第6話 アメリアとの約束



 アメリアの瞳はグリーンだ。

 わたしがドレンテだった時の目の色と全然違って、新緑のような澄んだ瞳はとても美しかった。


「久しぶりにベッドで寝られるわね」


 テントではない場所で眠るのはここに来て初めての体験になる。

 アメリアは、今日だけはミアと寝るのだ、とあのテオを説得させたのだ。

 テオは、どうしても一緒にいたがったがしぶしぶ了承してくれた。


「今日はゆっくりお話できるわね。でも、ベッドに横になったらきっと、すぐ寝ちゃうわ」


 その通りかもしれなかった。

 今日までゴツゴツした地面の上で寝ていたのだから。


「ミア、これを見て」


 アメリアはそう言うと、シャツのボタンを外して上半身裸になった。

 わたしはアメリアの体を見て、あっと小さく声をあげた。


「これが救世主の証よ」


 そう言ったアメリアの胸の間、心臓あたりに八角形の宝石が輝いていた。

 色は濃い赤色をしている。

 これが本物なら、とても大きなルビーだ。


「ほ、ほんもにょ?」

「触ってみて」


 手を伸ばし、恐る恐る触れてみる。硬くて冷たい本物の宝石だった。

 不思議なことにその宝石と皮膚は一体化している。


「きれい…」

「この世界ではこの宝石を持って生まれたものを救世主と呼んでいるの。救世主は、ゴーレに打ち勝つ力を持っている。だから、わたしは生まれたときから、ゴーレを倒すために訓練を受けてきた」

「おひめちゃまにゃのに?」

「関係ないわ」


 アメリアは寂しそうに答えて、肌着を着た。


「ミア、あなたの話を聞かせて。どうやってここに来たの?」


 アメリアに聞かれて、わたしはあの村祭りの日の出来事をたどたどしくではあるが懸命に説明した。

 あの日、死にかけていた本物の声の主はどうなったのか。それがとても気になっていた。


「あたちはドレンテ。ほんもにょのミアはとこいったにょかな」

「ミア、これは私の推測でしかないのだけど。ドレンテとミアは同一人物だと思われるわ」

「えっ?」


 思いもよらない言葉に驚く。


「青白い魔方陣があなたを取り囲んだと言ったわね。それは、ミアが魔法を使ったのよ。ミアはとてつもない魔力を持っている。だから、万が一、自分が死ぬかもしれない局面に陥った時のために、分身を異世界に作っていたのよ」


 分身? そんなすごいことができるの?


「じゃ、じゃあ、あたちは……」

「あなたは本物のミアよ。ミアという女の子はこういうことが起きると予測していた。だから彼女は……。いいえ、ミアは死んではならない、特別な人なんじゃないかしら」


 特別。

 そんなもの知らない。

 特別じゃなくていいのに。


「あたち、ふちゅうでいい……」

「ふふ、そうね。話が飛躍しすぎたわ。あなたはあなたらしく生きてくれたら、私は嬉しいわ」


 アメリアはそう言うと、わたしをそっと優しく抱き締めた。


「ドレンテはいくつだったの?」

「じゅうろく」

「あら、じゃあ、私と同じ年だわ」


 アメリアが16歳だと分かって、ますます親近感がわいた。


「マエストーソって、どんな人?」

「やちゃちいひと」


 マエストーソには、もう会えないんだ。

 そう思ったら、少し悲しくなった。


「プロポージュちてくれた」


 そう呟いた時、涙が溢れた。

 今日まで我慢していた何かが溢れ出す。


「ああ、ミア。泣いていいのよ。我慢する事ないわ」

「ドレンテはみえにゃくなっちゃった?」

「え?」


 アメリアが一瞬、押し黙る。

 そして、わたしに微笑んだ。


「今あなたのうしろで手を振っているわ。彼女は間違いなくあなたの中にいる」


 ドレンテだったわたし。

 ドレンテの16年間は宝物だ。

 彼女はわたしと共にいるのだ。だったらもう、メソメソしない。


「あたち、きめた。アメリアのおてちゅたいする。このちぇかい、いっちょにまもる!」

「ああ……。ミア、ありがとう」


 アメリアが本当に嬉しそうに微笑んだ。


「よろしくね、わたしの可愛いお友だち」

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