4‐② 兎と進化した力
「エリザちゃんのママ、ピアとおねーちゃんなら何とか出来るのっ!」
「ピアちゃん・・・」
出来れば言って欲しくなかった。反面、きっとこの子なら言うだろうなとも思っていた。
彼女の言う通り、実は見つける方法はある。あるんだけど・・・。
「ピアちゃん、分かるかな。皆が怖がるかもしれないし、悪い人も来るかもしれないよ?」
「おねーちゃん、ピアは大丈夫なの。だから皆を見つけてあげて欲しいの」
僕は暫し考える、子供達の救助、僕達の秘密、そして一番大事なピアちゃんとミミちゃんの安全。
ピアちゃんが、じっと僕を見詰める。その目が訴えてくる、「助けてあげて欲しい」と。
「・・・はぁぁ〜〜、分かった。たぶん、何とかなるでしょう。何とかするよ」
「うんっ!」
どの道もう手段があることを伝えてしまったのだ、僕は腹を括る事にした。
それは先日のことだった。
露店初日が良い結果に終わり一安心と休憩を取っていると、不意にレシピ本と同じ声のアナウンスが頭に響いた。
『半神人ユウ、半神人ピリアリートに一定の信仰が集まった為、能力を一部解放します』
どうやら布教活動のおかげか、神として力が増したらしい。
階位としては半神人のままだが新しい力を得ていた。
その一つが・・・。
「『共有化』!! えーーいっ!」
目の前を埋め尽くす糸、それは頭上だけに留まらず部屋中を埋め尽くす。
「何っ、何が起こってるのぉっ⁉」
「何だこりゃっ、新手の魔物かっ⁉」
予想通り、やはり皆は突然起きた現象に騒ぎ始めた。
だがこれは目の前の光景だけが原因ではない、この光景には少ないながらも『神気』が発生しているのだ。
神気は人に畏れを抱かせる、ちょうど僕達が初めてテラ様と会った時のように。
いつも飄々としているマルセナさんですらそうなのだから、神気と言うものの影響力は凄まじいものがある。だが、中にはこういう現象に慣れている者も居る──エリザベスさんと、マルクスさんだ。
「アンタ達、騒ぐんじゃないよ。安心しな危険はない、危ない物だったら、今頃アタシ等は死んでるよ」
「はい。全く現象は違いますが、里の神樹にもこのような場所があります。問題は無いでしょう」
僕達の代わりに場を治めてくれた二人は、理解しきれていないながらも説明をしてくれた。
その間もピアちゃんの作業は続く。
「みんなの糸、ピアの所に来て! ・・・──っ、おねーちゃんっ!」
見えていた糸はピアちゃんが手を振る度に減っていき、最終的に30本ほどの糸が残った。
ピアちゃんが今行った『共有化』とは、信仰を得たことで解放された力の一つ。
その能力は今迄彼女にしか見えていなかった『運命の糸』を他者にも見えるようにする事、だがこの能力は糸を見えるようにするだけで触れたりすることは出来ない。
だがこの糸を道具に変える方法が一つだけある。
「『神様のレシピ本』オートモード起動! 作成『アリアドネの糸』!」
しゅるるると音を立てながら、触れることの出来ない糸を高速で編み上げる。
そうして出来上がったのは、30センチほどの長さの、いくつかの紐。紐の一方の先端はまるで霞がかった様に消えており、紐は常に何かに引っ張られるように同じ方向に先端を向いていた。
「ユウちゃん、ピアちゃん。今のは一体何なの?」
「今のは僕達のスキルです、説明はまた後で! この紐は子供達が居る方向を向いています、この紐に従って進めば道に迷うことなく確実に辿り着ける筈です」
「何本もあるってことは、別々に捕まってるってことだね。ウチの子のはどれだい?」
「こっちが孤児院の子。こっちがスラムの子だよ、はいっ、ゴンズ持ってって!」
この糸はその名の通り、
ピアちゃんが捉えた子供達との繋がり。少ないながらも市街の子の糸を捕まえることが出来たのは、僕達がずっとお手伝い系依頼を消化していたからである。
恐らく討伐依頼ばかりを熟していたら、糸は捕まえられなかっただろう。
「一先ず、孤児院の残りの子は領主邸に行って貰おう。マルセナさん、騎士の人数はどうですか?」
「門の閉鎖や、避難誘導にも割いているから、あまり余裕は無いないわねぇ。でもユウちゃんのお陰で子供達の居る場所が分かったから、無駄な人手を割かずに済んだわ、これで何とかなりそう。エレナちゃん、ドラちゃんに連絡して冒険者を駆り出して貰えるかしら?」
「畏まりました」
(マルセナさん、ギルマスのことドラちゃんって呼んでるの?)
青いタヌキに怒られそうだなぁ。
街にある拠点の一つ一つは大きな規模の物ではないらしく、騎士団と冒険者の混成部隊で対処するらしい。
それよりも問題は激戦区になるであろうスラム街。糸の指す方向を見るに、孤児院とスラムの子はスラム街に居るらしい。そして恐らく犯人も。
それから突入組は各々準備をし、30分後にスラム街前に集合となった。
僕は席を外す前にマルセナさんに声を掛ける。
「あ、マルセナさん。ちょっと相談が・・・」
今回何が起こるか分からない、僕は念の為に保険を掛けることにした。
◇
最初に集合場所に着いたのは僕達だった。
待っている間に頭を過るのは見せてしまった力のこと。不安が多すぎてお腹の中がぐるぐるしている。
(誤魔化せるかな? いや、流石に無理かぁ・・・)
お前は何だ? と聞かれても「神様です」としか答えられない。
しかしそんな事を言われて信じる人間がどれだけ居るだろう?
