1‐⑧ わいわいゴブリン退治

 すべすべで真っ白、可愛いおヘソの付いた僕のお腹に皆の視線が集まる。


「ま、まさか......。ユウちゃん、そんな歳でお腹に子供が......」

「違う。もっと下を見ろ」


 僕の下っ腹辺りには涎を垂らしてイビキを掻くミミちゃんがいた。

 ガルドさん達は少し注目した後、それが生きている事に気付いたらしい。


「おい、何だそいつは? 生きてんのか?」

「鞄がイビキ搔いてる……。もしかしてさっき助けてくれたのって、この子なの?」

「これは……、もしかしてミミックでは?」

「マルクス君、大正解なの! ミミちゃんなの!」

「「ミミック!?」」


 名前を呼ばれて起きたミミちゃんは、目の前にあった僕の手を舐めて甘えている。

 その様子を見て危険はないのだろうと判断したガルドさん達は話を続けた。


「ミミックが擬態をするモンスターだという事は知っていましたが、まさか鞄に化けるとは。根が無いのですがどうやって生きているのでしょうか?」

「この子はミミックなんですが、マジックバッグでもあって、お腹の中に大量のご飯と水が入ってるんです。たぶんそこから栄養を取ってるんじゃないかと」

「え、それってどっちなの?」

「まぁモンスターは分かってねぇ事も多いからな、そういう事もあるんだろうぜ」

「ミミちゃんは可愛いの!」


 マルクスさんは中々博識なようで、ミミックの生態を知っていたようだ。

 ミミちゃんは称号に知恵ある神話級道具インテリジェンス・アーティファクトと書いてあったので、たぶん分類としてはアイテムなんだろうと思うが可愛いからどっちでも良いや。


「それで、この子を連れて街に行けるでしょうか?」

「実際は兎も角、見た目はモンスターなのでテイマー登録をすれば大丈夫でしょう。ただ、問題が起きた場合ユウさんに責任が発生しますので気をつけて下さい」

「連れて行っても良いんだって! 良かったね、ミミちゃん」

「がぅ♪ きゅーんきゅーん」

「不思議と可愛いわね」

「むふー♪」


 一通り自己紹介や相談が終わった僕達は、この後の予定について話し合った。

 ガルドさん達は此処から少し離れた『シルクマリア』という街を拠点にしている冒険者チームで、魔物の氾濫スタンピートが起きないよう調査と間引きに来ているのだそう。

 今はまだ仕事が終わって無くて、しかも上位種が出ている可能性があるからゴブリンの巣を潰しておきたいらしい。


「俺達もさっきは不意を突かれちまったが決して弱ぇわけじゃねぇ、だが今回ばかりは手が足りねぇかもしんねぇんだ。嬢ちゃん達が強ぇのは見て分かった、良かったら手伝ってくれねぇか?」

「ちょっとガルド、冒険者でもない小さな女の子に何を言ってるのよ! しかもゴブリンよ、捕まったりなんかしたら……」


 この世界のゴブリンは、例に漏れず卑猥な生き物らしい。

 積極的に女性を狙う魔物だというならば、僕達にとっても他人事では無い。


「良いですよ。ウチは三人とも女の子ですからエッチな生き物は駆除しちゃいましょう」

「え、ミミちゃんって女の子だったの?」

「良かった! 助かるぜ、絶対お礼はするからな!」

「前衛が少ないので助かります、ありがとう御座います」

「ピアもがんばるの!」


 明日に備え休息を取るのだが、少し移動した位置で取るようだ。

 移動するのは、ゴブリンの血の臭いにモンスターが寄ってくる可能性があるからだそう。

 冒険者にはそういう知識も必要なんだなと、改めて感心した。


 ◇


 三人が張ってくれたテントの中で、僕達は身を綺麗にしている。

 ここでもスライムタオルが大いに活躍した。


「ユウちゃん、このタオル何で出来てるの? 凄く気持ち良いんだけど」

「スライムを糸状にして編んだタオルですよ、ずっと潤っていて冷たいので体を拭くのに便利なんですけど持ち運びは不便ですね、荷物が濡れちゃうので。あと、汚れも全部分解されます」

