1‐⑥ バニーガールは好きですか?

「お願い、ミミちゃん!!」


 僕は無意味にミミちゃんを投げたワケでは無い、実はこういう場合に備えて予め作戦を決めていたのだ。

 その作戦とは……。


「がぁぅ、ぺっ!!」


 ミミちゃんが毛玉集団の真上に着いたタイミングで、彼女は口から投網を吐き出した。

 投網はそれほど大きくはない、だがこの範囲の集団ならばカバーできる。

 投網は綺麗に広がり、アルミラージ七匹を捕まえた。


「ナイス投網だよ、ミミちゃん!」

「ミミちゃん、すごいの!」

「がぅがぅ♪」


 普通の投網ならアルミラージの力に負けて、破れるか逃げられるかするだろう。

 だがこの投網には麻痺効果がある。

 網に絡めとられた毛玉達は体を痙攣させながら大人しくなった。


「ごめんね、こっちも生きなきゃいけないんだ」


 僕は石斧では無くナイフで止めを刺していった、少しでも綺麗に苦しくなく死ねるように。

 その後は毛玉達を糸に加工し、合計八匹分の『アルミラージの柔糸』と「アルミラージの肉」を手に入れた。

 あれ? 血とか骨はどこ行ったんだ?

 見なくて済んで嬉しいけど、消えたら消えたで気になったが……、まぁ良いか。

 八匹分の糸となると結構な量となり、レシピ本のアイテムを全部作れるほどだった。

 レシピにはミサンガやアンクレット、靴下など色々。作れるのはどうも装飾品ばかりの様だ、ちなみに効果も高いので逆にどれを作るか迷う。


「なんか『ウサ耳リボン』みたいなネタアイテムっぽいのもあるんだよね。絶対作ってやらないって言いたいところなんだけど、気になることも書いてあるし」

「かわいいって、おもうの! だめなの?」

「うーん、趣味じゃないというか、何というか。でもね説明欄に『セット効果あり』って書いてあるんだ」


 そう、この兎装備は全身で六種類あるのだが、全てに『セット効果あり』と表示されているのだ。

 効果は凄く気になる、だが体は女性に変わろうとも心はmen's。ちょっとウサ耳は遠慮したいなと思う今日この頃なのである。

 

