1‐⑤ 白い兎とワルツを
ちょっと想像の斜め上を行く展開だったが、念願のマジックバッグを手に入れた僕は散らばっているアイテムを鞄に全て入れた。
鞄に入れた物は詳細が見れるらしく、出てきたガラス瓶はポーションや毒薬であることが判明。大切に使おうとは思うが、元の持ち主は毒薬を何に使おうとしていたのか……。
ミミックは自分で這って動くことが出来るようなのだが、足が遅いので普通の鞄のように肩から斜め掛けにして連れていくことにした。
何が嬉しいのか、ミミックは鞄として装着してあげた方が喜んでいる。
僕的にもその方が都合良いので構わないのだが、入れた手を時々舐めるのは止めて欲しい。
「ミミちゃん。いい子、いい子」
「ぎゃう♪」
「慣れると、不思議に可愛く見えてくるんだよね」
僕もピアちゃんと一緒に鞄を撫でる。
これが巷で女の子達が言っている『キモ可愛い』という感情なのかも知れない。
ちなみにこのミミックは、ピアちゃんにより『ミミちゃん』と名付けられた。
こうして新しくペットを加えた僕達の異世界生活は、更に賑やかになるのだった。
ダンジョンから出発する前に再度お堂の森へ戻り、あるだけ全部木の実と使えそうなものを採取していく。
泉の水を鞄に入れて調べたところ、飲んでも問題なさそうだったのでミミちゃんにいっぱい飲んでもらった。追々容器に入れる事にしよう。
「さて、目指す先が無くなっちゃったわけなんだけど……。ピアちゃん、良い糸が見えたりしないかな?」
「んー、みえない! でも、あっち。いっぱい、糸あるの、ふつうの糸」
「普通の糸かぁ。人が居るかもしれないし、そっちに行こうか!」
「うん!」
◇
森を進むこと数時間、休憩も挟みつつ歩いているが今のところ人影はない。
ペットが増えて楽しそうなピアちゃんは、良い感じの棒を見つけて元気よく探索している。
可愛いんだけどこのまま野生児にならないか、お姉ちゃんは少し心配です。
勿論それだけ歩いていればモンスターにも遭遇するが、幸いな事に弱い奴ばかりだったので全員もれなく糸になって貰った。
素材の数が足りなかったのでアイテムに出来た物は少ないが、どれも大変役に立っている。
【博識のトレントリボン】
エルダートレントの知識が詰まったリボン、装備者が『鑑定』を使用できる。これで貴女もオシャレさん。
【痺れるムイムイ投網】
ムイムイの力が宿っている投網、網で捕まえた敵に軽い麻痺効果を与える。使用者に投擲適性が付与される。漁にも使えるよ。サイズ:直径3m。
相変わらずの、謎メッセージ付き。
本当にいつも誰が書いてるんだろうな、これ。
「このリボン、鑑定が使えるようになったのも嬉しいんだけど、髪を
「かみ、ながいもんね。おねーちゃん、かわいい!」
「ありがとう、新しいのが作れたらピアちゃんも結んであげるね」
ピアちゃんは元々お団子になっているので、髪が邪魔になっていないのだ。
ちなみに髪を切ったら楽だよねとピアちゃんに言ったら怒られた。
リボンのお陰で鑑定を使えるようになったので僕達のステータスも確認したところ、以下の情報が見れた。
◆ ユウ・マキマ / 15歳 / 女
種族:
称号:女神の姉、異世界のニッター、妹大好き、ミミックの主
◆ ピリアリート・ウェヌス / 300歳 / 女
種族:
称号:平和と愛の女神、姉大好き
◆ ミミ / - 歳 / 雌
種族:特殊ミミック / 職業:マジックバッグ
称号:
なんと僕とピアちゃんは神様だった、半分だけだけど。
異世界来たのに神様に会わないなーと思っていたら、まさかのずっと横に居たというパターン。
わかるかっ、そんなもん!!
あと、妹とかマジックバッグって職業なのか?
