5-⑤ 兎と寝坊助娘

 僕の神力使いすぎ事件season2から二日後、僕はまだベットの上に居た。


「おぎゃああぁぁぁーーっ、頭痛いっ!!」

「おねーちゃん、大丈夫なの? あんなに力使ったらダメなのよ?」

「がぁふうぅぅ~~」


 ミミちゃんにため息つかれたっ⁉

 そりゃ全面的に僕が悪いけどっ、お守りなんだよ? しゃーなくない? きっと日本のお守りだって、祀られてる神様が身を削ってお守り作ってるんだってっ!

 ※日本のお守りはカタログ受注製品です。


「アラミス、どうにかして差し上げられないのでありますか? 姫がお労しいのであります」

「吾にも減ったものを増やすことは出来ぬ、それが神力ならば尚更。姫様、申し訳ありません」

「い、良いよぉ。でぇ〜じょおぶだぁぁ〜〜・・・ぐへぇ」


 アニマル’sもここ二日、僕を心配して四匹でずっと僕に付いてくれている。

 嬉しいけど空元気もここまでだなぁ。うへぇ、インフルエンザにかかった気分だぁ・・・。


「おふぅ・・お腹も痛い・・・・・・ん? そういえば僕ってアレ来ないんだろうか?」

「アレ? 誰か待ってるの?」

「いやぁ、待ってるというか。出来れば来ないでくれると嬉しいんだけど、この状況で来るのは定番というか・・・」


 半年過ごしていて、全く来る気配が無いんだけど・・・TSもののテンプレ、「女の子の日」。

 よく知らんがアレって一カ月に一回来るって話じゃなかったんだっけ? 来てほしくないけど、来ないなら来ないで心配だ。

 その内ピアちゃんだって来るかもしれない、その為にも姉として自分で体験しておく必要がある。でも来ない。

 ・・・病気だったりしないよな?


「うん、今度アルテミス様に聞いてみよう!」

「よく分からないけど、それが良いの!」


 とりあえず昨日よりは動けるようにはなったから仕事しないと。このままじゃ僕がニートみたいだし、ピアちゃんが引き籠りになっちゃう!

 ちなみに僕が冒険者業をしなくても生活できているのは、編み物販売の権利所得のお陰だ。


「それにしても、力を使うたびに倒れるんじゃ滅多に使えないね。僕はスキル頼りの使い方だし」


 神力を直に操れないから、祝福を通してしか使えない。直に操れたら微調整できそうなするんだけどなぁ。

 ピアちゃんも使い方が分からないって言ってたし、これもアルテミス様案件だな、よしっ!


 よく分からない事を片っ端からアルテミス様に投げるという罰当たりな事をしていたら、何処からか声が聞こえてきた。

 僕が無事を知りたくて、待っていた声だ。


『ぅううぅぅぅ・・・きもち・・・わるい・・・』

「起き抜け一番から体調悪そうっ⁉⁉」


 スクナの中から救い出した精霊の子だ。だけど、いきなりどうしたっ⁉

 まぁ、僕も体調不良だから人の事言えないけどねっ! ・・・あれ? これボクせいか?


「おはようっ、待ってたよ! 体調悪そうだけど、どうしたの?」

『マーマ・・・おはょ・・・ぜんぶ・・・・・・マーマの、せい』


 やっぱり僕のせいだった。


『うぅ・・・マーマのちから・・・・・・ぐるぐる、する』

「あ、神力使いすぎたせいかっ! そいえば、僕の中で力を回復するって言ってたね・・・超ごめん」

『ん・・・いい』


 そう呟くと、精霊の子が僕のお腹辺りからすぅ~っと光の玉になって出てきた。

 何か蛍みたいだなぁ、見ていてホッコリする。


 光の玉は僕の目の高さまで浮かび上がると、少し強めに光り、人型に変わった。


「おっ、あの時の小さい精霊か! 元気になったんだな!」

「改めて、おはよう! もう自由に動けるの?」

『ずっとは、むり・・・からだ・・・ほしい』


 体かぁ、アニマル’sみたいに依り代が欲しいってことかな?

 でも最近編めて無いんだよねぇ、丁度良いものあったかなぁ?


