1‐⑦ 第一異世界人発見
僕のウサミミが人の声を拾う、たぶんそんなに離れてない。
「ピアちゃん、聴こえた?」
「うん、何人か居るの。怖い糸は見えないから、行っても大丈夫だと思うの!」
「よし、行くよ二人とも」
僕達は手に入れた脚力を活かし、跳ねるように森の中を高速移動した。
◇
「あわわわ、襲われてる! あれってゴブリン?」
「うん、ゴブリンなの。 悪い糸があっちと、あっちにも見えるの。いっぱい隠れてる!」
マジか、その能力凄いね。ピアちゃんとかくれんぼしても負けそう。
ゴブリンは人型なので初の対人戦だけど、そもそもこの場合手助けってしても良いのかな?
漫画とかゲームだと横取り扱いされることがあるんだけど……。
襲われているのは冒険者らしき装備に身を包んでいる三人組の人達。
剣と小盾を持った大柄な男の人と、杖とローブの髪が長い男の人(?)と、弓を持った長身の女の人。
いきなり襲われたのか、足元には調理道具が散らばっている。
「どうしよう、助けるべきか……、でも怒られるのヤダし」
「あ、女の人が怪我しそうなの!?」
「えっ!? あー、もぅっ!! ミミちゃん、お願いっ!!」
「がぅっ!!」
怒られたら、無視して逃げよう。
僕は女の人へ向けて思い切りミミちゃんを投げた。
◆
突然襲われた俺達は、まともに準備をすることも出来ずに迎撃戦を強いられた。
元々ゴブリンの大量発生調査に来ていた俺達は、ゴブリンに遭遇することは分かっていたが、直前まで消されていた気配に俺達を囲むような動きに後手に回ってしまった。
明らかに上位種がいる、だがまずこいつ等をどうにかしないと撤退すら出来ん。
特にクレアは弓手、マルクスは魔法使いだ、ここまで接近されては本領を発揮できない。
俺達は徐々に追い詰められていく。
遂にゴブリンの振るった棍棒がクレアを捕えてしまった。
何とか弓で受け止めたものの武器を手放してしまい、更に転倒してしまう。
ゴブリンが卑下た笑みを浮かべながらクレアに近づいていく、だが俺達は目の前の十数体に阻まれ近づけない。
「クレアッ、逃げろっ!!」
「あぁぁ、ぅあああ……」
「くっそぉ、いくらゴブリンとはいえ多すぎるぞっ!! どけぇ!!」
「押し切られるっ!!」
「きゃあぁぁー!!」
「「クレア(さん)!!」」
もう駄目かっ!? そう考えが過ったその時、何かがクレアに向かって飛んできた。
あれ何だ、鞄?
「ぐぅっ、ぺっ!!」
鞄が自分で動いているとしか思えないような動きで、ファスナーから網が飛び出してゴブリンに覆いか被さった。
網に捕らわれたゴブリンは不自然に動きを止める、唖然としているのは他のゴブリンも同じなようで皆がクレアの方を見ていた。
何が起こっている? 呆然としているクレア、目の前のゴブリンが生きていることに気付き後退った次の瞬間、銀色の光が矢のように飛んできた。
◆
剣士の人は大丈夫、ピアちゃんには魔法使いっぽい人の方へ向かって貰った。
そして僕はどうするのかというと……。
「Just a moment……『スタンプ』!!」
兎の脚力を活かした、たぶん10m以上あるだろう超ジャンプ。
からの、自重落下。
僕はミミちゃんをキャッチしながら、女冒険者さんの前に着地。
ぷちっ。
最後に両手を上げて、Y字ポーズを決める。
よし、10.0点。
着地ついでにゴブリンを踏んづけた。
ちなみに叫んだ言葉に意味は無い、何となく言い易かっただけだ。
僕は投網を回収してミミちゃんにパスし、振り返らずに女の人に声を掛けた。
「僕が足止めするから、速く体制を整えて!」
「え、女の子!? う、うん。分かった、ありがとう!」
女の人の気配が離れていく。
離れた所に居るピアちゃんも、上手に鞭を使って牽制していた。
魔法使いの人はその合間を縫うように魔法を使って、ピアちゃんと連携をとっている。
器用な人だなー。
「ゴブ助は全部で20体。聴こえてるからね、隠れても無駄だよっ!!」
「がぅー!」
僕とミミちゃんは、目の前のゴブリン達を蹴散らしていった。
◇
「いやぁ、助かった!」
「クレアさんを助けて下さり、本当にありがとう御座います」
「ありがとう、ウサギのお嬢さん達。お姉さん必ずお礼するからね!」
「いえいえ、困ったときはお互いさまですので気にしないで下さい」
「もーまんたいなの!」
冒険者さん達を無事助けることができ、僕達は一息ついている。
良かった、怒られないみたい。
「俺はガルド、冒険者 PTパーティー『鋼の旋風』のリーダーをやってる、よろしくな!」
「私はマルクス、魔法使いです。以後お見知りおきを」
「お姉さんはクレア、弓手だよ。よろしくね」
「僕はユウ、この子はピアちゃんです。森で迷子になっていたところ、音が聞こえてこちらに駆け付けました」
「ピアなの、よろしくなの!」
三人は同じPTの人らしい、ワイルドな短髪に30代半ばで筋肉モリモリなのがガルドさん、長髪に20代後半くらいで長身細身なのがマルクスさん、ボブカットの20代くらいで長身細身に胸が大きいのがクレアさん、あの胸は弓引くの邪魔じゃないのかな?