まぁ、アーティファクトなのは良いとしておこう。
そしてミミちゃんは女の子だった。
何より一番驚いたのはピアちゃんの年齢、僕はこのまま姉を名乗っていても良いのだろうか?……。
ピアちゃん自身が「おねーちゃん」って呼んでくれてるし、まぁ良いのか?
「ピアちゃんは女神なんだって。何か覚えてる?」
「うぅん、なにもわからないの……。ごめんなの」
「あぁ、大丈夫だよ。何も覚えて無くたって、お姉ちゃんはずっと一緒に居るからね」
それを聞いて安心したのか、ピアちゃんはまた笑顔を見せてくれる。
まぁ、お姉ちゃん継続しますか。
ちなみに戦闘に関しては投網のお陰でかなり安定感が増している、武器に関してもダンジョンで拾った棒に石を括りつけて石斧を作った。
ナイフを持ってはいるのだが、適性が無い為上手に使えない。
まぁ生前はカッターナイフか包丁くらいしか使ったことがないので仕方ないのだ。
「調子が良い内に人里に出たいよね。あー、でも僕は服が血まみれだし、言い訳考えないと……」
「ミミちゃんのことも、ごまかすの!」
「それもあったね! あと身分証もないし、調べられるとキツイ。お金もないし、僕達の種族も知られたら不味いのでは? あー、どうしよう!」
あーでもない、こーでもないと話し合っていると、突然ミミちゃんが横から引っ張ってくる。
躓いて、僕はピアちゃんと一緒に倒れ込んでしまった。
何があったのか聞こうと顔を上げた時、すぐ横を白い毛玉が高速で通り過ぎていった。
「ぅおっ、何だ!? 何か飛んできたぞ!!」
「あるみらーじ、なの!」
「がうっがうっ! ぐるるぅぅぅ」
どうやらミミちゃんは、僕を守ろうと引っ張ってくれたらしい。
後でいっぱいお礼を言わないと!
アルミラージ、それはゲームでよく聞く兎型モンスターだ。
武器は額の角と、それを用いた突進。さっきの速度を見る限り、痛いじゃ済まなさそうだ。
大きさは80㎝前後、速度は野球ボールくらいかな。
アルミラージは軽いステップを踏みながら方向転換している。
突進以外はそれほど素早くはないみたい。
「ピアちゃん、しゃがんでいてね。これぐらいの速さならいける!」
再び突進してくるアルミラージ。
僕は飛んでくる毛玉に対して、石斧をフルスイングした。
「ギャウ!!」
悲鳴を上げて吹き飛ぶアルミラージ。
ダメージは大きい様だけど流石はモンスター、また立ち上がってきた。
僕はよろめいている兎に近づき、もう一度石斧を振り下ろした。
「ごめんね、でも鞭を使ったら余計に痛いと思ったから……」
「おねーちゃん……」
僕は生まれて初めて動物を殺してしまった。身を守るためとはいえ傷つけてしまった。
ちょっと泣きそう。
「おねーちゃん、げんきだして。ピアは守ってくれて、うれしかったの」
「がぅ。きゅーん、きゅーん。ぺろぺろ」
「うん、ありがとうね。すぐ元に戻るから」
僕は二人を震える手で抱き締めて、恐怖に締め付けられる胸を落ち着けた。
ここは異世界なんだ。地球じゃない。と自分に言い聞かせてゆっくりと目を開けると三人で顔を合わせて笑う。
「あはは、うん大丈夫だよ。何とか慣れるよ」
「ムリしないでね、おねーちゃん」
「ミミちゃんも、さっきはありがとう。あと、僕が慣れるまではサポートお願いね」
「がぅ♪」
とりあえず頂いた命を無駄にしないようアルミラージを糸にするかと立ち上がった時、背後から草の揺れる音がする。
振り返る僕達、そこには沢山の白い毛玉が赤い目を此方へ向けていた。
「ぎゃぁぁぁー!?」
「きゃあぁぁー!?」
「がぅうううー!?」
咄嗟に僕は思い切りミミちゃんをアルミラージの上へ投げた。
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