4‐⑫ 猫と姫と白銀の騎士

 見付けたっ、あの子を助ける方法っ!!

 勿論、絶対に成功するとは限らない。

 神様のレシピ本は材料を手に入れてから初めてレシピが公開される。その為材料が手に入るまで、目的の物が作れるか不明なのだ。


(だけど、これに賭けるしかない。待ってて、絶対に助けてあげるからっ!)


 僕はようやく見えた光明に一縷の望みを託す。


「ぐすっ、ピアちゃん、ミミちゃん、ありがとう。見付けたよ、助ける方法!」

「流石おねーちゃんなのっ!」

「がぅがぅ!」


 それにはまず、戦力を増やさないといけない。

 エリザベスさん達もそう長く保たないだろう、一度休ませてあげないとっ!


「ミミちゃんあの子達を出して。使うよ、切り札その2!」

「がうぅ! ぷっぷっぷっぷっ」


 僕達が信仰を得たことで解放された力、それは全部で三つ。

 一つ目はピアちゃんの権能の拡張『共有化』、二つ目は権能の開放だ。糸の権能が全開放されたが出力がまだ低く、対象を一人にしか絞れない。また発動に時間がかかるので使いどころが難しいものの、その力は強力。きっと頼りになる事だろう。

 そして三つ目、それは僕に生えたスキル『分御霊わけみたま』だ。

 これは僕の魂を分け与えることで神使を召喚することが出来るというものらしい。魂を分けるといっても分身を作るわけでは無く、魂の器を貸し与える感じらしい。うむよく分らん。

 とりあえず今必要なのは、この神気に満たされた空間を動ける者。

 僕の魂から作られた神使であれば問題なく動けるだろう、もし戦力になるようなら尚良い。


 先程ミミちゃんに出して貰ったのは、僕が作った三獣士の編みぐるみ。

 神使には素体が必要らしく、こちらで準備する必要がある。ならばその辺のもので作った人形よりも、思い入れがありレシピ本で作った丈夫な編みぐるみの方が良いだろうと思い、この子達を選んだ。


「──『分御霊』!!」


 パァンッ!


 一度柏手かしわでを打つ。すると手の中に丸い、柔らかなパンを持っているような感触があった。


(これが僕の魂・・・)


 自分で言っといてなんだけど、魂がパンって。なんか香ばしい臭いがしそうでイヤだ。

 まぁ冗談はさておき、摘まむと指が沈む感覚がある。

 僕はそのまま左右から鷲掴みにし、爪を立てる。そして──『二つに千切った』。


 ブチッ!


「──っっっ!?!?!?!? い”っっっっだぁああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーいっ!?!?!?!?!?」


 痛ぇっ⁉ 無茶苦茶痛ぇっ!! 痛すぎて、おっぱい取れたかと思ったっ!!

 尋常じゃない名状し難い痛さ。どのくらい痛いかと言うと、ペンチで内太腿の肉を捩じ切られた位には痛い。千切れたこと無いけどっ!


 よく考えると、自分の魂を千切るなんて何かしら影響があって当たり前、痛みが走る程度予想しておくべきだった。


「ぐすっ・・・痛いよぉ・・・うええぇぇん、おぇっ!」


(痛すぎて吐きそうっ・・・でもあの子はもっと痛い思いをしてるはずっ。この位の痛み、男なら我慢だっ!!)