「どうしよう、一応作って変な効果なら倉庫の肥やしにするか? 一応全身作っても材料は半分も減らなさそうだし……」

「ピアがつかうの! ウサギさん、好きなの!」

「そっか、ヘアバンドならピアちゃんに着けてあげても良いのか」


 解決策を発見したので、先に一人分作ってみることにした。

 神様のレシピ本をオートモードで起動し、六種類の装備品を全てポチる。

 同時にいくつも作ったりは出来ないようなので大凡10分くらいかけて編んでいく、まぁそれでも無茶苦茶早い。

 編み終わった装備を順に着けていくと、お腹の底から力が湧いてくる感じがした。


【乙女のアルミラージリボン】

 アルミラージの力が宿ったリボン、野生の感を手に入れる。皆が貴女のお耳の虜になるかも? セット効果あり。


【乙女のアルミラージイヤリング】

 アルミラージの力が宿ったイヤリング、音が良く聞こえるようになる。着ければさらに可愛くなれるかも? セット効果あり。


【乙女のアルミラージミトン】

 アルミラージの力が宿ったミトン、少しだけ力が強くなる。肉球の魔力……。セット効果あり。


【乙女のアルミラージミサンガ】

 アルミラージの力が宿ったミサンガ、心が少し強くなる。家族への贈り物にしよう。セット効果あり。


【乙女のアルミラージアンクレット】

 アルミラージの力が宿ったアンクレット、ジャンプ力が高くなる。跳びすぎ注意。セット効果あり。


【乙女のアルミラージ靴下】

 アルミラージの力が宿った靴下、疲れにくくなる。汗のにおいも着かなくて清潔。セット効果あり。


「何か不穏な説明文があるな……。とりあえず全部装備したけど、セット効果って何なんだ?」

「おねーちゃん、かわいい! でも、何もおこらないね」


 装備して待つこと少し、見えない効果なのだろうかと考えた矢先変化は突然現れた。


「のわっ! なんか全身がゾワゾワするっ!?」

「おねーちゃんっ、足からしろい毛が生えてるのっ!?」

「がぅっ!? がぅがぅ!」

「おわぁあああっ、あれ? なんか収まった?」


 異変がピタリと止まると変な感覚があった、いつもより耳や鼻が効くのだ。

 目の前に居るピアちゃんが口を開けて、こちらを唖然とした表情で見ている。

 下を向くと首元と手足に柔らかい兎のような毛が生えていた。


「ピアちゃんっ、僕どうなってるの!?」

「おねーちゃん、ウサギさんになってるの……」


 ピアちゃんに説明されるがまま頭とお尻に手をやると、何とマジもののウサ耳と尻尾が生えていた。

 どうやらセット効果とは『兎の獣人になる』というものだったらしい。


「いや、今迄も十分ファンタジーだったが。これは飛び抜けてファンタジーだわ……」

「おねーちゃんっ、おねーちゃんっ、ピアにもつくって! ピアもウサギさんになりたいの!」


 ピアちゃんのテンションが今までに無いくらい上がっている。

 変な効果もないし、違和感も無かったのでピアちゃんの分も作ってあげることにする。

 よく考えると『違和感がない』のは十分違和感だと思うのだが、ピアちゃんが喜ぶし、絶対可愛いので気にしない事にした。


 作るとすぐに装備し始めるピアちゃん、リボンだけは上手に出来ないようなので僕が結んであげる。

 僕は紡ちゃんの髪もよく結んであげていたので、こういう事には慣れていた。


「やったー! これでピアも、おねーちゃんとおそろい!」


 ピアちゃんは自分にもウサミミが生えたことを喜びながら、僕の尻尾や毛皮をモフって楽しんでいる。

 毛皮が生えたことで暑くなるかと思いきや、意外とそうはならなかった。不思議である。

 ちなみにリボンがウサ耳に変わったことで髪がまた下に降りたので、『博識のトレントリボン』でまた纏めている。

 ウサギ装備に加え、鑑定の能力も使えるようになるので良い感じである。

 ウサ耳リボンはミミちゃんにも作ってあげた。


「ミミちゃんはリボンね、これで美人さんになったよー」

「がぅがぅ♪」

「ミミちゃんも、かわいい!」


 やはり女の子なのでリボンは喜んでくれた、ちなみにベルトの付け根に結んであげている。

 装備を新たにした僕達は、ピアちゃんが示した方向へ改めて進み始めた。


 ◇


 獣人の身体能力か、装備の効果か、森を進む速度が上がった。

 順調に木の実や薬草を回収していき、食べ物も豊富である。ちなみにミミちゃんは物が詰まっていくのが嬉しいのか、とても機嫌が良い。


「お肉焼けたよー、熱いから気を付けて。調味料無いから薬草とか木の実で味付けながら食べてね」

「うん、ありがとうなの!」

「がぅ! がぶがぶ」


 『食べ物が減る』って書いてあったし、舌もあるのでご飯食べるだろうなと思いミミちゃんの分も一緒に兎肉を焼いてあげている。

 一応魔物なので生の方が良いか聞いたら、料理した物の方が舌に会うとの事。食べた物ってどこに行くんだろう? 相変わらずの謎生物だな、この子。


 今日で森を進むこと五日目、まだ人には出会えていない。

 だんだん、もう森で暮らそうかと思い始めているのは秘密だ。

 漫画知識によるサバイバル術もそろそろ限界だし、日本人としてはお風呂に入らないと気分が落ち着かない。スライムタオルで全身綺麗にしてはいるんだけど、頭皮がねぇ気になるんだよ。


「というか僕はこの格好で人に会って良いんだろうか? 色々見えそうなのだが」

「ピアが隠しててあげるの!」


 いや、無理やろ。まぁ、生前との体格差でだいぶサイズが大きいので、端を結んで何とかしよう。

 幸い毛皮のお陰でいやらしさが軽減されているし、何とかなるだろう。


 ここ数日で起こった変化がもう一つ、ピアちゃんの喋り方が上手になってきたのだ。

 僕も言っていることが聞き取りやすくなって、ちょっと感動している。気分は母親である。

 あと色々好みも見えてきた、甘いものが好きで野菜よりもお肉のほうが好き、自分の好みよりも僕とお揃いのほうが嬉しい、何故か僕のおっぱいが好き。

 最初二つは子供らしいなとか、女の子だもんねとか思うけど、三個目は不明。

 初めの頃は不安だから胸に顔を埋めてるのかなと思っていたのだが、最近はパフパフしながら怪しく笑っている。

 お姉ちゃんはちょっと心配、変な方向に成長しないよう願うばかりである。


「今日は此処までにしようか、ほら寝るよー」

「分かったの! おねーちゃん、今日もぎゅってして寝て良い?」

「良いけどイタズラしないでね」

「善処するの! おやすみなさい。おねーちゃん、ミミちゃん」

「二人ともおやすみー」

「がぅー、がぐぅがぐぅ……」


 僕達は平編みにした大きな編み生地を敷物にして三人抱き合って寝る、明日には人に会いたいな。


 ◇


 異世界生活六日目。襲い掛かってくる動物やモンスターを退けつつ、糸に導かれて森を進む。

 最近気付いたのだが、この森は植物系モンスターが目立つ。

 トレント、エルダートレント、ドロセラ、ミミック、あとモンスターじゃないけどマンドラゴラも居た。

 動物系はアルミラージとパイソンしか見ていない。

 僕の心に優しい森のようだ、虫も少ないしね。

 虫は嫌いじゃないが、どうしても苦手な奴がいる。あれにだけは会わないよう願う。


 ここ数日で兎獣人の身体能力を確認した。

 爪も牙もないので戦闘は得意ではなさそうだが、それでも人よりは強い。

 僕は少し格闘技をかじっていたこともあり、鞭をピアちゃんに渡して基本的に蹴って戦う事にした。

 その方が血も出ないしね。

 渡した鞭だが、道中偶然見つけたマンドラゴラの素材を使ってグレードアップしており、振るうと衝撃波が出るようになっている。ちょっとした音波兵器だ。

 ついでにミミちゃんも戦い方を確立していい感じである。


 今日こそ人に会いたいなと考えながら、サクサク森を進む。

 すると僕の願いが届いたのか、長い耳が遂に人の声をキャッチした。

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