2‐⑧ 幸運の兎 ②

「お願いします、僕の告白を手伝ってください!」


 今日のお手伝いは、とある男性のプロポーズ大作戦のサポート。

 こちらの男性は街で衛兵の仕事に就いていて、一年付き合った彼女さんにとうとうプロポーズをする決心がついたらしい。

 だが伝える切っ掛けが無くて、一歩が踏み出せず困っているらしい。


 では僕達がするのは、その一歩を踏み出させることかと言われたら、それは半分正解。

 僕達が行うのは、一歩踏み出すために必要な”花”を取りに行くことだ。


 彼女さんは花屋さんらしく、花言葉をたくさん知っている。

 その為、愛の花言葉を持った花を贈って、プロポーズの一助としたいのだそうだ。


「彼女か......なんて眩しい言葉......」

「おねーちゃん、何でそんなに悲しそうなの?」


(別に生前彼女が出来なかったからって、悔しくなんてないんだからねっ!)


 さて、花を採りに行くのは構わないのだが、種類は決まっているのだろうか?

 ものによっては咲いていない可能性がある。


「採ってきて欲しいのは『ラヴクラフト』という花です」

「何ですか、そのSAN値が下がりそうな花は」

「東の魔物の森に居る、ミミックプラントの頭に生えている花です。ただ、特殊個体にしか生えていないと聞いています」

「ミミックプラントだってさ。ミミちゃん、友達?」

「がうっ!!」


 ミミちゃんが遺憾の意を表明している、違った様だ。


 東の森は獣系の魔獣・魔物が出現するエリアだ。その為、植物系であるミミックプラントは競争相手が少なく、もの凄く多い。

 それ自体はすぐ見つかるだろうが、問題はその内何体が特殊個体なのかだが......。


「レアガチャ並みに確率低かったら、嫌だなぁ」

「花束にしたいので、できれば20~30本ほど取ってきてください」

「貴方は悪魔ですか......」


 こうして、僕達のレアドロップ回収作業マラソンが始まった。


 ◇


 通常個体のミミックプラントは、割とすぐに見つかった。

 ミミックプラントは通常のミミックと同じく植物モンスターだが、擬態はしない。

 見た目も完全な植物なので、ミミックとは分けて考えられている。


 そんなミミックプラントはどのような見た目をしているかと言うと、棒ゲームに出てくる〇ックンフラワーそっくりだ。

 ただ、首になっている茎の部分が長く、葉っぱが無い。

 また、他頭というか口になっている蕾が5~6個あり、粘着力のある蔓で獲物を捕らえる。


 普段は土の中に隠れているが、蕾だけは必ず地上に出てきているので見落とすことは無いが、一株見つけると周辺にはだいたい三株は潜んでいるので注意する必要がある。

 何故なら、近くを通りかかると振動に反応して、一斉に襲い掛かってくるからだ。


『『『ジャアアアアアアアアアアッ!!』』』

「あわわわわわわわわわわわわわっ⁉」


 トラバサミのような口をした蕾が、溶解液を口端に垂らしながら次々と僕に襲い掛かってくる。

 仕掛けてくる連続攻撃回数は六回、それが三株で十八回。

 更に相手は植物なので体力というものが無く、入れ替わり立ち代わり向かってくるので、反撃し辛い。


 十八体の魔物がそれぞれ襲ってくるならば対応の仕様はあるが、実際は三体。

 その為、攻撃の仕方に妙なコンビネーションがあるのだ。


「おねーちゃん、頑張ってっ!」

「引き付けておくから、その間にお願いねーっ!」

「分かったの! いくのー、『ミミちゃんファイヤー』!」

「がっ、ブゥーーーーーーーー!!」

『ギィイイイイイイイーー!?!?』


 ミミちゃんが火炎放射を吐き出す。

 その勢いは凄まじく、あっという間にミミックプラントを焼き尽くしていった。


「ミミちゃん、スゴイじゃん! 上手くいって良かったね」

「がぅ~~♪」

「でも、ミミちゃんがどんどんミミックじゃなくなってるの」

「いあ、そもそもマジックバッグだからね。ミミックじゃないのは初めからだよ」


 先程ミミちゃんが炎を吐いたのは、別にドラゴンに進化したとかそういう理由ではない。

 これは先日の、片付け依頼の報酬を貰った結果なのだ。


 貰った物の中に、瓶に入った『臭い石』というものがあった。

 ネーミングがかなりヤバめだが、この石に鑑定を掛けてみた所、実は”引火性のある気体を発生させる石”であることが判明した。

