3‐⑦ 意外な協力者
翌日、僕はいつもの様に、朝はウトウトしているピアちゃんに朝ご飯を食べさせている。
僕達は普段より一時間ほど早い時間に起きている、と言うのもエリザベートが頼んでいたらしく、メイドさんに起こされたのだ。
メイドさんに起こして貰うなんて生まれて初めての経験で、新鮮だった。そして声を大にして言おう。
──”メイドさんは良いぞ”と。
エリザベートは朝に強いらしくシャキッとしている、今は楽しそうだからと僕に代わってミミちゃんにご飯を食べさせてくれている。
ミミちゃん、たまには自分で食べようね。
今日の僕の仕事内容は、エリザベスさんにお店の話を持って行って協力を取り付けること。その後、スラムへ行って人員確保だ。
スラム街は僕等が想像している以上に住人同士の信頼関係が固いらしい。
その為、外から来た人間に対し非常に警戒している。
特に最近は子供が攫われるという事件が起こっているらしく、そんな時に「子供を雇わせてくれ」なんて言ったら袋叩きにされちゃう。
その為、まずは顔繫ぎを兼ねた案内人が必要、誰か適任が居ないかな?
朝食を終え、身支度を終えた僕達は、一行にジークと護衛二人を加えた六人と一匹で孤児院に移動した。
ちなみにエリザベートとジークは現在、一般市民のような服装をしている。
だが雰囲気と汚れの無い服のせいで、微妙に人に紛れ込み切れていない。
(まぁ、メイドさんに汚れた服を用意して下さいって言う方が難しいしね、仕方ない)
彼女達もプロの意地がある、汚れはサーチ&デストロイがモットーなのだ。
そもそも護衛が居る時点でバレバレだしね、貴族の子は貴族という事なんだろう。
「おや、アンタ達こんなに早くからどうしたんだい?」
「お早う御座いますエリザベスさん、この子達から話があるそうなのでお時間頂けませんか?」
エリザベスさんは僕達の突然の訪問にも関わらず、持っていたダンベルを置いて客間に案内してくれた。
今置いたダンベルには100㎏と表示されていた気もするが・・・きっと見間違いだろう。
お店の話は基本的にジークとエリザベートが進める、僕は協力する方の立場だからね。
話を進めるうちにエリザベスさんも興味が湧いてきたのか、前向きに話を聞いてくれた。
恐らく彼女も卒院生の就職先に思うところがあったのだろう。
「というわけで、店舗が上手く回りそうなら孤児院の子にも職業訓練という形でご協力頂きたいのです」
「なるほどね、行くのは希望者だけで良いんだろう? なら全然構いやしないよ、あの子達にも将来の選択を増やしてやりたいからね、大歓迎さ!」
「ありがとう御座いますの!」
エリザベスさんは好意的に話を受け止めてくれたが、「ただ・・・」と言葉を続けた。
「スラムの方は協力が難しいね。アタシに恨みを持っている奴も多いだろう、かえって敵を増やしちまうよ」
「そうですか・・・残念です」
「護衛が居るから大丈夫だとは思うけどね、行くならお気を付けよ」
領主邸で聞いたエリザベスさんの犯罪者一掃事件からそれなりに時間が経っているけれど、それ以外にもエリザベスさんに退治された犯罪者は多い。
そういう人達がスラムに潜伏しているのかもしれない。
「どちらにしても行かないわけには参りませんの。困っている方が居るのも確かなので」
「ダメもとで向かってみましょう、様子を見るだけでも意味はあります」
残念ながら案内人は見つからなかったけれど、ひとまず向かう事にしたらしい。
僕は護衛の人に「良いの?」と聞いてみたが、肩を澄まして諦めポーズだった。
こういう状況も慣れているらしい。普通慣れないんだけどね、どんだけ護衛の人に苦労かけてるのさ・・・。
「ピアちゃん達はどうする? エリザベスさんの所に居る?」
正直、協力者を得ることを考えるとピアちゃんが来てくれた方が頼りになる。
でも僕としてはピアちゃん達をあまりスラムに連れて行きたくない。
偏見も入っているけど、危ない人が居るのも間違いでは無いからね。
「んー、おねーちゃんに着いていくの。あっちの方、悪い糸もあるけど良い糸も見えるの、きっと会えばわかるの」
「ぎゃう!」
ミミちゃんからは「行くに決まってるでしょ!」とでも言うような返事が返ってきたし、ピアちゃんも来てくれるみたい。
心配はあるけど、それの倍は嬉しかった。お姉ちゃんが全力で守るからね!