 手の中にある翠玉の蛍光の球、それを更に四分割し彼らの中に宿した。


「ぐすん。皆っ、こんなことに使ってごめんね。でもっ僕はあの子を助けてあげたい。だからお願い、力を貸してっ!」


 僕の声に呼応するように明滅を繰り返す四体の編みぐるみ。

 そしてスゥーーっと持ち上がったかと思うと、最後に強く輝き、辺りを照らした。

 その輝きにエリザベスさんやドラニクスさん、そしてスクナも気付いたようで全員の視線がこちらを向いた。


「むっ、何の光だっ⁉ ユウッ、大丈夫なのかっ!!」

「これは召喚? いや、何か違うね。これは──っ⁉ しまったっ、奴を止めるよっ!!」


 その輝きに何かを感じたのか、緩慢だったスクナの動きが突如目的を持って動き出す。

 平手による薙ぎ払い。ただ虫を払うだけのような動きも、巨体による何トンと云う重さの手の平によるものであれば、それは迫る死の壁である。


 一瞬の油断、それが僕達を死地に招いた。

 迫る巨大な手の平、だがそれでも僕は焦らなかった。何故ならこの子が「任せろ」と言ったから。


「防いで、ポルトスッ!!」

「任せなっ、姫さんっ!! 『シールド・パリィ』!!」

『──っ!?!?!?』


 輝きの中から飛び出し、スクナの攻撃の前に割り込んだのは小さな小さな騎士。

 携えた身の丈以上の大楯を構えた騎士は、スクナの手を上空にいとも容易く弾き飛ばす。

 まさか蟻のように小さな者に防がれると想像もしていなかったのか、スクナは受け身を取ることも出来ず転倒した。


 タワーシールドと言うにしても巨大すぎる盾は徐々に縮み彼が担げる程度の大きさに収まった。

 光の中からは更に三匹の騎士が姿を現す。全員が統一された意匠の鎧に身を包み、確かな強者の貫禄を見せている。


「ぬぬぬ、姫に捧げる最初の一手をポルトスに奪われたのでありますっ!」

「仕方なかろう、あれはポルトスでなければ難しい」

「うむ、したり。されど、一番槍を奪われたこともまた口惜しい」

「いや、正直思ったよりも弱かったぜ? ダンタルニャンならいけただろ」


 軽く言葉を交わした彼等は周囲を確認し、問題無いと判断したのか僕へ振り返り膝を付いた。


「『近衛騎士ロイヤルガード ダンタルニャン』御身の前に馳せ参じたのでありますっ!」

「『守護騎士シールドガーディアン ポルトス』ここに。早速役に立てて良かったぜ!」

「『聖騎士パラディン アラミス』之に」

「『魔導騎士マージシュバリエ アトス』馳せ参じ候」


「「「「白銀騎士団レ・シュバリエ・ダルジョン。御身の前にっ!!」」」」


 彼等は順に臣下の礼をとった後、騎士団名を高らかに掲げた。


 彼等は編みぐるみから変化し本物の動物の様な姿になり、大きさは一メートル前後となっている。

 その瞳には知性を宿し、全身に高い志と強者の雰囲気を漂わせ、それを誇るように可愛らしい丸みを帯びた鎧が輝いている。


「皆っ、来てくれてありがとう! 凄くツッコミたい所がいっぱいあるけど、今はアイツを何とかしたい。皆で泣いてる女の子を助けるよっ!!」

「「「「御意にっヴォートル・プレジール!!」」」」


 各々武器を構えスクナに向き合う三獣士・・・四匹居るのに三獣士はややこしいので『アニマル‘s』と呼ぼう。

 アニマル‘sは勇ましくスクナに向き合う。ただ皆もふもふの動物姿のうえに、キュートな鎧を着込んでいる為どうしても勇ましさより可愛らしさが先立っていた。


「まず、ダンタルニャンとポルトスはあの二人とチェンジ。アトスは魔法でサポート。アラミスは帰ってきた二人を治療。各位行動に移せっ!」


 僕の言葉を聞き即座に行動に移すアニマル‘s、特にダンタルニャンの移動速度は凄まじく、風を置き去りにエリザベスさんの所へ向かう。


「下手すると僕より速いかもしれない、でもあの子『近衛騎士』なんだよなぁ・・・」


 速度のムダ遣いだった。


「よし、次はミミちゃんっ! シルクスパイダーの糸残ってたよね? あれ出して欲しい」

「がうっ! ぺっ」


 僕はミミちゃんから受け取ったあと、体の中に集中する。

 お腹の中にある、くるくる回っているもの──たぶん、これが『神力』。僕は、これを今から全て糸に込める。

 今からやることは賭けだ、思っていた物が作れるかもしれないし、作れないかもしれない。そして作れても思ったような効果を発揮しないかもしれない。

 だけど、あの子を救うためにはこれしかないっ!


「お願い、成功してっ!『祝福』!!」


 ──作ってやるとも、『神の糸』を!

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