3‐⑯ 兎は贈り物をする

「何だか久しぶりに依頼受けた気がするよ」

「あ、それ分るー。毎日依頼受けてたから、五日受けていなかっただけでも何カ月も依頼を受けてなかった気分になるよー」

「まぁ、指導役として毎日依頼を受けているという事に違いはねぇんだがな」

「まぁまぁ、貴族から真っ当な長期の依頼を受けられるなんて滅多にない事です。光栄な事なのですよ?」

分かわーってるよ、別に文句があるってわけじゃねぇ。ウチのガキ共にとっても良い事だしな、感謝してるよ。ただ、腕が鈍りそうだって話だ」

「それなっ!」


 僕達と鋼の旋風、ゴンズの6人と1匹は、久々の休暇に各々討伐依頼を熟してリフレッシュした後、一緒にご飯を食べていた。

 休暇に討伐をしてリフレッシュするって社畜っぽいけど、僕はピアちゃんとミミちゃんとのコミュニケーションを兼ねているので十分リフレッシュになるのだ。


「おねーちゃん、おねーちゃん、『おろポン』欲しいの!」

「がぅっ!がぅっ!」

「はいはい、『おろしポン酢』ね。ミミちゃんはにんにく醤油? それ好きだねー」

「がぅ~♪」


 今二人が使っているのは、僕が試験的に作った調味料だ。

 旦那さんと料理長さんとの協力の元作られており、勿論情報も共有されている。

 特ににんにく醤油は、かける前に肉汁を混ぜて味を馴染ませる手の込みよう。

 my鉄板を用意し、肉に格子状の焼き目を付けその上からニンニク醤油をかけたことで、食堂内に暴力的な肉と醤油とニンニクの香りが立ち込める。


「はい、ミミちゃん。熱いから気を付けて食べるんだよ?」

「がぅっ!」


 ミミちゃんはナイフとフォークを上品に扱い、肉を切って食べる。正直言って僕より上手だ。

 美味しそうに食べるミミちゃんを眺めていると、この鉄板もミスリル製カトラリーも、高かったけど作って良かったなと思える。

 僕が美味しそうに食べる二人を眺めていると、唾を飲み込む音が聞こえる。


「・・・おい、兎。それ俺にもよこせ」

「すまん、俺達も良いか?」

「お姉さんも欲しいなぁー」

「私はおろし? と言うのが頂きたいです」


 周りを見ればガルドさん達だけでなく、他のテーブルからも視線が飛んでくる。

 一応、ミミちゃんの事も調味料の事もお店に許可を貰っていたのだが、想像以上にニンニクが効いたらしい。


「焼いてあげるのでちょっと待っていてください、先にお店の人ににんにく醤油お裾分けしてきます。あと、マルクさんのおろぽんはこれです。詳しくはピアちゃんに聞いてください」


 この食堂はミミちゃんの同伴を許可してくれた、ありがたい場所だ。

 お裾分けと共に調理法を教えに行くと、厨房の親父さんに喜ばれた。いえいえ、こちらこそいつもありがとう御座います。

 後で聞いたことだが、その日、食堂の売り上げは過去最高記録をたたき出したらしく改めてお礼を言われた。

 情けは人の為ならぬ、良い事をするとそれは自分に返ってくるものである。


 ◇


「いよいよね、ここまでよく頑張ったわよぉ」

「お母様、ありがとう御座います!」

「ありがとう御座います、母上!」


 遂に店舗と露店がお披露目される日、スピンドル兄妹はマルセナさんに頭を撫でられていた。

 相変わらず子供が三人並んでいるようにしか見えない。


「ユウ、ここまで協力してくれて感謝する。スピンドル家としてもここまで大掛かりな計画は久々だった、お前の協力が無ければ辿り着けたかもわからん」

「僕よりもジーク達と、働く子供達を褒めてあげてよ。本当に頑張ったと思うよ」

「あぁ、それは勿論。あとは今日を乗り切るだけだ」


 僕はそれから庭へ移動する。人の集まる場として一時的に借りている領主邸の庭には、ここまで共に頑張ってきたスラムと孤児院の人達が集まっていた。


「みんなー、今日までお疲れ様! これから、皆の勉強の成果が発揮されます。いつも通り進めれば大丈夫、仮に失敗しても怖がらないで、自分が出来なくても周りが助けてくれる。だから周りが困っていたら助けてあげよう、今日を全員で乗り切るよ!」

