1‐② ガール・ミーツ・ガール

 家なし・武器なし・幼女付きで始まった異世界生活。

 僕は現在進行形で、見知らぬ女の子に膝枕をしていた。


「なかなか起きないなぁ、聞きたいこと色々あるんだけど」


 女の子はとても気持ち良さそうに寝ていた、聞きたいことはあるが起こすのは忍びないので、もう少し寝かせてあげることにする。


 妹にも昔同じことをしてあげたなと、僕は懐かしさから彼女の頭を撫でていた。

 髪の流れに沿わせて、少し整えるようにゆっくりと、そして優しく撫でる。

 妹は僕に撫でられるのが好きだった、よく分からないが手の重みが気持ち良いらしい。

 触れた髪は絹のように柔らかく、白銀の髪は風と光を受けてキラキラと輝いていて、まるでクリスタルようだった。


 寝顔を見た感じ、歳の頃は8歳前後。妹と同じ年頃だろう。

 髪はミディアムでボリュームのある内カール、左右にお団子があった。

 漢服のようなデザインの服を着ている、この辺りの一般的な服装なのだろうか。


 軽く触れる程度に撫でていたせいか、彼女はくすぐったそうに顔を顰(しか)めた後ゆっくりと目を開けた。

 開いた目はアクアマリンのような透き通った空色をしており、その丸い瞳をこちらに向けこう言った。


「……おねーちゃん?」

「断じて違う」


 誰がお姉ちゃんかっ!

 ようやく目を覚ました女の子は、状況がよく分かっていないようでキョロキョロと周囲を見回している。

 僕もよく分かっていないので情報の擦り合わせの為に話しかけることにした。


「初めまして、僕は巻麻 結。君の名前を教えてくれるかな?」

「ピアはピリアリート。ピリアリート・ウェヌスっていうの! よろしくね、おねーちゃん!」

「よろしくね、あと僕はお姉ちゃんじゃないよ」


 それから僕たちは色々話し合ったのだが、結局お互いの名前以外何も分からなかった、困ったことにピアちゃんは名前以外何も覚えていなかったので話が進展しなかったのだ。


「記憶喪失かなぁ、ここが何処かも分からなかったし進む方向も分からない」


 記憶喪失は大問題だが、それ以上に問題なのは此処が何処か分からないこと。

 場所が分からない以上、水と食料の確保は急務である。


 ピアちゃんについてだが、いくら自分の明日がどうなるか分からない状況とはいえ妹と同じ年頃の女の子を森に放置するわけにはいかない、確実に死んでしまう。

 僕は腹を括る事にした。


「ピアちゃん、これからどうなるか分からないけど、一緒に来る?」

「うん! ピア、おねーちゃんといくの!」


 彼女は咲いたように笑って答えた。

 何度訂正しても僕はお姉ちゃんのままだったので、もう良いかと諦めた。

 女の子の体であることは間違いないみたいだし、そもそもよく考えるとそこまで男であることに拘りはない。

 慣れてる男の体が良いなって程度の事だったので、ピアちゃんの好きにさせることにした。

 色々諦めと自己完結をし、僕達は手を繋いで歩き出す。

 しかし目の前には暗く深い森、しかも時々奥から鳴き声っぽいのが聞こえる。


「......大丈夫かな?」


 ◇


 少し歩いた周囲の状況は未だ、木、木、木、木、つまり森の中、クマさんに出会いそうである。

 何の変化もない景色に「白い貝殻のイヤリングを準備するべきかなぁ」と、益体やくたいもないことを考えている。

 そもそもの話、何の道具もない状況でヒントもなく森の中を生き残るというのが、かなりのハードモードである。普通の男子高校生に要求していいレベルではない。


 自分一人なら多少無茶もしただろう、でも今はピアちゃんがいる。

 この子を絶対に人が居るところまで連れて行ってあげなきゃいけない、僕は大して賢くもない頭をフル活動させて打開策を考えるが、良い案が何も出てこない。

 

