【Character Story④】 とある領主の言い訳
謎の組織との騒動も一旦の収まりをみせ、一先ずは事後処理となった。
今回、英雄とも言える活躍をみせたユウだが、「よくやった!」と手放しで褒めるわけにはいかない事実が判明した。
ユウの、正しくはあの姉妹の正体は「神」だったのだ。
王国に神が現れるのは初めてではない。
今現在留まっている神も居れば、役目を果たし天界に帰った神も居る為、神がどういったものなのかという情報は意外に多い。
その内容は多岐に渡り、中でも特に重要なのは「神は決して善き神のみに非ず」ということだ。
神は人の純粋な想いから産まれるらしい、だが人の想いとは決して綺麗なものだけではない。従って、産まれる神も綺麗であるとは限らないのだ。
確実に悪であると断ずることができる神ならば、まだ対処はできる。厄介なのは、無自覚な神だ。
かつて他国に「惑わす神」というのが現れた、この神は本人も自覚しない内に言動、所作で人の心を掻き乱し、結果四つもの村が滅んだ。
本人にも自覚が無かったが為に起こった悲劇だが、俺はユウがこの神に該当する可能性があると考えている。
考えたくない、そう思いたくもないが、俺を含め街の皆が
確かにユウは愛らしい良い子だ、だがそれにしても早すぎる。あの子らは街に来てまだ半年なのだ。
そしてあの兎から猫に姿を変える能力。少し系統は違うが、姿を偽る能力は惑わす神の特徴でもある。
だが一方で、糸を操作する力を持っているとも聞いた。そういった能力は文化を伝える「技能神」の特徴だ、こちらは総じて善神であるため安心できる。
「ユウ、お前はどちらだ? 願わくば善神であってくれ・・・」
それから一週間ほど経ち、ようやくユウが目を覚ましたとマルセナから報告が入る。俺はその報告に心底安堵すると同時に酷く沈んだ気持ちになる。
俺は今から友や保護者ではなく、領主としてユウに会いに行く。これも、王にこの場を任された者の務めである。
恐らく脅すような言動になるだろう、ユウの反応を想像するだけで心が痛い。
「これも・・・領主の仕事・・・か・・・」
領主の仕事はこんなにも辛いものだっただろうか? 俺はその気持ちを顔に出さぬよう、二重三重の仮面を貼り付けて客間へ向かった。
◇
それから話し合いが終わり、ユウはピアに手を引かれて退室する。退室する時も、あの子はまだ少し涙ぐんでいた。
自分があの子を泣かせてしまったのだと、思い出すだけで胸を掻き毟りたくなる。だが、これは必要なことだったのだ。領民の命を守る義務が俺にはある。そう自分に言い聞かせないと暴れてしまいそうだ。
「泣かせてしまったな、怒っているだろうか?」
「まぁ貴方の気持ちも分かるけどねぇ、あと私の『
詰問中、感情的になられても困るのでマルセナに冷静になる魔法を使って貰っていたのだが、あの子はそれを安々と破っていった。その結果大泣きしてしまったのだが、まさか精心系魔法を得意とするマルセナの魔法が効かないとは・・・流石は神といった所だろう。
あの子は許してくれるだろうか、嫌われたくは無いな。
ユウが退室した部屋には俺とマルセナとジーク、エリザベス様にドラニクス殿、ガルドとマルクス、そしてゴンズの八名が残った。あとはユウの付き添いだ。
「皆はどう思った? 事前に話してあったと思うが、俺はやはり何かが可怪しいように思う」
話し合いをするにあたり俺は皆に懸念している事を伝えてあり、皆もそれを踏まえてユウと会話していた。まぁクレアとエリザベートは・・・仕方あるまい、特に懐いているからな。
「確かに言われて初めて気付きやしたが、俺ぁ初めての感覚でさぁ」
「アンタの言うように少し気になる所はあるさね、だが強制されている感じは無かったねぇ」
「そうですね。特に邪な気配も感じませんでしたし、私には何か神の力が働いている雰囲気も感じませんでした」
「それは俺も同意見だ、ただ胸に残るこの感覚は・・・里への郷愁だろうか?」
「・・・・・・」
「何だ、マルセナ。何か思い付くことでもあったか?」
「・・・いえ、何でもないわぁ」
各々ユウの放つ独特の雰囲気に引っ張られぬよう感想を口にする中、意外な二人が同じ感想を漏らす。
「
「あ、ガルドさんもですか? 僕もなのです。なんと言いますか、凄く馴染みのある・・・言葉にするのが難しいのですが、『わがままを言っても許されるけれど絶対に泣かせてはいけない』そんな感覚と言いますか・・・」
「そうそう、そんな感じだ! 何つーか、『家の中』みてぇな?」
「何と言いますか、姉様からは『無条件に守って貰える』そんな雰囲気を感じます」
ガルドとジークの言葉に、俺達は妙な納得感を得た。
ユウの力の正体はさておき、話し合いの結果あの子は善神であることが
大凡というのは、あの子が何の神なのかも分からなかったのだ。
なぜ本人が分からないのかそれが一番分からなかったが、スキルから察するに技能神だろうと暫定的に決まったので、あとは様子見になった。
「しかし、姿を偽装するスキルかと思えば、まさか作った魔道具の力とは予想外だった」
「そのスキルも
「ますます余所に話せない事が増えたな」
あんなものを次々作られては人間社会が崩壊する、それでは技能神と言えど惑わす神と何も変わらない。あの子には色々と注意しておかなければ。
「ただ、問題は・・・あの子は俺と話をしてくれるだろうか? 正直、エリザベートにも嫌われた気がするのだが?」
「そこは貴方の努力次第じゃないかしら? まぁ男親は嫌われることも仕事の内よぉ」
「そんな仕事、絶対に嫌だぞ・・・」
意地でもユウとの仲を修復する。そう心に誓った俺だった。
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