3‐② ネコ娘は好きですか?
僕は客間に通されたので、ピアちゃんを膝に回収した。
いきなり頭に登ってこられたにも関わらず、エリザベスさんが怒っている様子はない。
強面の外見に印象が引っ張られそうだが、優しい人のようで安心した。
「突然妹が失礼しました、いつもはこんな事しないのですが・・・」
「良いよ、子供は好きな事させてやるのが一番さ! それにしても話は聞いていたが、こんなに小さい子とは思わなかったね。こらバカ息子、何ですぐ連れて来なかったんだい!」
「母ちゃん居なかっただろ、連れて来たって仕方ねぇじゃねぇか」
「っち、そうだったね。全く、タイミングの悪い息子だよ」
「・・・・・・俺は何も悪く無くねぇか?」
うん、僕もそう思う。
それにしても、文句を言い合いながらも二人は凄く仲がいい。血は繋がっていないらしいが凄く”親子”だ。
少し羨ましさを感じて、僕は膝に座っているピアちゃん達を撫でる。
「あの子が色々と要らない気を回しちまったみたいだ、迷惑をかけたね。良かったら今からでも此処に住むかい?」
「いえ、僕は成人していますし、幸い仕事もあります。この子に貧しい思いもさせていませんので、大丈夫だと思います。気を使って頂いて、ありがとう御座います」
「そうかい。でも困ったことがあったら、いつでも来るんだよ?」
この短いやり取りだけでも、エリザベスさんが”お母さん”と呼ばれる理由が分かった。
孤児院に居ようと居まいと、この人にとっては等しく我が子なのだろう。
二人が再び話を始めると、扉の方から視線を感じた。
そちらに目を向けると、沢山の子供が扉の隙間からこちらを覗いている。孤児院の子だろう。
「おや、アンタ達勝手に覗くんじゃないよ。お客さんに失礼だろう?」
気付いたエリザベスさんが声をかけると、そこはやはり子供。許可が出たのだと勝手に勘違いして、わらわらと部屋に入ってきた。
「ママ、お話終わった?」
「ガルドのおっちゃん、お話しよっ!」
「マルクス兄ちゃん、魔法見せて!」
「クレアちゃん、おままごと」
「この子達だあれ? あたらしい子?」
「髪がきれー、ウサギさんの子ね、ここにもいるのよ」
「お姉ちゃんたち、あっちで遊ぼうよー」
お、おぅ、あっという間に部屋の中がギュウギュウ、賑やかになった。
「凄い元気ですね、何人ぐらい住んでるんです?」
「だいたい30人くらいだが、親が街の外に仕事へ出る時に預かることもあるからねぇ。多い時は50人くらいだよ」
「50人!?」
30人でも十分凄い、家事をどうやってさばいてるんだろうか。
一応彼女以外のシスターが数人居るらしいが、常に居るわけでは無いようだ。
これが筋肉の成せる業なのだろうかと、僕は感心しているとクレアさんが笑いながら答えを教えてくれた。
「この街には私達みたいな卒院生がいっぱい居てね、皆が頻繁に手伝いに来るんだよー」
「だな、だから大体いつも誰かしら居んじゃねぇか?」
「それだけでなく、卒院生の冒険者PTメンバー、子供を預かって貰っているご両親など、手伝いの手は多いみたいですよ。まぁそれでも大変そうですが」
孤児院を出た子が、街を出ずそのまま活動拠点にしているらしい。
更に出稼ぎの家の子を預かる代わりに帰ってきたら手助けをするなど、互助関係が出来上がっているお陰で孤児院からの人手が最低限で済むようだ。
ここでは孤児院にとって理想的な環境が出来上がっている。
きっとそれは、エリザベスさんの子供達への教育がしっかり出来ているからなのだろう。
子供達の素行が悪いとこうはならない。
僕は改めて、ガルドさん達がエリザベスさんを紹介しようとした理由が分かった気がした。
◇
僕達がお邪魔したのが丁度夕飯時だったので、そのままご飯を食べて帰ることになった。
僕も夕飯作りを手伝ったのだが、あまり調理に参加出来なかった。
というのも、僕は料理こそそれなりに出来るが、レパートリーがケチャップやマヨネーズ、豆板醤等の加工調味料を使った物ばかりなのだ。
(調味料って無いとこんなに困るんだな。アネッサさんのご飯が美味しかったから、全く気にもして無かった・・・)
調味料の偉大さを痛感した僕は、調味料作成を今後の予定にいれる事にした。
そろそろお暇しようかとピアちゃんを探していたら、部屋で他の子供達と集まっているのを発見。
後ろから覗き込むと、ピアちゃんが作った“たまヒヨ“を皆に見せているようだった。
“たまヒヨ“とは、編み物のかぎ針編みでよく作られる、まん丸なヒヨコの編みぐるみである。
ピアちゃんは以前指編みをしていたが、そこから編み物の魅力にハマり、今はかぎ針編みの練習中。
その際、練習台として作っていたのが、このたまヒヨだ。
作り方が簡単ではあるが、表情を変え、色を変え等すると世界に一羽のオリジナルたまヒヨが出来る。
故に玄人でも作る人が居るほど可愛いのだ。
ちなみに僕も100羽ほど編んでいる。
「あっ! おねーちゃん、おかえりなの!」
「がうっ」
僕に気づいた二人が飛び込んできて、胸に頭をグリグリしてくる。
「ただいま、ミミちゃんも皆と仲良くなれたんだ、良かったね」
「がうっ!」
「皆、ミミちゃんが可愛いって言ってくれたの」
うむうむ、良い子たちばかりでお姉ちゃんは満足である。
「あの、ピアちゃんのお姉様、少しお話宜しいですの?」
「僕もお伺いしたい事があるのですが、宜しいのでしょうか?」
やたらと賢そうな二人の子が僕に話しかけてきた。
この子達は本当に孤児だろうか、何処となく貴族っぽさを感じる。
「うん、いいよ。あ、僕はユウっていうんだ、宜しくね!」
「あ、申し遅れました。僕はジークと言います」
「私はエリザベートと申します。宜しくお願い致しますわ、ユウお姉様」
(お姉様っ!? なんかむず痒い!)
