第56話 追及するからね、の続き



 わたしは夢の中で母に会った話をすると、三人は口を挟むこともなく静かに聞いて、ジェイクとアメリアが確信したように頷いた。


「レジーナ様は、命を懸けてでもテオを守りなさいって言ったのね」

「……だからか。テオの記憶を奪ったやつがいるのは間違いないな」

「テオドア殿下は常に狙われているって事ですね」


 グレイスが真面目な顔で頷く。


「ミカエラ様、ケイン国へ参りましょう。アナスタシア様はあなたを待っています。そして、レジーナ様の待つカッサス領へ一刻も早く行かなくては」


 カッサス領にお母様とお兄様が待っている。

 アメリアが頷いた。


「テオを守らなくてはいけないわね。この世界の運命を握っているのが彼なら、随一の魔法使いレジーナ様もきっと助けてくださるはずよ」

「うん。わたし、絶対に何があってもテオから離れない」

「ミアならそう言うと思ったが、自分の命も守ってくれよ」


 わたしはジェイクの言葉に頷きながら、あと一回だけ残った魔法のことは言えずにいた。

 発動してほしくないとお母様が言った魔法。

 それは、なんだったのだろう。


「ミア、どうしたの?」


 アメリアの声にハッとした。


「あ、ごめん」

「テオの事が心配よね。でも、テオの記憶はすぐには戻らないと思う。グレイスの言う通り、あなた方は早くケイン国へ行くべきだわ」

「ミアとテオが眠っている間に俺たちで少し話し合ったんだ」


 ジェイクが言って、グレイスを見た。


「はい。みんなで話し合い、出発するにあたって、あなたとテオドア殿下に護衛と侍女をつけることにしたのです」

「侍女?」


 わたしはビックリして聞き返した。


「実はジェニファーはこちらのお城で侍女をしていたようです。魔法も使えるようですし、あなたとも気が合いそうでしたので、彼女を侍女として一緒に行きます」

「ジェニファーも一緒に行けるの?」


 わたしは喜びそうになってから、彼女はここを離れてもいいのだろうか、とふと思った。


「でも、ジェニファーにとってジニアは故郷ではないの?」

「彼女は自分からついて行きたいって言ったのよ」


 アメリアの言葉にドキリとした。


「彼女は自分の家族がゴーレに関わっていることを知って少し落ち込んでいたわ。でも、話をしているうちに、自分にできることがあれば手伝いたいって言ってくれたの」

「ジェニファー……」


 わたしは彼女の笑顔と泣き顔を思い出した。

 ジェニファーもつらいはずなのに。


「分かったわ。ジェニファーが一緒にいてくれるならわたしもすごく心強いわ」

「あと、テオドア殿下には護衛をつけることにしました」


 グレイスがそう言ってアティカスの名前を出した。


「アティカス?」

「はい。厳密に言うと、アティカスにはあなたの護衛をしてもらいます。わたしがテオドア殿下の護衛にまわります」


 グレイスほどしっかりした人がついてくれると思うと安心できる気がした。

 わたしの護衛がアティカスなのはちょっと不安があるのだけど。


「どうして、彼に頼んだの?」

「アティカスはかなり腕がたちます。彼はミカエラ様を必ずお守りできるでしょう」


 グレイスが自信をもって言うのだから、信用できるだろう。


「ありがとう、みんな」


 お礼を言うと、ジェイクがわたしの頭を軽く撫でた。


「ジニアは俺とアメリアが何とかする」

「ええ。お礼を言うのは私たちよ、ミア」

「うん……」


 二人と別れるのかと思うと泣きそうになる。

 すると、アメリアがくすっと笑った。


「そんな顔しないで、ミア。わたしたちはずっとあなたの味方よ。いつでも頼ってね」

「うん」


 アメリアがわたしの涙を拭うと、そういえば、と呟いた。


「ミア、私に言いたいことがあったって言ってたわよね」

「え……」

「今は嫌かな。みんなもいるし」


 アメリアの言っているのは、わたしが16歳になったら、テオが結婚してくれると約束をしてくれた話だった。

 わたしはジェイクとグレイスを見て、どうしようと悩んだ。

 恥ずかしい気持ちもある。

 みんなからしたら大したことじゃないのに。自分だけが浮かれてしまって。

 でも、テオは記憶をなくしてしまったし。

 ぐるぐると考えていると、ジェイクが笑った。


「俺はミアの考えていることがわかるぞ」

「えっ? 本当に?」

 見抜かれているのかと思うと、心臓がドキドキし始めた。


「あなたに分かるの? ジェイク」

 アメリアが胡散臭そうに横目で見た。


「じゃあ、当ててみてよ」

「いいのか? 俺が言っても」

 もったいぶってわたしを見る。

 わたしは胸がモヤモヤする。

 ジェイクは何を知っているのだろう。


「ほら、あれだろ?」

「やっぱり何にも分かっていないじゃない」

「ジェイク、嘘はいけませんよ」

 グレイスも呆れたように見ている。

「ここまで出かかってるんだけどなあ」

 と、ちらりとわたしを見た。


 わたしはもじもじしながら、小さな声で言った。


「あの日、アメリアとジェイクたちと離れ離れになった日、テオがね、プロポーズしてくれたの」

「え……」


 三人が絶句する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る