 石自体が汚いもので無い事が判明した為、ミミちゃんに許可を貰い無限収納に入れて貰う事にした。

 依頼者には、危険なものを放置しないよう注意したが、今までよく無事だったなと思う。


 原理は不明だが、石はミミちゃんの中でも空気を発生させ続けるらしく、消費方法を考えていた所この火炎放射を思いついた。

 火を起こす必要はあるが、ミミちゃんはこうして新たな攻撃手段を得たのだ。

 ちなみに火を起こす道具も、その時に貰った。


 ミミちゃんは道具が増える度に、これからも進化していくだろう。......変な方向に。


「それにしてもミミックプラントって生まれて初めて見たけど、ミミちゃんの可愛さの欠片も無いよね。ミミちゃんを見習ってほしい」

「ピアもそう思うの! でも気にしないで倒せるから、その方が良いの!」

「それもそうか、じゃあこのままサクサク倒していくよー」

「「おーっ(がぅっ)!」」


 ◇


 それから二日ほど掛け、僕達は合計32本のラヴクラフトを集めることが出来た。

 ちなみにレア個体の発見率は大凡10%、SRガチャよりは高い確率だったようで安心した。


 ラヴクラフトは白く、エーデルワイスに似た花。

 花弁に見える部分はポインセチアなどと同じく葉っぱで、中央の部分が花である。

 この部分はエーデルワイスとは違い、赤い宝石のように見える。

 花は中央部分だけなのだが、それを花弁のような白い葉っぱが包み込むような形をしており、”全体で花を形作る”、故にラヴクラフトと言うらしい。

 花言葉は『貴女を護ります』『愛を作る』だ、プロポーズにふさわしい花だと思う。


 まだ彼女に会ってもいないのに、既にガチガチの依頼者に花を届ける。


「花を集めてきました、プロポーズの言葉は考えてきましたか?」

「い、いや、まだ......。でもこれで、告白、できる、よ。ありがとう」

「本当に大丈夫? ちゃんと言える?」

「カチコチなの、割れちゃうの?」


(本当に言えるのだろうか? こんな状態じゃ上手くいくものも、上手くいかないよねぇ)


「はい、依頼達成の、サイン。それと、これも......」

「ん?」


 男性はラヴクラフトを二本抜き取って、僕達に手渡してくれた。


「こんなに早く、いっぱい、集めてくれた。大変だったろう? だから、気持ち程度だけど、お礼だよ」

「もぅ、自分の事で大変なのに僕達に気を回して......、仕方ないなぁ~~。発動、『神様のレシピ本』! そして、『祝福』!」

「え、何だいっ⁉ これは・・・糸で出来たラヴクラフト?」


 僕は貰った内の一本を使って、ラヴクラフトの編み花を作った。

 コサージュの形にした後祝福を掛けて、男性の胸に飾ってあげる。


「これは僕達からの応援だよ、プロポーズ頑張って。大丈夫、平和と愛の女神が『貴方を護ります』から!」


 最後に胸を推してあげれば、彼の目つきは変わっていた。

 もう大丈夫だろう、彼には幸せな未来が待っている。

 僕達は達成報告を貰い、その場を去った。


 後日、告白スポットそして有名な噴水広場で、男がプロポーズをしていたと噂を聞いた。

 顔を真っ赤にしながらも、勇気をもって女に差し出していたのは満開の白い花束。

 涙で瞳を潤ませながら、それを受け取る女を抱き締めた男の胸元には、美しいラヴクラフトが咲いていたという。


 ◇


 これはとある夫婦のお話。

 体は大きいが勇気の足りない男は、白銀の天使の力を借り、幸せの花を集めて女に愛を告白したという。

 晴れて二人は夫婦となり、沢山の子供を授かり、不幸に見舞われることも無く、幸せに暮らした。


 周囲からも幸せな家族と言われているその家には、いつも一輪の白い花が壁に飾られていた。

 何故か色褪せない、糸で編まれたラヴクラフトの花。

 繊細な技術で作られたそれは、いつまでも美しく輝いていたという。


 その花は家族の幸せの象徴。

 夫婦の息子も、そのまた息子も、愛の告白には必ず胸に付けていった。


 息子達は父親にあの花は何なのかと質問した時があった。

 その時、彼は毎回こう答えたという。

 ”幸運の兎さんからの贈り物さ”と。

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