第28話 グレイス・マクレーンの使命
金髪の髪をきつく縛り、長身の彼女はどこから見ても兵士に見える。
唖然としていると、グレイスの後から背の低い小太りの兵士たちが走ってきた。
「トマスっ、ソフィーっ。無事だったのね!」
二人は慣れない甲冑を来て、グレイスのそばで剣をかまえた。
その後ろから、ウォルターの兵士とは全く違う甲冑を着けた兵士たちが次々と階段から現れて、ウォルターたちを取り囲んだ。
ウォルターが両手をあげた。
「何なんだ? 一体」
「わたしはケイン国の近衛隊、隊員のグレイス・マクレーンです。ケイン国、アーサー王の命で参りました。ウォルター殿下、各国から平民を誘拐した罪で、あなたを捕らえます」
グレイスは本物の軍人だったのか。
なぜ、彼女は宿で働いて?
いや、そんなことを考えている場合ではない。
ウォルターは観念したように、へなへなとしゃがみこんだ。
グレイスの兵士に囲まれて、両手を後ろにして縛られる。
クロエも兵士に囲まれて、観念したように見えた。
しかし、ゴーレの問題はまだ終わっていない。
グレイスは、わたしのそばに来てしゃがみこむと、
「ミア、ゴーレを大人しくさせることはできますか?」
と丁寧に聞いてきた。
「はい。やってみます」
わたしは深呼吸をしてから歌い始めた。
「あなた達は貴重な香油 ケガをし 悪臭を放つ傷も その度に高価な宝石に変わる」
すべてのゴーレがおとなしく羽を休めた。
グレイスは、それを確認してほっとした顔をした。
「ありがとう。ミア、助かったわ」
「わたしたちこそ、助けてくれてありがとう。グレイス」
グレイスのおかげで助かったが、何が起きたのかこの場にいる全員が思っただろう。
テオが、グレイスのそばに立つと、彼女に言った。
「どういう事か話してもらえますね」
グレイスは、もちろんです、と頷いた。
ゴーレの数があまりに多く、収容できる場所はないというので、そのままゴーレは広間で休ませることとなった。眠っているとはいえ、いつ、襲ってくるかわからない。
わたしは、テオをゴーレから人間に戻した方法をグレイスに伝えた。
グレイスは、やってみる価値はありますね、と言うなり、兵士たちにオリーブの油をたくさん摘んでくるように指示を出した。
「我々は、ジニア国の国王から頼まれて来ました。ウォルター殿下を止めてほしいと、我が国アーサー国王にお願いされたのです。ですので、ウォルター殿下はこのまま本国へ戻され、幽閉されます」
ウォルターの命までは奪われないだろうが、彼は自分の罪に気づくのだろうか。
アメリアのいとこである彼をここまで歪めたこの世界そのものに問題があるのではないか。ウォルター自身も被害者の一人のような気がする。
「話せば長くなりますが、そうですね、どこから話せばよいか。まずは、わたしは、ケイン国のアナスタシア王女の護衛を勤めております。アナスタシア王女とは、ジュリアン・リンジー様の婚約者です」
「え?」
今、ジュリアン・リンジーって言った?
わたしが目を丸くすると、グレイスが頷いた。
「ええ。ミア。いいえ、これからはミカエラ様と呼ばせてもらいますね。ミカエラ様の兄上、ジュリアン様です」
「お兄さん……」
「ジュリアン様は今もあなたを探しておられます。しかし、アナスタシア様は、ジュリアン様が、三歳で行方知れずになったミカエラ様をまだ探されていることに疑問を持ちまして。あの…、アナスタシア王女は、その…、探究心が強いお方でして。それで…、王女もミカエラ様を探し始めました。それが一年ほど前のことです。婚約が決まったのもちょうどその頃でした」
確かにグレイスが宿にやって来たのもその頃だった。
「アナスタシア様の婚約が決まった頃、ジニア付近で行方不明者が続出していると聞いて、アーサー国王から潜入するように申し付けられました。女性の兵士は少なかったので、わたしに命じられたのです。あの宿にたどりついた時、あなたと出会い、瞳の色がミカエラ様と同じだったので、もしやと思い、失礼とは思いましたが、こちらも探っていました。それからは、皆様がご存じの通りです。ジニアからウォルター殿下とテオドア殿下が来て、ゴーレの襲撃にあった」
グレイスの説明は分かりやすく、なめらかに話すので、思わずわたしは聞き惚れていた。顔も美しいけど、声もきれいな人だ。
「わたしはすぐにでも、ミカエラ様をケイン国へお連れしたいのですが」
グレイスは、わたしの気持ちを理解してにこっと笑った。
「ウォルター殿下の残した後片付け、わたしもお手伝いいたします」
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