「こんなところで迷子ってか!その前はどこにいたんだ?」
「それが分らなくて、僕は目覚めたらここに居て、この子に至っては記憶喪失みたいなんです。お姉ちゃんと呼んではくれているのですが、実は姉妹でもなくて……」
「はぁ?その面で姉妹じゃねぇってのは流石にあり得ねぇんじゃねぇか?」
「んえ?」
そういえば鏡もなかったから自分の顔を見たことが無かった、髪色は一緒だなとは思っていたんだが。
「ほら、自分の顔を鏡で見てみなよ、同じ顔しているよ?」
僕はクレアさんから手鏡を借りて自分の顔を初めて確認する。
そこにはピアちゃんと同じ顔が映っていた、多少成長差で違いがあるが同じ顔立ち、更に髪色もほぼ一緒なのだ。これで姉妹ではないというのは無理がありすぎる。
もしかして僕は死んだあと、ピアちゃんの実の姉の体を乗っ取ったりしてしまったのだろうか。
「もしかしたらお前さん自身、記憶がはっきりしてねぇんじゃねえか?」
「こんなところに居たことも含め、もしかしたら特殊な事情があるのかもしれませんね」
「ぐすっ、お姉さんたちが街まで一緒に居てあげるからね、もう安心してねぇぇ!!」
ぎゅー!
乗っ取りの衝撃から茫然自失としていた僕をクレアさんが抱きしめてきた、いや別に特殊な事情とかは……無いんじゃないかなぁ、無いと良いなぁ。
僕の一抹の不安に気付いていないピアちゃんは、棒で土にお絵描きしていた。
「い、いえ、とりあえず大丈夫です。それよりも近くに街があるのですか?」
「そうだよ、ここから徒歩半日ほどのところにね、私たちは依頼でこの森の調査に来てたんだー」
「この森は魔獣の森と言ってな、地理の関係上魔獣が発生した場合、街に向かってきやすいんだ。だから定期的に間引いたり調査したりするのさ。今回はゴブリンだな」
「なるほど、調査は終えられたのですか?もし宜しければ、街まで同行させていただけると助かります」
「こんなに可愛い子と一緒に居られるんだもん、大歓迎だよ!」
「アハハ、アリガトウゴザイマス」
「むふー♪」
ピアちゃんは会話には参加していないものの、僕が褒められて嬉しいのかドヤ顔である。
とりあえず街には向かえるみたい、だがここで問題が一つ。
お気付きだろうか、先程から会話に参加していない一名が居ることを。そう、ミミちゃんである。
彼女の事を伝えた時に、彼らがどう反応するか。ちょっと予想できない。
でも言わないわけにもいかなかったので、伝えることにした。
「あのぉー、ちょっと良いでしょうか?」
「あん? なんだ、どうした?」
「実は旅の仲間がもう一人……一匹居まして、その子を連れて行きたいのですがぁ」
「何っ、まだ仲間がいるのか? 何処だ? 構わねぇから連れてこい」
「ありがとう御座います、というか先程から目の前に居ましてぇ……」
僕はお腹の前で、涎を垂らして寝ているミミちゃんを指さした。
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