「き、ばっかりなのー」

「そうだね、でも大丈夫。すぐ人が居るところに出るから、それまでお姉ちゃんとお散歩しよう」

「うん、おててつなぐの!」


 この子、見た目より幼いようである。

 今は楽しそうにしているので良いが、日が暮れるか疲れてきたら詰んでしまう。本当に何か考えないと……。

 脳細胞を働かせながらピアちゃんが歩きやすい様に草を踏み締めて進む。


「そういえば異世界のお決まりを試してなかった」

「おきまり?」

「うん、ピアちゃんも僕と一緒に言ってみてね。『ステータス・オープン』!」

「『すてーたす・おーぷん』なの!」


 ……何もでなかった。

 ちくしょう、ちょっと期待してた僕の気持ちを返して欲しい。


「なにも、おきなかったの」

「そだね、残念だ」


 マジで何も出ないじゃん、これからどうしよう。

 チート能力でもあれば何とか出来そうな気もしたんだけどなぁ。

 え、マジで何もないの? アイテムどころか、説明も無いんだけど。こんな放置の仕方ってある?

 何の為に呼んだんだよ。


「とにかくお腹が空く前に食べ物とか水も確保しなきゃだし、ピアちゃんも何か見つけたら教えてね」

「わかった! ピアがんばってさがすの」


 ◇


 30分も歩くと大分足元が生い茂ってきた。

 視界が悪くなってきたし、遠くで動物の鳴き声も聞こえる。

 今が何時なのかも分からない、日が暮れる前に色々準備しなきゃいけない。

 不安が色々あるけど、幸いだったのはピアちゃんに意外と体力があった事と泣かなかった事。


「ピアちゃん、疲れてない? 大丈夫?」

「だいじょうぶ! ピアあるけるの!」

「そっか、ありがとう。休めるところが見つかるまで、お姉ちゃんと一緒に頑張ろうね」


 僕は頑張る彼女にお礼を言って頭を撫でてあげると、気持ち良さそうに笑って返してくれた。

 最悪おんぶすることも考えていたけど、本当に強い子だ。

 しかしそれに甘えても居られない、食べ物もそうだけど身を守る方法を考えないと。

 どっかその辺に良さげな木の棒でも落ちていないだろうか?

 だいたい最初に手に入れるのって『E:ヒノキのぼう』とかなんだけど。

 

「今よく考えると、何で檜なんだろう? 別に硬い木の棒とかでも良いんじゃ?」

「うーん?」


 益体の無い事を考えつつ、ピアちゃんが歩きやすい様目の前にかかる蔦を引き千切った時システム音みたいなものが聞こえた。


《 千年樹の蔦を入手しました、糸を生成しますか? YES / NO 》

「え、ナニコレ!?」

「ひゃっ!?」


 音声に連動して、目の前にはゲームのウィンドウみたいなものが浮かび上がった。


吃驚びっくりしたぁ、何だこれ。糸を作る? 作ってどうするんだろう?」


 隣に居るピアちゃんも突然の声に驚いている様子、握っている手に力が入っている。

 警戒しながらもウィンドウを掴もうとする様子が、猫っぽくて可愛い。


「よく分からないけど、何か起きるのかな? 糸を作るだけだし安全そうではあるけど......。ピアちゃん、作ってみても良いかな?」

「う、うん。ピアもわからないけど、だいじょーぶだとおもうの」


 ピアちゃんからの許可も出たので、画面のYESボタンを押した。すると持っていた蔦が消えて、画面が強く光る。


「目がぁぁーっ!?」

「おねーちゃんっ!?」


 直視してしまった僕は、ム◯カ大佐になった。

 光はすぐに収まり、画面から深緑色の紐が一玉落る。


「ガチャみたいだ、っていうか糸じゃ無いじゃん。紐じゃん」


 紐も糸といえば糸になるのか? ......いや、糸は紐はちゃうでしょう。

 この糸(紐)をどうしろと言うのだろう。若干戸惑っているとピアちゃんから声がかかった。


「おねーちゃん、これ『すきる』なの!」


 なんと、僕のチートスキルは糸を作る能力だった。

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