「何それスゴイ、余ってたら売ってくれない?」

「良いですよ。ほら、ピアちゃん腕上げて。拭いてあげるから」


 クレアさんはタオルの性能に感心しており、僕はその声に背中を向けて返答していた。

 それは何故か、言うまでも無く裸のクレアさんを直視するわけにはいかなかったからだ。

 こちとら性別が変わっても数日前までは男子高校生、体は反応しなくてもクレアさんのナイスバディは目に毒なのである。

 無心でピアちゃんのお世話をする。


「ねぇー、ユウちゃん。こっち向いてお姉さんとお話しようよぉ」

「断固拒否する」

「えー、お姉さん寂しいなぁー」


 悪魔の囁きが聞こえるが、鋼の心で耐える。

 きっと『乙女のアルミラージミサンガ』が頑張って仕事してくれているのだろう。

 実の所、僕自身も小柄ながら中々に女性らしい体をしている。

 だからもう少しすれば見慣れるのだろうが、今は勘弁して欲しい。


「えいっ! おぉ、ユウちゃんスタイル良いわね。腰ほそーい!」

「ぎゃぁああー!? 離れろぉ!!」

「やだよー」

「あー、ピアも遊ぶの!」


 抵抗する僕を余所にクレアさんは悪戯を続ける。

 その後、嫌がっても止める様子が無かったので、僕は全力の頭突きで彼女を沈めたのだった。 


 ◇


「ユウちゃーん、そんなに怒らないでよぉ。お姉さんが悪かったってぇー」

「ふんっ。あ、マルクスさん、良かったら朝ご飯にこの木の実どうぞ」

「あ、ありがとう御座います……」

「無視しないでぇー!」


 翌朝、寝ていた僕に悪戯をしていたクレアさんは、頭に二つ目のたんこぶを作っていた。

 口(拳)で言っても効果が無いようなので、今は無視している。

 別に嫌っても、怒っても無いのだが、相手をしているとエスカレートしそうなのでこの位が丁度良いのだ。


「あー、嬢ちゃん。クレアは悪い奴じゃねぇんだが、可愛いものに目が無くてな。冒険者なんてものをしてっと、どうしてもそういうもんと接する機会が少なくてな……」

「分かってますよ、僕も嫌っている訳じゃないです。でもセクハラはダメだと思います」

「言葉もねぇ、それは言い聞かせておく」

「そんなぁー!」


 泣きまねをするクレアさんをピアちゃんが相手している。


「ピアちゃん、お姉ちゃんが相手してくれないのぉ」

「クレアちゃんが悪いと思うの。お姉ちゃんはピアのなのよ?」

「えー、一緒に愛でようよぉ」

「ダメなの。ピアのなの」


 僕の所有権は僕にある筈なのだが、強ちピアちゃんの主張も間違ってはいない気もする。

 僕は益体もない事を考えながら朝食を済ませた。


「じゃあ巣に向かうわけだが、隊列はどうする?」

「僕は格闘なので前衛、その後ろにガルドさん、ピアちゃんとクレアさんが中衛、マルクスさんは後衛ですね。ピアちゃん遊撃だから後ろ二人を守ってね、ミミちゃんは僕と一緒だよ」

「それが良いですね」

「分かったの!」

「がぅ!」


 ゴブリンの巣は休憩所から二時間ほど離れた所にあった。

 道中僕とピアちゃんが音と気配を先んじて察知、クレアさんが倒す、を繰り返していく。

 クレアさんの弓の腕は凄まじく、どうやっているのか分からないが木の裏側に居るゴブリンにすら命中させていた。


「ユウちゃん、お姉さん凄いでしょ? 尊敬してくれても良いのよ!」

「はいはい、スゴイスゴイ。進みますよー」

「あーん、冷たいー」

「これが無ければ尊敬できるのに……」


 巣穴の入り口から音を聞く、近くに居るのは十匹だ。

 出会い次第、喉目掛けて蹴りを入れる。これは叫ばれないための措置だ。

 アルミラージは申し訳無さが先立ったが、ゴブリンには不思議と慈悲も沸かない。


「……この奥に結構居る、たぶん大広間になっています」

「分かった、俺も前に出よう。クレア、守りを任せたぞ。無理するなよ」

「ピアちゃん、二人と協力しながら動いてね。怪我しちゃだめだよ?」


 突入と同時に、僕はミミちゃんを最前列のゴブリン上空に投げた後、後を追って跳び出す。

 吐き出された投網がゴブリン数匹を捕獲した後、僕はミミちゃんを空中でキャッチ。

 その後僕は広間を飛び回り、全力でゴブリン達を蹴り飛ばしていく。

 蹴られたゴブリンは別のゴブリンを巻き込んで壁に激突する。

 流石にそれで倒せはしないが、止めはガルドさんが刺して行った。

 ゴブリンが同時に複数体向かってきた時はミミちゃんの出番。

 投網に付与されている『投擲適性』は投げナイフにも適応されるらしく、使い道の無かったナイフをミミちゃんは上手に吐き出して当てていく。

 彼女は手で投げていくわけでは無いので、同時に十本近いナイフを投げることも出来る、地味に凄い。

 ピアちゃんもクレアさん、マルクスさんと上手に連携をとって戦っている。

 鞭の性能が二人の武器と相性が良いのだ。

 そうこうしている内に、気付けば三十匹近いゴブリンが倒れていた。


「こんなに戦いやすいのは初めてだぜ」

「私達の戦い方と、ユウさん達の戦い方の相性が良いのでしょうね。すぐにPTを組んでも問題がない程です」

「ミミちゃんもすごいの! いつの間に出来るようになったの?」

「昨日一緒に考えたんだよねー?」

「がうぅー♪」

「本当に凄い子よねぇ、可愛いし最強だわ」


 討伐証明だけ取り、ゴブリンの死体を片付ける。

 放置すると疫病や別のモンスターを呼ぶ原因になるらしい。

 片付け中、倒していったゴブリンの事を考える。

 道中含め、結構な数を倒したがガルドさんの言う上位種の姿が見えない。外出中なのだろうか?


「ガルドさん、ゴブリンの上位種って倒した中に居ました?」

「いや居ねぇな、滅多に無ぇが外に出てる可能性がある。そうなると不味いな」

「退路を塞がれてしまいますね、早めに出た方が良いでしょう」


 確かに逃げ場がないのは危険だ、一度きた道を戻ろう。

 そう考えた僕達を逃がすまいとしたのか、凶悪な雄叫びが巣穴に響いた。

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