『『『おーーっ!!』』』


 スラムや孤児院の子供や大人たちは、今まで自分の為に生きている人が多かった。

 余裕が無いから、自分の事で精一杯で他に目を向ける余裕が無かったのだ。でも僕は誰かの為に頑張ることを丁寧に教えた。

 親の為、兄弟の為、仲間の為、そうすれば目が周りに向くようになる。

 敵ではなく、人を見るようになる。そうすれば気付く、『この人は自分を助けてくれる』と。


 そうして更に家族を大切にするようになった孤児院の子供達、荒んだ雰囲気の薄らいだスラムの子供達、やる気を取り戻した大人達が皆未来を向くようになった。

 勿論ここまで上手く物事が進んだのは、神獣様効果やエリザベスさんの協力があったからだし、偶然も多いだろう。

 でも一度流れに乗ってしまえば、後はそれを守っていくだけ。スピンドル家にはそれが十分に可能だろう。そして僕はそれの後押しになるよう、あるものを手渡す。


「はい、全員これを着けていってね。お守りだから、紐が切れるまで外しちゃだめだよー」


 僕は従業員全員に渡したのは『幸運のミサンガ』というアクセサリー。

 これはジュエルタートルと言う魔物から採れる、『フォーチュンダイヤ』と言うギャンブルみたいな名前の宝石から作ったミサンガに、『祝福』を掛けたものだ。

 装備者の運命を切り開く効果があるらしい。

 装備の効果など知りはしないだろう、だが渡された皆の嬉しそうな顔を見れただけでも、渡した甲斐があるというものだ。

 そして、ここまで一緒に頑張ってくれた人達にもお礼を渡す。


「あとこっちは皆ね。小さいけどマジックバッグだよ」


 スピンドル家と鋼の旋風、そしてゴンズにサイドポーチサイズのマジックバッグを手渡した。

 これは街に着いた頃に入手したディメン草で出来た『次元の侵糸』から作ったマジックバッグだ、購入してからずっと放置していたのを思い出し今回使ってみた。

 つまり、お礼とは名ばかりの在庫処分だったりする。でも在れば、何かしら役に立つだろう。


 鞄の意匠は全て同じだが、それぞれのイメージカラーに染めてある。

 アルバートさんは群青色、苦労人っぽいから。マルセナさんは黄色、ジークは橙色、エリザベートは桜色。ゴンズは、よく分からないから黒色、ガルドさんは熊っぽいから茶色、マルクスさんは若緑色、クレアさんはワインレッド。変態だからショッキングピンクにしてやろうかと思ったけど、可哀想だから止めた。


「お前は、何つーもんを渡してくるんだ・・・」

「これは・・・凄い魔力が込められていますね。アクセサリーにしても、信じられない事にエルフの神域と同じ力を感じます・・・」

「お兄様っお兄様っ! お姉様からのプレゼントですわっ、お兄様とお揃いですわっ!」

「うん、良かったねエリザ。姉様、ありがとう御座います。一生大切にします・・・」

「ユウちゃん・・・まさか、これ作ったのっ⁉ うそでしょっ⁉ ・・・アルバート、これは大変な事になったわよ」


 何だか、反応が様々だ。てっきりジークやエリザベートみたいな喜び方をしてくれると思っていたんだけど、大人の面々は予想とは違う驚き方をしていた。

 でもこれはそんなに大した物じゃない、入る量だって2m×2mのスペースまでだし、時間停止も整理整頓もついていない。一応防犯機能は付いているが、ミミちゃんやヤドカリテントと比べても普通だ。

 しかし貰った方からしたらそうでもないようで、アルバートさんが神妙な面持ちで話し始めた。


「全員聞け、今貰ったものは絶対に肌身離さず持ち歩け。そして製作者の名前を絶対に口外するな、すればスピンドル家を敵に回すと思え」

「お、俺みてぇなのが持っていても、良いんですかい?」

「ユウから手渡されたんだ。信用されているのだろう、問題は無い。だが口外するな。・・・あと、ユウッ!!」

「はいぃぃーー⁉」

「安易な行動をとるなっ!! 貴族に飼い殺しにされたいのかお前はっ⁉」


 アルバートさんは、オーガも真っ青な怒りの表情を僕に向けた。

 どうやら、やらかしてしまったらしい。

 それから出発する直前まで、アルバートさんとマルセナさんに公開説教されることとなった。

 気のせいか、最近叱られてばっかりな気がするな。

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