2‐⑥ 神様からのお土産

 文化が消滅する。

 だから編み物の技術や、仕事だけが存在しない等という状況になっていた。

 僕の予想はあながち間違いではなかったようだ。


「此処迄で力を使い過ぎた、我はまた大地に眠る。どうか頼む」

「私も本来はこっちに干渉しちゃダメなのよー、それどころか日本の神様にも無許可で貴方を連れて来ちゃったから怒られてるのー」


 他部署のものを勝手に持ってきたのだ、当然怒られる。


「間も無く、そなた等を地上に戻さねばならぬ。最後に聞きたいことはあるか?」


 その言葉に、今迄全く声を発していなかったピアちゃんが手を上げた。


「テラ様に聞きたいの、テラ様はピアのパパなの?」

「……我にはそう名乗る資格がない、今迄会う事も出来なかったのだから。だが、ウェヌスはリアムと我の力から生まれし子。我が娘、そう言って相違ない」

「パパ……」

「また我が目覚めた後、ゆるりと話をしよう。……、どうか健やかであれ」


 そう言ってテラ様は、優しくそして心を込めてピアちゃんを撫でた。


「じゃあ最後に私からも少し、力を渡しておくわ。きっと役に立つと思うから頑張ってね!」

「では地上に戻す。ユウよ、ピリアリートの体に居るそなたも我が娘に相違ない、見守っているぞ」

「任せて下さい!」


 姿が薄れていく中、僕達を見詰めるテラ様の表情は凄く優しかった。


 今回の説明で分かったことは多い。

 どうして僕が呼ばれたのか。

 ピアちゃんとの関係と、神様への復帰。

 怪しい組織の存在とその動き。

 厄神の動向と討伐。


 やることは本当に多い、だが最初にやることは決まっている。

 まずはピアちゃんの力を取り戻すこと。


 ピアちゃんは糸の女神様だ。

 糸の文化を広める事が、信仰を集めるのに繋がるのだろう。

 ならば、僕の最も得意なやり方で進めていこうと思う。

 

「編み物の布教活動、開始だなっ!」


 ◇


 ”布教活動を始める”、そう意気込んだは良いものの、それには先立つものが必要。

 それは『お金』。

 何を隠そう、僕は天下無敵の無一文。

 明後日には路上生活の未来を持った男だ、まぁ女だが。

 ピアちゃん達を路上に寝かせるだなんて、姉としての矜持が許さない。

 従って、明日から精力的に働かねばならない。


(明日、朝から冒険者ギルド行こう。お仕事貰わなきゃ......)


 何処か就職浪人の雰囲気を出している僕を、ピアちゃん達は不思議そうに見ていた。


「そういえばアルテミス様が力を分けてくれるって言ってたよね、ちょっと見てみようか」

「うん、ピアにも教えてなの!」


 ◆ ユウ・マキマ / 15歳 / 女

   種族 :兎人族・半神人【隠蔽中】 / 職業 :編み物師

   称号 :妹大好き、ミミックの主、女神の姉【隠蔽中】

       異世界のニッター【隠蔽中】

  固有技能:神様のレシピ本【隠蔽中】、☆祝福、☆換装ドレスアップ


 ◆ ピリアリート・ウェヌス / 300歳 / 女

   種族 :兎人族・半神人【隠蔽中】 / 職業 :妹

   称号 :姉大好き、平和と愛の女神【隠蔽中】

  固有技能:糸の権能【隠蔽中】、☆祝福、☆換装ドレスアップ


 ◆ ミミ / - 歳 / 雌

   種族 :特殊ミミック / 職業 :マジックバッグ

   称号 :知恵ある神話級道具インテリジェンス・アーティファクト

       女神のペット

  固有技能:無限収納、時間停止、整理整頓、☆念動力


 アルテミス様から貰った力は、祝福・換装・念動力の三つ。

 その内、『換装』がどこで役に立つのか全く分からなかった。

 文字面からして、早く服を着替えられるスキルだと思うのだが......。


(そもそも服をあまり持ってないんだよねぇ、ピアちゃんの服はいずれいっぱい買ってあげたいから役に立つと思うけど......)


