第57話 さあ、出発するぞ。



 テオのプロポーズ。

 あれから五年たった。


「テオは覚えてくれているかな……」

「当り前じゃない!」


 アメリアがすぐに答えた。


「そうだったの。なんだ、すごいいい話じゃない。だったら、なおさらテオの記憶を戻さなきゃ。ね、グレイス」

「本当にそうですね。テオドア殿下は男らしいです」

「まさか、あの日にそんな大切な話をしていたなんて……」


 ジェイクが言うと、アメリアが肘で彼の脇腹をつついた。


「ミア、絶対に幸せになって」

「うん……。アメリアも」


 わたしは再び泣きそうになった。


「アメリアのことは俺がずっとそばにいるから、安心しろ」


 ジェイクが言うと、アメリアがぽかんと口を開けた。


「なんだよ……」

「なんでもないけど……」


 見る見るうちにアメリアの顔が赤くなった。

 グレイスは二人を見てほほ笑み、


「ミカエラ様、我々も先へ進みましょう」


 と、締めくくった。




 テオは記憶を失ったままだったが、体力を取り戻し出発できるまで回復した。


 新たな旅に加わるのは、ジェニファーとアティカスの他に、トマスとソフィーも加わった。

 二人はミアとは離れたくないと言ってくれて、わたしも大歓迎だった。

 ソフィーは料理がとにかく上手だし、トマスは旅に慣れているので心強い。きっと楽しい旅になるに違いなかった。

 そして、もう一人、テオの従者になりたいという男性がいた。

 ファビオだ。


 ファビオは、ジニア国でウォルターの従者を勤めていた。

 ウォルターの行動が異常になり、人々を迫害し始めるとすぐに止めようとして、一番にゴーレにされたのだった。


「わたくしはジニアには未練もありませんが、この知識はテオドア殿下のお役に立てると思います」


 穏やかで物腰の柔らかい彼は従者に向いていると、グレイスは言った。

 ファビオは伯爵家の次男だそうで、ジニアではもう称号はないものだし、外の世界も見てみたいと自分から申し出たのだった。

 そこで、新たに旅の仲間が加わり、わたし、テオ、グレイス、ソフィーとトマス、ジェニファーとアティカス、ファビオの合計8名でケイン国へと出発することになった。




 スタンリー国王、アメリアとジェイク、他にジニアで出会った人々が出発の日に集まってくれた。

 国王は何も言わず静かにわたしたちを見送ってくれた。

 アメリアと抱きあい、彼女のぬくもりを忘れまいとわたしは思った。

 アメリアの顔が涙で滲んで見えない。


「いつもアメリアのことを覚えているから。アメリアはわたしの救世主だからっ」

「ミア……」

「ありがとうアメリア」

「ミア、私たちはずっとあなたの味方よ」

「ミア、行くよ!」


 トマスの声に振り向くと、みんなが手招きしていた。


「じゃあ、行ってきます!」

「行ってらっしゃい、ミア」


 アメリアから離れてわたしは旅の一行に加わった。

 ジニア国王から馬を数頭もらい、テントや食料を荷物に詰めてわたしたちはケイン国へと出発した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る