3-⑩ ラビットファイヤー

 僕達に卑下た視線を向ける男達、中には劣情を露わにしている男もいる。


「ひーふーみー、20人前後かな? 皆さ、僕みたいな子供じゃ無くて、もっと大人の女の人探しなよ」

「がうっがうっ、がるるるるぅ!!」


 ミミちゃんが牙を剥いて威嚇している、可愛いお顔が台無しなので撫でて静める。


「随分と余裕じゃねぇか。それともビビって可怪しくなったのか? まぁ良い面に生まれたのが運の尽きだと諦めるんだな」

「んー。おっちゃん、たぶん違うよね?」


 強姦か人攫いかを装っている様だが、多分違う。

 領主邸からここまでかなりの距離があった、それが目的なら既に行動した筈。あと、人数が多すぎる。

 となると考えられるのは『報復』かな。


「誰に言われてきたの? 言っておくけど僕は人に恨まれるような事はして無いよ」


 僕の言葉が気に入らなかったのか、男達をかき分けて、上等そうな服を着た小柄で太った男が前に出てきた。


「ふざけるなよっ!! お前は帝国貴族である俺様を足蹴にしたんだぞっ!? 平民のしかも獣如きがっ!! 逆らっていいとでも思っているのかっ!?」

「いや、誰よアンタ」


 こんな奴知らん、だが貴族を振りかざしてて腹は立つ。

 ミミちゃんも同意見なのか、お腹の前であっかんべーしている。


「お、お前っ、忘れたとでも言うのかっ!? あれだけのことを俺様にしておいてかっ!! もういいっ、後で十分に思い出させてやる。お前等やれっ!」


 小デブ貴族の号令に、周りの男達が動き出す。

 やや動きが良い、だいぶ戦闘になれている感じだ。

 多分人攫いの類はなく、戦う職業の人達だな。


「無駄な抵抗は止めたほうが良いぜ、兎の嬢ちゃん。こいつ等は元C〜Dランクの冒険者だ。お前さんがいくら強くても、この数にゃ敵わねぇよ」


 一応は警戒しているのか、ジリジリと迫ってくる男達。

 その様子に僕は、両手でミミちゃんを正面に構えた。


「やっちゃえ!『ミミちゃん・ショットガン』!!」

「ぎゃうっ! すぅ~~、ぺっ!!」


 ミミちゃんが大きく息を吸い吐き出したのは、ピンポン玉サイズの無数の石。

 流石に銃弾の様に早くはないが、それでもかなりの速さを持って飛ぶ。

 ミミちゃんを中心に放射線状に飛ぶ石は、こちらに向かってきた男達に


「いでぇっ⁉ 何だこの石っ、避けれねぇぞ⁉」

「いででででっ!!」


 悲鳴をあげる男達。魔物相手に効果がない小石でも、人間相手には十分なようだ。


 ミミちゃんは普段から『投擲適性』を活用して生活をしている。その影響か、知らない間に新しいスキルが生えていたのだ。

 その名も『大当たりブルズアイ』、狙った相手に100%命中させるスキルだ。

 これはただ当たるだけの能力なので、掠ったり防いだりしても当たり判定になる。

 しかしこれを利用することで、このような謎現象が起きてしまう。


「何だこれっ、避けた石が回り込んできたぞっ⁉」

「何で背中に飛んでくるんだっ⁉」


 そう、ショットガンとは名ばかりのホーミングミサイルと化す。

 ミミちゃんがどんどん謎生物になっていく。


「おい、叩き落せば問題ないぞっ!」

「あらら、気付いちゃったか。ミミちゃんも弾切れ?」

「がぅ!」

「じゃあ第二弾いこうか」


 全弾叩き落した男達は、怒りの表情をこちらに向ける。

 ショットガンは対人戦に有利だが、威力はそれほど無い。男達も血だらけではあるが、脱落者は居ない。


 その様子を確認した僕は、ミミちゃんを壁の高い位置に放り投げた。

 男達もミミちゃんを警戒しているのだろう、飛ぶ先を目で追う。


「何だ、壁にくっ付いたぞ?」

「『ミミちゃん・レーザー』!」

「がぁぁぁ・・・、ぶぅぅーーっ!!」


 ミミちゃんの口からレーザー光線のようなものが発射され、男達を切り刻む。


「ぎゃぁぁぁーー⁉」

「け、剣が折れ・・・ぎゃあぁっ⁉」


 ショットガンとは違い単体攻撃。避けれはするが、当たれば致命傷である。

 ミミちゃんが放つレーザーの正体、それは『水』。

 ミミちゃんの口の中の空間魔法で、砂を混ぜた水を限界まで圧縮して小さな穴から放ったのだ。

 密度が下がればただの水鉄砲だが、射程内であれば威力はこの通り。

 目の前には地獄絵図が広がっている。


 幾人かの男達が僕へ向かって来た、ミミちゃんを無視することに決めたようだ。


「てめぇを人質にすれば、あの化け物も攻撃できねぇだろう!!」

「あ”? 誰が化け物だって?」


 僕はその言葉に、弾かれたように跳びだす。


「お前は許さん、ミミちゃんに懺悔しろっ!! 『シャイニング・ウィザード』!!」


 普段とは比較にならない速度のダッシュ。そこから繰り出した超高速の跳び膝蹴りにより、男はきりもみして飛んで行った。


 ミミちゃんを馬鹿にされ、つい本気気味に蹴りを入れてしまったのだが・・・一瞬、血の流れに沿って何かが足に集まった感覚があった。

 何だったのだろうか、気にはなったが先にやることがある。

 こいつらを埋めなければならない。


