5-⑨ 兎は旅の常識を魔改造する

「ではミミちゃん隊員! まずはをセットだ、Aセットをお願いっ!」

「がうがうっ! ぐ〜〜ぺっ!」


 ──ドスンッ!!


 ミミちゃんが口から出したのは、10メートル四方の石製舞台。地面に面している側に20センチ程のスパイクが無数に生えていて、自重で床に食い込むようになっている。

 そして僕はそれを上から踏み込んで、床が水平になる様調節する。


「次は長テーブルセット、十脚で二セット分お願い!」

「がうっ! プップップッ!」


 ミミちゃんが次々と出していくテーブルと椅子をキレイに並べ、そこに編み座布団を敷いていく。

 勿論この座布団もレシピ本で作った物で、少しづつだが身体を癒す効果がある。長時間馬車や馬に座り続け、ダメージを受けたお尻をこれで回復してもらうのだ。

 そして最後に──。


「ミミちゃん、今日のお昼はBランチでお願いっ!」

「がうっ! ぷっ! ぷっ! ぷっ!」


 ミミちゃんが出来立てホカホカのハンバーグセットが次々と出していく。

 時間停止スキルは食べ物を腐らせない以外にも、作り立ての料理をそのままの状態で保存して、必要な時にすぐ食べられる時短スキルとしての面もある。


 しかしこの時に注意しておくことが一点。鍋には蓋、パンは布でくるむ、今回のハンバーグは容器に入れるなどの保護が必要。これを怠ると、料理を取り出したときにミミちゃんのヨダレまみれになるのだ!

 いい匂いするからね、これは仕方ない。ミミちゃんは何も悪くない、料理が良い匂いをさせているのが悪いのだ!


 さて、これら25人分の料理を僅か10分で終わらせると、どうだろう!

 なんという事でしょう。あの野性味溢れる平地が、お洒落なカフェテラスになったではありませんか!(某番組風)


 石舞台を敷くことで足場が安定し、座りやすく立ちやすなったテーブルと椅子。

 長テーブルを出したことで皆で一緒に食事をとることが出来、楽しさと休憩時間の短縮に貢献。

 テーブルにはお洒落なテーブルクロスと、花瓶に飾られた花。そして屋外では持ち運びする事の無い陶器の器。

 更に硬いパンに、しょっぱい干し肉、薄いスープがという遠征食の概念をブチ壊す、彩豊かな食事。

 フワフワのパンに、鉄板で油の弾ける熱々のハンバーグ、備え付けのフライドポテトにシャキシャキのサラダ、具の旨味がしっかり出た野菜たっぷりのスープ。


 パンの焼けた小麦の香りと、肉汁たっぷりのハンバーグの焼ける香りが皆の鼻と胃を刺激する。

 そして誰ともなく「ゴクリ・・・」と喉を鳴らした。


 ふっふっふー、どうよ? これが僕とミミちゃんの本気! ご飯の神様たる僕の神流おもてなし術であるっ!!

 ・・・あっ、僕は糸の神様でした。失敬。


 さて、皆の反応は如何かなと振り返った僕を待っていたのは──。


「お前はなにをやってるんだ・・・・はぁ」


 アルバートさんに溜息をつかれた、何でっ⁉


「準備期間中、やたらと厨房に籠っているなと思っていたら・・・こういう事だったのか」

「これは凄いわねぇ・・・本当に、すごいわね・・・」

「何ですか二人共っ! 喜ぶと思って頑張ったのにっ、その反応は失礼じゃないっ⁉」


 初の遠出おでかけに若干テンションが上がってやり過ぎた所はあるが、外でも美味しいものが食べたいだろうと思って頑張ったのに失礼だなぁ! 遺憾の意を表するっ!


「いや、すごいとは思うが限度というものがだな・・・ほら、騎士達の顔を見て見ろ」


 視線を向けた先では、騎士達が狐に抓まれた様な顔をしていた。


「なんだよぉ、もう・・・じゃあ黒パンと干し肉食べれば良いじゃないですか」

「良し、食事にするか!」


 食うのかよっ! さっきの文句は何だったんだっ!

 僕がプンプンしていると、マルセナさんが僕の頭を撫でながらジーク達を指差した。


「ごめんねぇ、ちょっとビックリしちゃってぇ。すごく嬉しいのよ? ただ想像の斜め上を剛速球で突き抜けていったから上手く反応出来なかっただけなのよぉ。ほら見て、あの子達も屋外で暖かい食事が出来て嬉しそうだわ!」


 まぁ確かに反応が微妙だったのはこの二人と騎士だけで、子供達とアニマル’sとガルドさん達は大喜びだった。

 っていうか、子供達と一緒に喜んでいるガルドさん達の姿がシュールだったが・・・まぁ良いか。


「ふんっ、そういう事にしといてあげます!」

「もぉ、すねないでぇ~。可愛いわねぇ~~♪」

「ちょっ、そんなに撫でないでよぉっ!」


 僕達は軽くじゃれついたあと食卓に着いた。ちなみにメイドさん達は、次回の遠出でこのレベルのもてなしと比較されるのではないかと戦々恐々としつつも、追いついて見せると熱意を顕わにしていた。

 アルバートさん達にはマジックバッグを渡してあるので、食事と石舞台以外は出来そうだ。ぜひ頑張って欲しいと思う。


 ◇


「はい、ミミちゃんっ! あーん!」

「がぁ~~!」


 食事中、僕はミミちゃんを膝で甘やしていた、お姫様待遇だ!


「あら、ミミちゃん良いわねぇ。頑張っているご褒美かしら?」

「そうですよ! この移動中、ミミちゃんにはいっぱい頑張て貰わないといけないので特別待遇です!」


 まぁ、特別待遇と言ってもいつも甘やかしているけどね。

 ただいつもは僕一人が妹二人を甘やかしているが、今日は僕とピアちゃん二人でミミちゃんを甘やかしている感じである。


「よーし、頑張ってくれるミミちゃんには更にチーズ乗せだっ!」

「がうっがうっ♪」


 俗にいうチーズINハンバーグだ、上に載せているけど。

 ちなみにチーズは、風味が少し地球の物と違うが普通に売っている。加工食品なので流通しやすいのだろう。


「おねーちゃんっ、ピアも! ピアも!」

「え~~、仕方ないなぁ♪ はい、どうぞ!」

「がう♪」


 二人共可愛い、もう僕はデレデレである。


「──もぅ我慢できませんわっ! お姉様っ、私も混ぜて欲しいんですのっ! 私も甘やかせてほしいんですのっ! あと、チーズも欲しいんですのっ!」

「ユウちゃーん、お姉さんも混ぜてよぉ~~!」

「姫っ、吾輩達も近くで食事がとりたいのでありますっ! 床でも良いので、隣が良いのでありますっ!」

「姫様、我も・・・」

「拙者もっ!」

「もぅ、俺等全員床で良くねぇ? 姫さんとこ行こうぜ!」

「ちょわっ、皆何なのさっ⁉」


 いきなり皆が集まって来て、わちゃわちゃ大変な事になった。あっ、アニマル’s! 床でご飯食べるなっ!


 アニマル’sは自由に動くし、エリザベートは「甘やかせっ!」と愚図りだす、クレアさんは抱き着いてきて暑苦しい。

 何か面倒臭くなってきたので、とりあえずクレアさんはお家の人ガルドさんに引き取って貰い、エリザベートにもチーズハンバーグをあーんしてあげることになった。


 ・・・なに、この光景?

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