 僕は男だった頃からあまり服を持たない性格だったので、”気温で変える”以上の意識が無い。

 しかし、アルテミス様がわざわざ”役に立つ”と考えて贈ってくれた力だ、大切にしよう。


 二つ目の『祝福』を試したところ、ピアちゃんに対して発動しなかった。

 しかしミミちゃんには発動できた、これはピアちゃんも同様。

 そこで色々と試した所、これは”物に対して祝福を施せるスキル”であることが分かった。

 ミミちゃんは生きているが、本体はマジックバッグである。その為、発動したのだろう。


 祝福の効果自体は未だ不明。

 しかし恐らくだが、幸運値を上げたり、悪いものを払うスキルであると考えている。


 最期にミミちゃんが貰った『念動力』。

 これは文字通り手を動かさずに物を動かす力だった。

 これによりミミちゃんは自分でご飯を食べることが出来るようになり、短時間であれば自分で自由自在に動けるようになった。

 というか、高速移動できるようになった、本気で早い。


「どれもすごいスキルだったね、今度外に出た時試してみようか」

「ミミちゃんと、どっちが早いか競争するの!」

「がうぅー!」

 

 一通りの検証を終えた僕達は、疲れてそのまま三人一緒に眠りについた。

 明日は気合を入れて仕事探しをしなければならない。

  

 ◇


 朝、体感八時頃アネッサさんから朝ご飯を貰う為、食堂へ降りてきている。

 ちょっと硬い黒パンに、野菜の入った塩スープ、ベーコンみたいな何かが乗った生野菜のサラダに、くし切りにされたオレンジが、今日の朝食。


 相変わらず朝はウトウトしているピアちゃんと、自力で食べられないミミちゃんにご飯をあげて、僕達は冒険者ギルドに出発した。

 ちなみにアネッサさんは多少吃驚していたものの、ミミちゃんの可愛さが分かったのか、一緒になってご飯を食べさせてくれていた。

 流石おかん、根性が座っている。

 食べ終わって、アネッサさんに見送られながら僕達は宿を出発した。


 冒険者ギルドに到着したのは十分早い時間だと思っていたのだが、それでも遅かったらしく依頼表が減っていた。

 ギルド内を見渡すと、偶然近くにマルクスさんが居たので話し掛けてみる。


「マルクスさんおはよう御座います。早いですね!」

「おはよう御座います。いえ、冒険者としては遅いぐらいですよ? 皆さん日が昇る頃に集まりますので」


 マジかよ、日が昇るって五時頃じゃん、早いなんてもんじゃない。

 そこまで早いと六文くらい得しそうだな。

 ついでなので依頼の受け方とか詳細を聞いてみることにした。


 受けられる依頼は主に五種類、『討伐』『採取』『護衛』『手伝い』『調査』である。

 討伐と採取は村や商会からの依頼で、文字通り街の外に出て依頼内容をこなす。

 護衛は貴族や商人からの依頼で、街を移動する間の場合が多い。勿論街中の事もある。

 手伝いは民間からの事が多く、ほぼ街中での仕事内容。

 調査は色々あるが、冒険者ギルドに来るものは魔物の生態調査であることが多い。身元調査などの場合は盗賊ギルドに依頼されるからだ。


 この内、討伐と採取は比較的報償が多く、依頼表が早朝に貼り出されて取り合いになる。

 その他、『緊急』と『指名』があるが、此方は自分からは受けられない。

 あとは依頼表に書かれた期限や内容を守れば、細かいルールは無いらしい。


「手伝い系の方が、比較的期限が長いんだね。あと仕事内容が、本当に色々ある。家の片付け、畑の手伝い、猫探し、土木作業員......」

「猫さん探すのが楽しそうなの。おねーちゃんどぼくって何するの?」

「お家とか、壁を作るお手伝いだってさー」

「がぅ!」


 三人でアレが楽しい、コレが面白そうだと相談を続け依頼を物色する。

 それから僕達は、ほぼお手伝い系依頼だけを受け続け、一カ月ほどを過ごしたのだった。

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