第55話 ジェイク、ちょっと後ろ向いてて



 再び目を覚ました時、あたりは真っ暗だった。

 体を起こすと、さっきとは打って変わって頭がすっきりしている。


「テオ……」


 わたしはすぐさまテオのことが気になった。

 ベッドから抜け出して立ち上がる。一人でも歩ける。

 ほっとして部屋のドアを開けた。誰もいない。

 暗い廊下はひっそりと静かだった。

 ここは要塞のどの場所になるのだろう。

 位置の把握ができなかったが、隣の部屋にテオが寝ていたことは覚えている。

 テオの部屋に行ってみた。

 ノックをしてそっとドアを開ける。

 中は真っ暗だった。


「テオ?」


 わたしは魔法で小さな明かりを作った。

 ベッドにはテオが寝ていた。

 白い顔をしているが、穏やかに眠っている。

 誰もいないけど、みんなどこに行ってしまったのだろう。

 いや、きっとみんな眠っているのだと思う。

 テオも寝ているようだった。

 起こしてはいけないと思い、部屋を出た。

 すると、部屋の外にグレイスとアメリア、ジェイクが立っていた。

 アメリアがシーッと唇に人差し指を立てて、わたしを手招きした。

 廊下にはいくつか部屋があり、テオの部屋から少し離れた場所に呼ばれて入った。


「ミカエラ様、起きられて平気ですか?」


 グレイスの声を久しぶりに聞いた気がする。


「ごめんなさい、心配をかけて。大丈夫よ。あの、テオはどうなの? 記憶は戻った?」


 ジェイクが首を横に振った。


「ミア、その事で話がある。どうやら、テオが記憶を失ったのは魔法のせいのようだ」

「え?」


 アメリアが肩で息をついた。


「見えない魔法が施されているわ」

「誰がそんなことを……」


 この要塞の中に誰か裏切っている人がいるのか。

 考えたくなかったが、テオが記憶を失うのはおかしかった。


「ミア、あなた夢の話をしたわね。あ、そうだわ、先に確認したいことがあるの。ごめんね、ジェイク、ちょっと後ろを向いてて」

「あ? 何でだよ」

「いいから」


 アメリアのおかしな頼みにブツブツ言いながら、ジェイクが背を向ける。

 アメリアはそれを確認して、わたしに上着のシャツを脱いで、と言った。

 わたしも驚いたが、グレイスに石を見せるためだろうか、と、思った。

 言われた通り、シャツのボタンを外して下着になると、いつの間にか胸の間に宝石が増えていた。


「な、なんで。いつの間に……」


 唖然として、グレイスとアメリアを見た。

 グレイスは驚いた顔で、胸の宝石に顔を近づけた。


「なんて大きな宝石」

「エメラルドみたいね。綺麗なグリーンだわ」


 アメリアも驚いていたが、どうして分かったのだろう。アメリアがわたしに気付いた。


「ミアは目を覚ましてから、テオに回復魔法を使ったでしょう。あの時、あなたの魔力がかなり強くなったのに気づいたの。死にかけたからかな、とも思ったのだけど、なんか違うし。あの石の使役と触れたことで何か起こったと考えたのよ」


 なんて鋭いのか。

 さすが、アメリアだ。


「わたし……、夢でお母様に会ったの」

「え? あのレジーナ様にですか?」

「グレイスは、お母様のこと知っているの?」

「いえ、詳しくは知りませんが、とてつもない力を持つ魔法使いだとは伺っています」


 そんなにすごいんだ。

 わたしは夢で会った、ちょっと天然の入った母を思い出した。

 

「おい! 俺はいつまで背を向けなきゃならないんだ。ミアに石が増えてたんだろ」

「あっ」


 わたしは慌ててシャツを着た。ジェイクがこちらを向く。


「俺だって異変を感じていたさ」

「本当に?」


 アメリアがからかうと、ジェイクが当然という顔をする。


「ま、いいわ。そういうことにしましょ。それで、お母様の夢って?」

「お母様は石は五つあるって教えてくれた。石が五つ揃ったら、ゴーレになった人間を元に戻せるって」

「それは凄いですね」


 グレイスが目を見開く。

 アメリアは深刻な顔で頷いた。


「残りは二つね」


 まさか、あの使役が石を一つ持っていたなんて。

 手に入れたけど、これでは命がけではないか。


 わたしは自分が死にかけたことを思いだし、ぞーっとした。もし、お母様が魔法をかけていなければ、わたしは二度死にかけたことになる。

 思わず、身震いしてグレイスに変な顔をされた。


「それで、レジーナ様は他に何を?」


 わたしは夢の出来事を詳しく話した。

 

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