第59話 ちっぽけな焼き餅



 旅に出てから3日目。

 大きな川が流れている場所についた。


 きれいな川が流れていて、トマスが辺りを見渡すと、交替で見張りをして水浴びをしたらいい、と言ってくれた。

 久しぶりに体が洗えるとあって、みんな大喜びだった。

 先にソフィーとジェニファーが体を洗い、続いてわたしとグレイスが川に入った。


 川の水は澄み切ってきれいだったが、とても冷たかった。

 服を脱いで川に入ると、グレイスが背中を洗ってくれた。


「ミカエラ様、お背中お流しいたしますね」

「あ、ありがとう」


 わたしは恥ずかしく思いながらも、グレイスの裸をあんまり見ることができなかった。

 さすが鍛えているだけあって美しい体つきだ。

 腕と太ももは硬く張りのある筋肉。しかし、盛り上がった形のよい胸とくびれのある腰つきでスタイルがいい。

 思わずドキドキしてしまった。

 グレイスはそんなわたしに気づかず、背中を洗ってくれた。

 わたしもグレイスの背中を洗いっこして、二人で川の少し深い方へ移動した。

 冷たいので、あまり長くは入れない。

 すると、グレイスがわたしの宝石を見て、ほうっと息をついた。


「美しいですね」

「え? あ、ありがとう」

「これは体にくっついているのですね」

「ええ」


 わたしは恥ずかしくて体を引いた。


「どうされました?」

「は、恥ずかしくて」

「あら。失礼いたしました」


 グレイスはクスクス笑うと川から上がった。

 わたしもすぐに出て洋服を着た。

 着ていた洋服もだいぶ汚れていたので洗って乾かそうと岩場に干した。


 みんなの元へ戻ると、ソフィーが川で摂った魚を火で炙っていた。

 わたしたちが座ると、見張りをしていたファビオとアティカスが戻ってきた。

 アティカスが焼けた魚をソフィーから受け取ると、わたしにくれた。


「ほら、ミカエラ様」

「ありがとう」


 アティカスとわたしは年が近いので話があった。

 彼の村はジニアの中でも東の方にあり、剣士を鍛える村だったという。そこへ、ウォルター殿下がやって来て有無を云わせずみんな連れて行かれたと言った。

 アティカスはまだ幼かったが、予備軍として連れてこられたが、反抗するとすぐにゴーレにされたのだそうだ。

 それで、わたしたちに感謝している。護衛をさせてもらえて光栄だ、とよく言った。

 わたしはアティカスと話をしながら、テオが気になってチラチラ見ていた。

 

 テオはソフィーから魚を2本受け取ると、大岩のそばで座っているグレイスに近寄った。


「ほら、グレイス」


 と魚を渡すと、自身も隣に座った。


「ありがとうございます。テオドア殿下」


 グレイスは魚を受け取ると、すぐに魚にかじりついた。

 テオも一緒に食べはじめる。


「おいしいですね」


 グレイスが言うと、テオがほっとした顔をした。テオは、グレイスに心を許しているのが見てわかる。


 旅に出て、グレイスがテオの護衛につくようになると、すぐに受け入れたように見えた。

 顔を寄せて親密にしているのもたびたび見かけた。

 それを思い出すと胸が痛いのでできるだけ見ないようにしているのだが、気になってしょうがない。


 テオは、昔から女性にモテた。

 記憶がある時はわたしを優先にしてくれたが、その繋がりを失ってしまうと、まわりにいた女の子たちの気持ちがよくわかった気がした。

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