◇
スラムの入り口は、以外にも孤児院からそれ程離れていない場所にあった。
入り口と言っても門があるわけでは無く、”だいたいこの辺り”という区分けがあるだけだ。
「想像していたスラムよりも衛生的だね」
「ピアも思うの! でも、何だか空気が重い感じがするの」
ピアちゃんが言っているのは、恐らく住んでいる人が出す雰囲気みたいなものだと思う。
団地とかがそうだけど、人が集まると目に見えない雰囲気みたいなものが感じられることがある。
たぶんそれと同じ現象だと思う。
「さて、とりあえず入るの?」
「そうですね、でも誰に会えば良いんでしょう?」
スラムに顔役って居るんだろうか?
そういう人に会って話を広げてくれると良いんだけど。
スラムの住人に不審がられながら進む僕達。
話し掛けても避けられて手詰まりとなった時、一人の男が近付いてきた。
「爺婆共が騒いでるから来てみりゃ、何で貴族のガキがこんなところに・・・って、手前ぇギルドに居たクソ兎じゃあねぇかっ!?」
何処かでお会いしました?
「おい、『知らねぇ』みたいな顔してんじゃねぇぞ!」
「お姉様、お知り合いの方ですの?」
「いや、何処かで見たことがある気はするんだけどねぇ、主に世紀末な世界で」
今にも「ひでぶっ」とか言いそうなんだけど・・・。
「僕こっちで、こんなヒャッハーな知り合い居ない筈・・・あれ? ちょっと待って、何かが記憶に引っ掛かった! ・・・いや、やっぱり気のせいかも」
「諦めんのが早ぇーよっ!? ギルド登録の時に会っただろうが!! 心配してやったのに薄情なガキだぜ」
「あ、◯◯◯◯噛まれた人だった!」
「女が◯◯◯◯とか、言うんじゃねぇ!」
やっぱり心配して言ってくれてたのか、口調が全てを台無しにしているけど良い人っぽい?
それにこの人、おちょくると意外と面白いぞ。
何より喋ってて疲れないのが良い。
「俺の名はゴンズだ、覚えとけ!」
「僕はガキじゃなくてユウだよ、ユ・ウ。リピートアフターミー」
「うるせぇよ!」
うん、やっぱり面白い。
「で、お前らはここで何してんだ? 言っとくがここはお前らみたいなきれいな人間が来るとこじゃねぇぞ」
「実は、スラムの方にお仕事をお頼みしたいのですわ!」
「あぁん? どういうこった?」
エリザベートは計画を簡単に説明し、いい方法が無いかゴンズに聞いた。
「仕事なぁ。悪くねぇとは思うが、たぶん人は集まんねぇぞ」
「何故ですのっ!? ちゃんとお支払いも致しますのに!」
「ここの奴らは、その言葉が信じられねぇくらいには酷い目にあってんだよ」
スピンドル家がそんな事をするとは思えないが、外国の人や外からの貴族は、その限りじゃ無いんだろう。
胸くそ悪い話だ。
「そう言えば、ゴンズはここで何してたの?」
「俺はここのガキ共に飯をやってんだよ。俺はどっちでも良いんだが、親が居ねぇんで放っといたら死んじまうからな、仕方なくな」
「ツンデレかっ!」
この人、何で良い人なのにヒャッハーなんだろう。
そんな格好していたら「あべしっ」するフラグが立っちゃうよ?
「そう言えば、方法が無くもないかもな」
そう言ってゴンズは僕を見る。
いい方法なら聞くが、体を売れとか言ったら地中探検旅行をプレゼントしてやろう。
「あっちの方にな、主に獣人が住んでいるエリアがある。そこに居る犬の爺に会いに行くぞ。たぶんこの兎が居れば話ぐれぇは聞いて貰えんじゃねぇか?」
「僕が居れば?」
僕が居ればってどういうことだろう? 隣にいるジークとエリザベートも首をかしげている。
二人は僕に視線を向けるが、僕にもよく分らん。
ゴンズは通りとも言えない道を進んでいく、ピアちゃんが何も言わないのでたぶん大丈夫だろう。僕達も彼に着いていく事にした。
◇
「ここだ。ちょっと待ってろ」
そう言って彼はボロボロの家に掛かった、ドア代わりの垂れ幕をくぐり中に入っていった。
途中見た家もだいたい似たような感じだ。
隙間風が寒そう、こんな環境に子供達が居るのかと思うと、悲しみとその力強さに尊敬を抱いた。
「おい爺、生きてるか? 客を連れて来たぞ」
「ふん、口の減らない小僧じゃ。儂に客じゃと? いったいどんな物好きが・・・」
家から出てきたのはシュナウザー風の犬の獣人だった。
話し方やその動きからして、それなりにお歳を召しているらしい。
というかシュナウザーがお爺さんっぽいので、たぶん若くてもお爺さんに見えるんじゃないかと思う。
「どうもー、物好きの兎さんです! 突然すみません、ちょっとお話を聞いていただきたくて訪問させて頂いたので『神獣様っ⁉』ってうわぁっ⁉」
お爺さんはいきなり跪いて、僕に祈りを捧げ始めた。
神獣様って何⁉
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