第20話 再びジニアへ向かう



 わたしたちは長年生きてきた宿を振り返った。


 洞窟の入り口をふさいで外へと出る。

 誰も入れないようになってしまうと、今までそこにあった場所は、すっかり分からなくなってしまった。

 外の風景は、以前とほとんど変わっていなかった。

 あのゴーレたちはどこへ行ってしまったのだろう。人の気配もなく穏やかな景色がずっと遠くまで続いていた。

 わたしが久しぶりの外の様子をながめていると、ソフィーがしょんぼりと肩を落とした。


「ソフィー、大丈夫。俺はずっとお前のそばにいるから」


 トマスが励ますように言って、夫婦は手を取り合った。


「出発しよう」


 ウォルターが言って、わたしたちは彼らを先頭に後に従った。

 ジニアまでは徒歩で十日ほどの距離があるそうだ。

 ジニアまで旅する人数は、テオ、ウォルター、マイロ。

 わたしたちの方は、ソフィーとトマス、エイミー。そして、もう一人、男性のように背が高く金髪で美人のグレイスだ。

 グレイスは穏やかで優しい人だ。口数が少ないが、人の話をよく聞いてくれる。


 わたしたちは、ゴーレとの戦いの後でもあり、エイミーも弱音を吐かずに、テオたちに必死でついて行った。

 旅の間、ウォルターにいろいろ質問されて正直困った。


「なぜ、アメリアは君に本を託したんだ。それだけの価値が君にはあるのか?」


 失礼な事を言う人だ、と思ったが無理もない。


「わたしには分かりません」

「歌の内容は覚えているか? この歌について正確に解釈をしている者はいるか?」


 アメリアもジェイクもおそらくこの本を読み込んでいたと思う。

 わたしは首を横に振った。

 もう、質問をしないで欲しい。

 顔に出たのか、ウォルターは黙って離れていった。

 すると、テオが隣にやって来て、わたしの顔を覗き込んだ、


「疲れたか?」

「ウォルター殿下があれこれ聞いてきたけど、どの質問にも答えられなくて」

「まあ、あの人なりに必死なんだよ」


 テオが、ウォルターをかばうのが少し意外に感じた。

 わたしたちは五年も離れていたから、テオはわたしよりもウォルターをよく理解しているのかな。

 そう思うと少しさみしかった。

 

 宿を出てからずっと歩き続け、森の中で野宿した。小さい火を熾して、テオたちが見張りについた。

 わたしは年が近いエイミーと寄り添って眠り、グレイスは、ソフィーとトマスのそばで寝ていた。

 守られている物がないと心細くてたまらない。久しぶりの屋外は緊張した。

 

 翌朝は、空が白み始めるとすぐに出発した。

 一日目は、干したブドウやジャガイモだけを少し食べた。

 そんな風にして何日も歩き、ようやく森を抜けた。そこにたどり着くまで、村も畑もなく相変わらず焼け野原や森ばかりで、何ひとつ変わっていないのだと知った。

 トマスも落胆しているようだった。


 ジニアには何があるのだろう。

 要塞というものを見たことがなかったし、テオの話では、ジニアにはたくさん人が集まっているらしい。

 たくさんの人がどれくらいを差すのかわからないが、エイミーは楽しみにしているように見えた。

 わたしたちは、できるだけ早くジニアへと向かった。

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