辛い。

 瞼を閉じていれば、その内眠れるだろう。そう思い目を閉じじっとしていると、ぎゅっと柔らかくていい香りが私の顔を包み込んだ。


 ──ユウちゃんだった。


(この子、本当に胸が大きいわね・・・。抱き着きグセでもあるのかしら?)


 そう感想をもらした私の頭を、彼女は撫で始めた。


「ふふふ・・・いいこ、いいこ・・・」

「ちょ、ユウちゃん流石に恥ずかしい・・・」

「いいこ・・・がんばってるわね・・・あなたは、えらいわ」


 ・・・この人は誰だ? 絶対にユウちゃんじゃないっ!

 離れないとっ、でも抗えない。というか、抗う必要性を感じない。


 ──まるでこうして貰える当然の権利を、私は持っているように感じる。


「しっているわよ・・・ははとして、こどもを、みまもっている・・・きぞくとして、いえを、まもっている・・・つまとして、おっとを、ささえている・・・あなたは、すごくいいこ」

「ユウちゃん・・・」

「あなたは、えらいわ・・・だから、わたしが、いっぱいほめてあげる・・・いいこ」


 雰囲気の全く違うユウちゃん。

 ユウちゃんじゃない、でもユウちゃんにも感じる、貴方は誰? 分からない。


 ただ、この声を聞いていると──力が、抜ける。


「わたしがずっと、あなたをみててあげる・・・ほめてあげる・・・なでてあげる・・・だきしめてあげる・・・きすをしてあげるわ・・・」

「ユウちゃん・・・ママ?」

「あなたは、あまえていいの・・・うまれたときから、あなたは・・・わたしに、あまえるけんりを・・・もっているのよ・・・さぁ、いらっしゃい・・・」


 ユウちゃんじゃない誰かは、オルゴールのような優しい声と共に、再び私の頭を温もりと香りで包み込んだ。


「いいこ・・・いいこ・・・さぁ、ねむりなさい・・・わたしの、いとおしい、こ・・・」

「ままぁ・・・」


 額に口づけをしてくれるユウちゃん、こんな風に抱き締めて貰えたのはいつ振りだろう? 愛おしそうに口づけを落してくれたのは? 無条件に甘えさせてくれたのは?


 子守歌が聞こえる。聞いたことが無い曲、でも懐かしい。


 あぁ、守って貰えるというのは、こんなにも心が安らぐものだったのね。

 心の溶けきった私は、あっという間に夢の中へいざなわれた。


 次の日、今までにない心の軽さと心地よい目覚めを得た私だったが、昨晩の恥ずかしさから一日部屋に引きこもった。


 メイド達の気持ちを理解したわ、まさかこの歳になってこんな──おぎゃったなんて、誰にも言えるわけがないっ!

 私ダメにされちゃうっ! あぁでも、気持ちよかったわぁ・・・。


 母と娘の間で揺れる、マルセナの苦悩は続く。

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