「おねーちゃん、鳥さんが良いと思うの!」

「鳥さん? あぁ『たまヒヨ』か! え、あんなので良いの?」

『たま・・・ヒヨ?』


 流石にたまヒヨは知らないよね。

 というわけで、あれから更に溜まりに溜まったたまヒヨをベットに並べて選ばせてあげることにした。


 ベッドを埋め尽くし机をも占領するたまヒヨ軍団、実に圧巻だ。謎の達成感があるねっ!


『おぉ〜、モフモフでかわいい、いっぱいいる・・・』


 精霊っ娘初の長文! 気に入ってくれたみたいで良かった。


「好きな子を選んで良いよ。色も大きさも表情も違うから、じっくり選んでね!」

『うん。・・・ありがとう!』


 たまヒヨの上を飛び回り、依り代を厳選する精霊っ娘。

 何時までも精霊っ娘じゃ可哀想だな、そういえば名前を聞いていなかった。


「ねぇ、そういえば君の名前は何ていうの?」

『・・・ない』

「ない? でも「ウェヌス」みたいな、神名にちなんだ名前とかあるんじゃないの?」

『んーん、ない・・・マーマ、つけて』


 付けるのは構わないんだけど、無いのは何でなんだろう?

 神気を放ってたし、神様なんだよね?

 名前とか勝手に付けて良いもんなんだろうか?


 僕が悩んでいると、意外にもピアちゃんから答えが返ってきた。


「おねーちゃん、神と精霊は似てるけど違うの。精霊は物に神力が宿ったものだから、神格を持っていないの」

「へぇ、精霊ってそう生まれるんだ? 神格が無いから権能も神名も無いんだね。日本で言うところの『付喪神』みたいなもんかな」


 あれも物に心とか力が宿ったものだ、たぶん似たようなもんだろう。

 精霊っ娘の名前か、何が良いかな。可愛いのにしてあげたい。


「君って唄の精霊で合ってる?」

『あってる・・・うたって・・・みんな、げんき』

「みんな元気? 支援能力なのかな、すごく良い力だね!」

『えっへん!』


 桜色の髪を揺らしながら胸を張る姿が微笑ましい。何この子、超かわいいんだけど。


 見た目はどことなく植物をイメージさせるけど、なるほど、唄の精霊か。

 流石に「サクラ」とかじゃ安直だよねー。可愛いとは思うけど、もう少し捻りたいな。


 プラント・・・ツリー? いや唄関連で行こうか、となるとミュージック? オンプ、アルト、ソプラノ・・・ソング? ゴスペル・・・あっ、「セレナーデ」はどうだ!


「よしっ、君の名前は『セレナ』! ラテン語で”穏やか”や”平穏”って意味なんだけど、どうかな?」

『セレナ? ・・・セレナ。うん、かわいい! ありがとうっ、セレナは、きょうからセレナ!』


 セレナはキラキラと輝きながら僕の周りを飛び回った。うんうん、かわゆい!


『あと・・・これが、いい』

「あぁ、体も決まったんだね。あれ? これって最初に僕が編んだたまヒヨじゃん」


 セレナは何と数百羽いるたまヒヨの中から、たった1羽だけしか居ない僕のたまヒヨを見つけ出したらしい。


『このこから・・・いちばん、マーマ・・・かんじる』

「そうなんだ? 他と素材は一緒なんだけど・・・何か違うのかな? ま、良いや! じゃあその子はセレナにあげるね!」

『うん、ありがとう・・・』


 セレナは僕の中に入っていった時と同じく、溶け込むようにたまヒヨの中に入っていった。

 するとたまヒヨが動き、ちっちゃく生えた翼を羽ばたかせながら空を飛び始める。あの翼でよく飛んだりできるなぁ。

 ちなみにセレナの入ったたまヒヨは、アニマル’sのようにリアルな動物にはならず、編みぐるみの外見を保ったまま動いている。

 この辺りは僕のスキルが関係しているかどうかの違いなんだろうな。


『マーマ。セレナ・・・これから、ずっと・・・いっしょ』


 飛んでいたセレナは僕の肩に留まり、嬉しそうに、でも少し恥ずかしそうに、そう僕に伝えてきた。

 こうして僕の家族に、新しく可愛い子が増えたのだった。


 〜後日〜


「・・・・・・あっ、『ママ』を訂正してもらうの忘れてた」


 まぁ、いいか。もぅ、姫でもママでも好きに呼んでくれっ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る