第43話 歌の力


「あ、そうだったわ。えっと、アメリアの本と魔法の指南書なんだけど、その本のイメージがないとわからないよね」


 わたしはアメリアの本を魔法で取り出した。


「これが一冊目なんだけど、ウォルター殿下に破かれてしまったの。おそらく、これと同じものがこの要塞の中にあると思う。もう一冊は本がないの」

「だったら、要塞の中にある本をイメージして探すのはどうだろう」


 わたしよりずっと年上の男性、ファビオと言う名前の彼が言った。


「そうですね。では、手分けしてみんなで本を探して見ましょう」


 少しおおざっぱではあるけれど、やってみないと。


「では、はじめます」


 みんなで手を繋ぎ、わたしが魔力を流し全員が感じたところで、呪文を唱えた。


「金星のハーブ、カウスリップよ。わたしたちの求める本を探してほしい」


 すると、みんなの手のひらからカウスリップが浮き上がると、それぞれが違う動きを始めた。


「あらまあ」


 年配の女性がクスクス笑った。


「魔法が使えたのは面白いけど、バラバラね。正解はあるのかしら」

「みんな、花を追いかけて」


 最初だからうまくいったのかわからないけど、魔法は使えているようだ。

 本を探すのは真剣だけど、みんながワクワクしているのが感じられて面白かった。

 みんなの笑顔が一番嬉しい。

 わたしも立ち上がると、カウスリップのあとを追った。


 みんな、バラバラに動いていたと思っていたが、いつの間にかわたしたちは、あのウォルターがゴーレを捕らえたあの地下に集まっていた。

 破壊された扉の前でみんなためらっている。


「ここ、すごく嫌な感じ」


 ジェニファーが眉をしかめた。


「ええ」


 わたしもそう思った。


「ちょっと待って。浄化をして入りましょう。浄化のハーブはたくさん種類があるから。外へ出たときには摘んだりしているの」


 わたしはジェイクから教わった魔法を思いだし、バーベイン(クマツヅラ)を取り出した。


「バーベインよ。誰か、わたしと一緒に魔法を試してみたい人」


 声をかけると、みんなが手をあげる。

 みんな、いろんなことを知りたいんだ、と思って嬉しくなる。


「じゃあ、みんなで浄化しましょう」


 そう伝えた時、お腹の下の石が熱くなった。

 聖歌を歌って、と言ってる気がした。


「みんな、わたしが聖歌を歌うから、歌詞は言えなくてもいいからその音を聞いて一緒に歌って」

「音痴だけど……」

「気にしないで気を楽にして」


 何かをする楽しみをみんなで分かち合えたらいい。


「じゃあ、歌うから」


 わたしはバーベインを真ん中に浮かせて目を閉じた。

 額とおへその下の石が共鳴し始めた。


「あなた方は救い主の気高き種属 光を通じて再生への道へと続く 光はあなた方を剣の元へ 荒れ狂う犬たちの中に遣わした の者の御業みわざ


 わたしの歌に対してみんなが少しずつ声を出し始めた。音を合わせ、歌詞を聞き取ろうとテンポを合わせるなど、必死な感じが伝わる。

 同じフレーズを何度が繰り返すとみんな、歌詞を覚え歌えるようになった。

 みんなの音がハモり出す。

 わたしはそのエネルギーを感じながら、歌い続けた。

 すると、額の石が光始めた。

 あのゴーレを消滅させた光と同じ色。

 わたしの中で、迷いが生じた。その時、


「歌を止めないでっ」


 ジェニファーが言った。

 わたしはハッとして頷いた。

 光が地下の中を巡り始めた。

 まるで光の精霊が現れて、くるくる回転したり、逆立ちして天井から壁までキラキラと浄化しているようだった。

 光があたった場所から緑色の苔が生えてきた。シダ植物がニョキニョキと伸び、暗闇が若緑いっぱいになった。

 みんなキョトンとしていたが、その緑を見て顔を見合わせた。


「何が起きたんだろう」

「これが浄化なんだね」


 わたしにも何が起きたかわからない。


「誰かこれを想像した?」


 みんな首を振った中に、ジェニファーがそっと手を上げた。


「緑がいっぱいになったらいいな、とは思った」

「素敵だよ」


 みんながジェニファーを褒めた。

 これが魔法の力なんだ、とわたしも驚いていた。予測できないことがたくさん起きる。


「じゃあ、みんな、続きをしましょう。この地下牢のどこかに本があるんだわ」

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