第29話 ゴーレの言葉がわかる力
要塞に集められた多くのゴーレを人間に戻す。
そして、救世主狩りの標的にされたクロエを救う。
みんなで、意見を出しあって打開策を考えよう、ということになったが。
大きな問題は二つあるので、アメリアたちをゴーレから人間に戻す方とクロエを救う方とに分かれることにした。
「テオドア殿下は、ゴーレになった記憶はあるのですか?」
グレイスが尋ねた。
「いや、記憶はない。いつゴーレになったのかは、覚えていない」
「そうですか」
「でも、俺の場合は、半分だけゴーレにされていたから、それまでのことは少し覚えている。俺はミアと離れてから本国には戻らず、ずっとジニアにいた。ウォルター殿下は、アメリアの帰りをずっと待っていた。待ち望んでいた救世主でもあり、アメリアが本を持っていたからだ。しかし、アメリアが救世主の証しを失ったことを知り、とても怒り狂っていたよ。ジェイクやみんなをゴーレに襲わせ、アメリアにミアのことを無理やり聞き出した。それから、最後にアメリア本人もゴーレにさせられた」
テオの話は残酷過ぎて、わたしは何も言えなかった。
それをただ見ているしかなかったテオもきっとつらかっただろう。
テオが、隣にいるわたしの手をそっと握ってくれた。
ミアは気にしなくていいんだよ、と小さな声で言った。
「そんなひどいことが行われていたんですね……」
グレイスも神妙な顔をして、聞いていた。
「アメリア様たちは、かなり前からゴーレにさせられていたのですね。彼らを元に戻すのは最優先ですね」
「あの、わたしはクロエと話をさせてもらえませんか? テオとグレイスに、アメリアたちをお願いしたいんです」
グレイスは、わたしの考えに頷いてくれた。
「それは、いい考えだと思います。同じ救世主同士、理解しあえるでしょうし。テオドア殿下は魔法が使える。もし、オリーブの油だけでは無理でしたら、ミカエラ様のお力をお借りすることになるでしょう」
「はい」
わたしは、ゴーレの謎を解くには、クロエの力も必要なのではないか、と強く感じていた。
わたしは、テオとグレイスたちとわかれて、クロエのいる部屋へ案内してもらった。
トマスとソフィーも一緒に行きたいと言ったが、二人には、もし、厨房に食料があれば食事の用意をしてもらえないか、とお願いした。
アメリアたちが人間に戻ったら、温かいスープを一口でも飲んで欲しい。
それを伝えると、二人は任せてくれ、と承諾してくれた。
クロエの休んでいる部屋を教えてもらい、ドアをノックする。
グレイスの兵士からは、クロエは興奮していて暴れている、と聞いていた。
緊張しながらドアを開けると、窓辺のそばで外を眺めているクロエを見つけた。
クロエは、淡い黄色のドレスに着替えていた。体は細く痩せていた。
「クロエ、ごめんなさい、勝手に入って」
クロエは、わたしをちらりと見ただけで答えなかった。
「何か食べた? お腹空いてない?」
「……あなた、救世主なのよね」
「え?」
「体に石があるからって、だけで救世主と呼ばれてきたけど。わたしの住んでいた村はゴーレなんていなかったし、平和だったの。わたしはその村では救世主ではなかったわ。ただのクロエだった」
クロエはそう話してから、ぽろっと涙をこぼした。
「村に帰りたい……」
「ごめんなさい。こんなことに巻き込んでしまって」
わたしには謝るしかなかった。
「あなたに謝られても……。あの皇太子はどうなったの?」
「ウォルター殿下は本国へ還され、幽閉されるって」
「そう」
クロエはそっぽを向いたが、横顔はとても苦しそうだった。
「人を憎むのって嫌い。胸が痛いし、いいことなんかひとつもない。だから、もう何も言いたくない」
クロエが心を閉ざしているのがよくわかった。
わたしたちを助けてなんて都合のいいこと、言えないと思った。
わたしにできることは、クロエを少しでも理解することだった。
「クロエは何歳なの?」
「……。今年で十七歳よ」
「わたしの二つ年上なのね。ねえ、わたしの話を少しだけしてもいい?」
「……」
「わたしは、アメリアから救世主の証をもらったの」
そう言うと、彼女はガバッと顔を上げてわたしを見た。
「もらった? この石ははずせるの?」
「アメリアは、わたしを見た時から決めていたみたい。石をわたしに渡すって」
「石を渡してその後どうなったの?」
興味を持ったように、少し興奮している。
「アメリアは石を外した時、皮膚を傷つけてたくさんの血が出たわ。たけど、死ぬことなかった。でも、それからは、アメリアは人の傷を癒す力を失ったと思う」
クロエは黙って何か考えているように見えた。
「あなた、ミアって言う名前なのよね」
「ええ」
「わたし、ゴーレの言葉を理解できるの」
「え?」
わたしはビックリしてクロエをじっと見た。
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