「最初は新技の実験だけして許してあげようかと思ったけど・・・怒った。絶対許さない」


 僕は広場と言う狭い空間を、縦横無尽に跳び回る。

 以前シルクブラッドパンサーの時にも同じ方法を使ったが、今回は少し違う。

 普段とは違うあまりに早すぎる移動速度に、相手は僕を目で追えず、一瞬視線から外れる。その瞬間に蹴り飛ばす。


 蹴り、跳ぶ。跳ぶ、跳ぶ、蹴る。跳ぶ、蹴る。

 体が軽い、何が起こっているかは知らないが足が真っ赤に輝いている。


 蹴ると同時にピンボールのように弾かれていく男達。

 それを十回も繰り返せば、残ったのはリーダー格の男と小デブ貴族だけだった。


「言っておくけど、もう許さないからね」

「武器も、防具も無しに。舐めやがってっ!!」


 男が振りかざしてきたショートソードを、僕は咄嗟に


 ギィーーンッ!!


 まるで金属同士が当たったかのような音が響く。

 想像もしていなかった音に自分でも驚いたが、僕はそのまま剣を蹴り上げ弾き飛ばす。

 男も同様に驚いたのだろう、驚愕の表情のまま固まっている。


「お前は、いったい何なんだっ⁉」

「僕? 決まってるじゃん、『世界一可愛い神様いもうとのお姉ちゃん』さ!」


 高速で足元を刈る。

 宙に浮いた男を小デブ目掛けて思い切り蹴飛ばした。


「ひぃぃいいいいいっ!?!?」

「ちっ、外した」


 男は残念ながら小デブの横を通り過ぎ、壁に埋まった。

 だが目の前で繰り広げられた光景に腰を抜かしたのだろう、しりもちを着いた状態のまま後退りしている。

 ズボンを汚物で汚していない辺りが、きっと最後のプライドだろう。


「今ようやく思い出したよ、アンタ串肉屋のおじさんと息子さんにいちゃもん付けてた貴族だね。何でここに居るの?」

「あ、あぁ、ああぁぁぁぁ・・・・・・」

「僕さ、大概の事は笑って許すし、怒る事なんて滅多にないんだよね。でも、絶対許せない事が三つあるんだ」


 僕は小デブ貴族を覗き込んで、目の前に指を立てる。


「一つ、僕と妹の平和を乱す事。二つ、僕の作業の邪魔をする事。そして三つ・・・妹に害意を向けることだっ!!」


 こいつは二つも破った、絶対に許さない。

 僕は小デブ貴族の両脇につま先を引っ掛けてバク転、体を空中に放り投げた。

 それをすぐさま追いかけ宙でキャッチ、太ももに頭を挟む。


「フランケンシュタイナー改 一式・・・『天獄落し』!!」


 大車輪のように回転しながら急降下、そのまま地面に叩きつけた。


「最後に女の子の太ももに挟まれて、天国が見れたでしょ? 良かったね」


 一瞬で地獄に落ちる、故に天獄落し。悪人に天誅を下す必殺技である。


 ◇


 騒動も終わり、この大人数をどうしようか悩んでいると、ウサミミが駆け寄ってくる無数の足音を捉えた。


「あらら、ちょっと遅かったわねー。誰か死んだかしら?」

「失礼な、殺してませんよ。死ぬほど痛めつけただけです。ところでマルセナさんが何でこんな所に居るんですか? ガルドさん達も居るし」

「ユウちゃーーん!! よ”がっだよぉぉーー!!」


 クレアさんが泣きながら飛びついてきた。


「ママがっ、ユウちゃんが悪い人達と戦いに行ったって聞いてーー!! 心配で心配でーー!!」

「私は、牢からそこの阿保が抜け出したって聞いたのよぉ。で、絶対にユウちゃんの所へ行くだろうと思ってねぇ、騎士だけ連れて走ってきたのよぉ」

「俺達は丁度孤児院に居てな、母ちゃんがピアだけを抱きかかえてるんで気になってな」


 どうやら偶然合流したらしい。

 まぁ、僕だけで連行には人数が多すぎたから助かる。


「こんな何も出来なさそうな人が抜け出したって、牢の警備がガバガバ過ぎません?」

「流石に貴族を振りかざされると、普通の騎士には止められないのよぅ。まぁ貴族と言っても男爵の三男坊なんだけどね」

「それ、ただの一般人じゃないですか」


 それでよく貴族が名乗れたな、男爵の三男って貴族の一番下じゃん。

 実際一番下は騎士爵なんだけど、名誉爵位を除けば一番下。

 ちなみにスピンドル家は伯爵、上から三番目だ。


「それにしても・・・ユウちゃんが強いのは知っていたけど、こんなにも強かったのね」

「ちっちゃくって強い、ユウちゃんは最高だよぉ!」

「それに、この阿保ももう逃げられないわね」


 逃げられないとはどういう事だろうか?


「前の時と違ってね、ユウちゃんは今スピンドル家の関係者なの。つまりこの阿保は、男爵のくせに伯爵に喧嘩を売ったってことになるのよ」

「わぁお、めっちゃヤバいじゃん」


 小デブ貴族は前と同じで、平民に危害を加えたつもりだったんだろう。

 ご愁傷さまだ。


「そんな事より、ユウちゃんには先にやらなきゃいけない事があるわよ?」

「ん? 何のことです?」


 マルセナさんが指さす先を見るとそこには。


「おねーちゃんっ!! ピアを置いていくなんて、酷いと思うのっ!!」


 激おこのピアちゃんが仁王立ちしていた。

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