5-⑧ 兎は1児の母になる

 とうとうやって来た王都への出発の日、僕は孤児院や獣人、ギルドの面々にお見送りされている。


「お姉ちゃん・・・」

「ぐすっ・・・うぅ・・・寂しいよぉ」

「・・・早く帰ってきてね」

「ユウさん・・・無事のおかえりをギルド一同お待ちしております」


 何この今生の別れみたいな雰囲気っ⁉

 僕等、半年くらいで帰ってくるんですけど・・・。


「みんな、僕は帰ってこないわけじゃないからね?」

「ピアも帰ってくるの、心配ないの」


 泣きじゃくる子供達と、寂しそうに眉根を寄せるエレナさん。

 それを見ている領主夫妻はちょっと居心地が悪そうだ。


「何というかあれだ、すごく悪いことをしている気分になるな。というか俺達も行くんだがな、この扱いの違いは何だ?」

「ホントにねぇ、皆一緒に帰ってくるのだけどねぇ」


 マルセナさんは、楽しそうな寂しそうな顔で「あらあら」と言っている。

 別に二人が嫌われているわけじゃないので、気にしなくて良いと思う。


 そんな二人の近くでは、僕達と同じく孤児院の子に囲まれているガルドさん達が居た。今回の護衛依頼のパートナーだ!

 初の護衛依頼なので気心の知れた人達が相方で凄く助かる。

 ただ僕達は護衛依頼を受けた冒険者であり、王都まで護衛してもらう依頼者側であり、護衛対象というよく分からない立場である。


 こういうのってマッチポンプって言うんじゃなかったっけ? ・・・いやちょっと違うか。

 まぁ、深く考えると意味が分からなくなってくるので、妹というお姫様を護衛する冒険者だとでも思っておこう!


「何だか忙しかったからガルドさん達に会うの久しぶりですね!」

「おう。今日から頼むぜ、嬢ちゃん達!」

「王都まで宜しくお願いしますね」

「一緒に頑張ろうね、動物さん達も久しぶり!」

 

 僕達冒険者メンバーは、アニマル’s含めて挨拶を交わす、慣れたものである。


 出発にあたって同行するのは、スピンドル一家、スピンドル家護衛、スピンドル家メイド、鋼の旋風PT、僕とピアちゃん、ミミちゃんとアニマル’sの合計21人+5匹。荷馬車1台、貴族馬車1台、護衛馬5頭といった編成だ。


 道程は片道2週間なので本来ならこの馬車の台数は少なすぎる、通常なら約20人+馬7頭以上が二週間食い繋げるだけの食料に衣類や野営具etc・・・。

 他にも必要な書類や、目的地に屋敷が無い場合は金品など、本当に沢山の物が必要になる。

 しかもこれは平民の馬車旅とは違い、貴族の移動馬車である。目的地に着いた際見栄を張る必要もあるのだ。

 つまり最低でも荷馬車が3台、合計5台以上の馬車列になる。


 だが今回は我ら姉妹の可愛い末妹、ミミちゃんが居ることを大前提として編成されている。

 食料品は腐る心配がなく、2カ月遭難しても問題ない量を詰め込み、しかも内半分は出来立てホヤホヤ。

 予備の武器や鎧もたんまり詰め込み、荷馬車は軽々。何なら騎士が交代で休憩できる。

 衣類や金品もメイドさんが種類ごとに分けた鞄ごと入れてあり、取り出してすぐに動ける仕様。


 すごいよミミちゃんっ! お姉ちゃんは鼻高々です!


 しかも今回はそれだけではない。

 僕達が愛用している「ヤドカリテント」を皆にもお披露目、現代日本のアパートを再現したテントにメイドさんを除いた全員が唖然としていた。

 メイドさんも勿論驚いていたが、それよりもシステムキッチンに大興奮していた。中々にメンタルの強いメイドさん達である、流石はスピンドル家のメイド。


 ちなみに異世界メンバーは、現代日本のその部屋を「神界」と呼んでいた。

 まぁ確かにエアコンのありがたみは神がかってるよね、間違いない。


「皆準備は良いな、では出発するぞ。鋼の旋風は森到着まで馬車で待機、ユウ達はどうするんだ?」

「僕達は先頭馬車の屋根の上に居るよ、一番音が拾いやすいからね! アニマル’sも馬車が良いかな? 言っておくけど僕の所に集まったらだめだからね。狭いから危ないし、あと厚い」

「「「「そ、そんなぁっっっ⁉⁉⁉」」」」


 配置も決定し「さぁ行くか!」となったタイミングで、僕のポケットからすぅ~っと一羽の編みぐるみが姿を現す、セレナだ。


「あら、何この子? 可愛いわねぇ、またユウちゃんの新しいお友達かしらぁ?」

「はわぁ・・・、お人形さんが自分で動いていますわ! お姉様っ、この子は誰ですの!」

『あふぅ・・・おはよう・・・』

「「しゃべったっ⁉」」


 散々神様だのアニマル’sだの見てきた皆でも、明らかに人形の見た目で動くセレナには驚いたらしい。

 そういえば機会が無くてセレナを紹介してなかった。この子みんなの前だと、だいたい僕のポケットの中で寝てるんだよね。


「紹介していませんでしたが、この子はセレナ。唄の精霊ですよ。ほら、セレナ、みんなにご挨拶しようか」

『うん・・・おはよう・・・ござぃ・・・ます?』


 こてんと首をかしげる仕草が非常に可愛い。


「か、可愛いですわっ! お姉様っ、この子どうされたんですのっ?」

「この前、お姉ちゃんが産んだのっ!」

「「「!?」」」


 言い方ぁっ!?

 その場にいる全員の視線が僕に集まった。


「ピ、ピアちゃん、それだと誤解が生まれちゃうよ? お姉ちゃん、ちゃんと説明してほしいなぁ〜・・・」

「・・・あっ、間違えたのっ! お姉ちゃんのお腹から出てきたのっ!」

「「「!?!?!?」」」


 ピアちゃーーんっ!?


 僕は詳しい説明を余儀なくされ、結局出発が30分程遅れる事となった。


『マーマ・・・おなか、すいた・・・』


 ◇


 ガタゴト・・・


 一行を乗せた馬車は順調に道を進む。

 出発時のあれは面倒くさかった、みんな集まるし騒ぐしで中々説明に入れず、終いにはアルバートさんがブチ切れてセレナの父親を探し出そうとした。


 そんなもん居ねぇっつうの、人の話を聞け!


 そうそうあれこれ、かくかくしかじかと説明をして漸く出発となった。

 僕は何で出発前に、こんなに疲れているんだろうか・・・。もし運命神とやらが近くに居るなら、こんな運命を与えたお礼にドロップキックをお見舞いしたい。


「さて、そろそろ昼過ぎだし、ご飯をどーするか聞いてこよう!」


 僕はピアちゃんと一緒にぴょんぴょんと貴族馬車へ飛び移り、扉を開いた。


「そろそろお昼過ぎですけど、ご飯どうします?」

「もうそんな時間か、よし一度小休止を取るぞ」

「了解、騎士達に伝えてきますね!」


 その後馬車は開けた場所まで移動し、昼食となった。

 そしてここからが僕とミミちゃんの本領発揮である、神流おもてなしを受けるが良いっ!

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