(僕達って、全然神様っぽくないんだよねぇ・・・いっそ開き直った方が良いのかなぁ?)
一人うんうんと悩んでいると足音が聞こえた──エリザベスさんだ。
やって来た彼女は手ぶらだった──いや、首から大きな十字架らしき物を二つ下げていた。
恐らく彼女の教会の象徴のような物なのだろう、40センチほどの十字架に似た物体が二つ鎖で繋がっている。
「エリザベスさん、武器は?」
「あん? これさね」
十字架を指差す。それ大丈夫なの? いろんな意味で。
まぁ、エリザベスさんは素手でも十分強そうだが。
彼女の後ろからは続々とメンバーが姿を現し、最後に騎士を連れたアルバートさんと冒険者を連れたドラニクスさんが登場する。
マルセナさんは街にある拠点破壊に回るらしい。
「全員揃った様だな、話は多少聞いている。紐の向かう先が違う事からメンバーも途中から二手に分ける。目的は子供達の救助だ、犯罪者共の捕縛は二の次で良い。突入だっ!!」
冒険者と騎士の混成部隊がスラム街を駆ける。
向かう先は以前ゴンズの話に上がった、スラムにある背の高い建物。その近辺をぐるっと頑丈そうな壁が囲い、あたかももう一つ別の街があるかのようだった。
それを見たアルバートさんは余程腹に据えかねたんだろう、「俺の街で好き勝手しやがってっ!!」と凄まじい怒りを放っていた。
飛び越えるには少々高過ぎる壁、その上には警備の者だろう何十人もの男達がこちらに矢を射ている。
向かう先には巨大な門。何人か辿り着いた者が攻撃をしても傷一つ付かないあたり、ただの鉄では無いようだ。
「ありゃあ、ミスリル合金だねぇ。ミスリルの硬さに鉄なんかの柔軟性を持った合金だよ、こりゃあ普通にゃ入れないね、全く・・・」
「えぇ、どうしよう・・・爆弾でも持ってくる?」
いきなり出鼻を挫かれた。エリザベスさん曰く、ミスリルは魔力を抜くと凄い硬度になるらしい。
僕が冗談交じりの代替案を出すと、エリザベスさんは鼻で笑い親指でガルドさんを指す。
「普通はね。だがあの子が居りゃ大丈夫だ、やっちまいな『
「その名前嫌ぇなんだよな、だが今回はいっちょ頑張るかっ!」
Bランクに到達した冒険者は、その殆どが象徴する二つ名を持っている。
ガルドさんの二つ名は『
「ガルドさんの大剣が光ってるっ!?」
剣が纏った光は以前僕の体が纏ったものと似た光。
だが僕のときとは違い、光は凝縮し目を焼くほどに強く輝く。
「俺を止めたきゃ、オリハルコンの壁でも作るべきだったなっ!! うらぁぁぁぁっ!!」
一閃──ただそれだけで何十メートルもあった前方の壁が上下に分断され、崩壊した。
ミスリル合金製の大門は、防壁ごと切断され見るも無残な姿を晒している。
一メートル程の刀身で起こす大斬撃、まさしくガルドさんの名は体を表す技であった。
「すっげぇ・・・強いのに初めて会った日、何でゴブなんかに負けてたんだろう?」
単なる相性の問題だったのだが、それを僕が知ることは無かった。
「ここで冒険者と騎士を半分に分けるぞ。エリザベス様は右に、ゴンズは左に行け。突入組の騎士と冒険者は更に二手に分かれろ。鋼の旋風とドラニクスは左を、ユウとピアは右を頼む。俺はここに残って全体の指揮だ」
僕達はそれぞれアリアドネの糸を頼りに子供達の捜索に出た。
◇
多少無茶をしたが想定以上のガキを集める事が出来た。
帝国の売人曰く、人数はいくら居ても問題ないらしい。いったい何に使っているのか分かったもんじゃ無い。
「街中のアジトで騒ぎを起こしたんだ、今頃クソ貴族も、騎士共も、あの化け物も見当違いの場所を探しているに違いねぇ。しかも門の封鎖何てぇ無駄なことまでしてやがる、後はタイミングを見計らうだけだな」
己の計画が思いの外成果を上げた為に、赤鱗は悦に浸っていた。今回の取引がうまくいけば数年は遊んで暮らせる金が手に入る。そう思うだけで笑いが込み上げてきた。
だがそんな男に、轟音と共に凶報が知らされる。
ゴゴゴゴゴ・・・ズゥゥゥゥン
「何だっ、何の音だ⁉」
「ボス、アジトに討ち入りがあり、門が破られました。領主とエリザベス・ガブリエラ、それに大人数の騎士と冒険者です」
「何だとっ、どうやったらあれが破られるっ⁉ 最硬度の金属だぞっ!!」
赤鱗はBランクを顎で使えるような実力者だ、普段ならばこれ程狼狽えることはない。
だが今回はあのエリザベスが居る。じわりじわりと迫ってくる圧迫感に、赤鱗は真綿で首を絞められるような感覚に襲われるのだった。
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