第30話 責任が増えたね



「ミアには聞こえないのね?」


 クロエはゴーレを操るどころか、言葉まで理解しているのか。

 すごい力だ。


「き、聞こえないわ。わたしはアメリアから石を受け取って、傷を癒す力は使ったけど、他は知らないの」

「ミアの探しているアメリアとジェイク、もちろんその他のゴーレの言葉もわたしは聞こえる」

「えっ」


 心臓がドキドキし始めた。

 アメリアたちを助けたい、彼女たちはどこにいるの? わたしは聞きたかった。

 でも、それはあまりに身勝手な気がして言い出せなかった。


 クロエはまた何か考えているように見えた。


「責任って、何だと思う?」

「え? 責任?」

「わたしがいた村にもアメリアの噂は耳に届いたわ。ゴーレを消す力を持つ救世主。でも、わたしからしたら、なぜ、同じ人間が人間を殺すの? って不思議だった。村にもたまにゴーレが空を通過することはあったけど、彼らは何もしない。わたしは、ゴーレの言葉がわかるからなおさら、不思議だった」


 クロエの話を聞いて、アメリアが、わたしに石を渡そうと思った気持ちがわかった気がした。


 アメリアはゴーレをあやめるのがつらかったのだ。


「救世主の意味をわたしはよく考えたの」


 クロエが言った。


「世間では、ゴーレを倒して、世界を守るのが救世主のように思われているけど、そうじゃなくて。ゴーレのために誕生した救世主なんじゃないかなって」


 その時、クロエの額から、宝石がぽろっと剥がれて転がり落ちた。


「あ……」


 クロエが呆然としている。


「取れた……」


 転がったのは、灰色の小石だ。

 クロエが石を拾ったが、手のひらには吸い込まれず石のままだった。

 わたしの顔はこわばっていたのかもしれない。


 クロエから石が外れたら、アメリアたちの言葉はわからなくなる。

 ど、どうしたらいいの?


 すると、クロエがわたしに手を差し出した。


「あなたにあげる」


 クロエがわたしの手のひらに石を乗せた。

 石は吸い込まれ、わたしは額が燃えるように熱く感じた。

 恐る恐る熱を帯びた部分に触れると、硬い石の存在を感じた。


「責任、一つ増えたね」


 クロエが少し悲しそうに言った。


「わかる? これで、あなたを見ただけで、救世主であるってわかるようになった。わたしの気持ち、これでもっとわかると思う」

「クロエ……、あなたは、石をいらないって思ったの?」


 わたしの声が震えていた。

 いらないから外れたの?

 だったら、わたしも……。


「あなたにあげる、とは思ったかも。よかったね、これで、アメリアたちがどこにいるのかわかるね」


 クロエはふっと微笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る