言われ慣れていない単語に、背中をもぞもぞさせつつ、二人と会話を続けた。
「先程ピアちゃんから”アミモノ”を観せて頂きましたわ。あの可愛らしいお人形が、まさか糸から出来ているだなんて今でも信じられません、素晴らしい技術ですの!」
「ありがとう。あれはね、編みぐるみって言うんだ。編み物の中の”かぎ針編み”っていう方法で作るんだよ。同じ作り方をしても個性が出るから、みんなで作って並べても良いかもね」
「”みんなで”という事は。ユウ姉様、あれは誰にでも習得できる技術なのですか?」
「出来るよ、まぁ続けられるかはその人次第だけどね。完成品を見ると分からないと思うけど、編み方は凄く単純なんだ。例えばこのたまヒヨは、一つの編み方で作ってるんだよ」
「「一つ!?」」
そう、よく驚かれるのだが、たまヒヨは”細編み”と言う編み方一つで作っている。
まぁ”増し目”や”減らし目”もあるので、細かく言うと三種類かも知れないが、編み方は1つだ。
「んで、どうしたの? やってみたいの?」
「そうですわね、一度体験してみない事には判断がつきませんわ、すぐに出来ますの?」
「道具があればすぐ出来るよ。ただね、編み物をする時に一番大切なものがあるんだ。それがないと編み物は出来ない」
「そ・・・それはなんですか?」
声色を変えたからか、二人から緊張している雰囲気を感じた。
僕は二人に目線を合わせ、にやりと笑いながら答える。
「一番大切なのは”楽しむこと”、細かい作業が続くから、続けられるかはやっぱり人によるんだよね」
「ピアは楽しかったの、指編みも面白いの!」
ピアちゃんは糸の女神様だからなのか、性格なのか細かい作業を続けることが得意だ。
もう少しすれば棒編みも出来るようになるだろう。
ジークとエリザベートもそれを聞いて安心したのか、改めて挑戦すると返事をした。
それにしても大人っぽい話し方をする子だ、顔も似ているし兄妹だろうか?
◇
また教えに来ることを約束し、その日は宿へ戻った。
ピアちゃんはミミちゃんと一緒にダンタルニャン達で遊んでいる。
楽しそうに遊んでいる二人を眺めながら、僕は昼間のシルクパンサーから糸を作っていた。
今回作るのはマジックバッグやテントのような便利アイテムではない、何と兎シリーズに続く装備品第二弾である。
まだ装備効果が見れないので何とも言えないが、恐らく兎と同じく変身できるのだろう。
僕は期待に胸を高鳴らせながら、スキルを起動した。
《『神様のレシピ本』オートモード起動します》
起動したスキルは、いつものように毛糸玉を高速回転させながら装備を編んでいく。
しゅるるるという音を立てながら編まれていく様子は、相変わらず見ていて気持ちが良い。
徐々に出来上がっていく装備は、乙女のアルミラージ装備と同じ部位の装飾品のようだ。
装備名を【猛火のタイガー】、リボンやミサンガそのすべてに赤い虎の模様が入っている。
赤色なのに虎柄なのが意味不明だが、カッコいいので良しとした。
「猛火のタイガーとか、乙女のアルミラージとか、名前が長すぎるから名前を付けようかな」
「だったら、赤猫と白兎が良いの!」
いつの間にか側に来ていたピアちゃんから、良い感じのネーミングが提案されたので採用した。
白兎は、聴覚強化・気配察知・跳躍力強化という、どちらかというと斥候タイプの能力だった。
それに対し赤猫は、夜目・俊敏強化・足音が消える・爪による攻撃と言ったラインナップだ、微妙にアサシンっぽい。
「白兎よりはアタッカーっぽいね、強いと嬉しいな」
「ピアは可愛い方が良いの!」
両方を兼ねた装備であることを願いつつ、僕達は装備を付け替えていった。
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