第35話 クロエのいた国



「じゃあ、俺とアメリアは出発する」

「ミア、数日で戻るからお願いね」


 二人はそう言うと、あわただしくジニア国王の元へと出発した。

 残ったわたしとテオは、ゴーレを埋葬することにした。クロエも一緒に行きたいと自分から言った。


 テオが、魔法で鉄の矢じりを抜き、ゴーレには触れず、要塞の外の区画であるお墓に穴を掘った。ここは結界内だ。

 ゴーレの体を深く埋めながら、わたしはその中に花を敷き詰めた。

 ゴーレは目を閉じて眠るように死んでいた。

 足元から土をかぶせていく。

 埋葬し終わって三人は息をついた。


「ねえ、テオ、ゴーレの体の表面ってかたいんじゃなかった? このゴーレは、マシューをかばって胸に矢が刺さって死んでしまった」

「確かにおかしいな」

「マシューは、人間と何を融合させたの?」

「俺も詳しくは知らないんだ。でも、爪も翼も人間からかけ離れている。だが、心臓が弱点ってことはわかった」

「痛みを感じるようになった、と言っていたわ。皮膚を弱くすることで痛みを感じるようになったのかもしれない」


 わたしたちが、話していると、クロエが首を傾げた。


「マシューって、誰?」

「言ってはならない国の錬金術師よ」

「何よそれ、言ってはならないって。ことば遊び?」


 クロエがびっくりしている。


「クロエの国には、ゴーレはいなかったんだよな」

「ええ。話には聞いたことはあるし、上空を飛んで行くのも見たことはある。でも、村は襲われたことはないわ。だから、なぜ、わたしの額に石があったのか、理由もわからなかったわ」

「魔法使いは多いの?」

「国民のほとんどが使えるわ。でも、魔力が弱くても、物質そのものに魔法がかかっているから、困らないのよ」

「魔法の国なんだね」

「ええ」


 話を聞いていると、素敵な国であることがわかる。クロエは幸せに暮らしていたのに。


「クロエのこと、国の人はきっと探しているね」

「みんな心配していると思う。力が戻ったら、転送魔法でわたしを国に返してくれる?」

「なら、わたしの魔力を使って……」

「俺がやるよ。力は十分ある。それに転送魔法は得意だから」



 テオが杖を出して魔方陣を描いた。

 クロエはその中に入り、わたしとテオを交互に見た。


「ごめんね、わたしはあんまり役にたたなかったわ」

「そんなことない。わたしたちを助けてくれて、ありがとう。クロエ」


 クロエは小さく微笑んだ。


「額の宝石、あなたによく似合ってる。ミアが平和を望むならきっと、世界はあなたの望む世界になると思うわ」

「ありがとう」


 わたしはクロエに手を差し出した。彼女もわたしの手をしっかりと握ってくれた。


「クロエ、行き先を」

「パリーエルム」

 

 聞いたこともない国の名前だった。

 遠く離れた異国。

 ウォルターは、クロエをどうやって見つけたんだろう。


「最後にごめんね。もしかして、ウォルターはあなたを召還したの?」

「そうよ。あなたも気をつけて。いつ、誰があなたを召還してもおかしくないのよ。その人と離れないように、ね」


 クロエの姿がふっと消えた。

 テオの魔法がうまくいったようだ。


「ミア、クロエの言う通りだ。救世主の証を2つも持っている。絶対、一人になっちゃいけない」

「うん」


 俺のそばを離れるなって言ってほしかったな、と思ったけど。

 クロエは言ったものね。その人のそばを離れちゃいけないって。


「あ!」


 わたしが突然声を上げたので、テオがビクッとした。


「どうしたんだ急に」

「わたしね、アメリアのいない間、どうやったらここにいるみんなと仲良くできるか考えていたの」

「えっ」

「それで、いいことを思い付いた。でも、これはテオの方が適任だと思う」

「聞かせてくれ」


 わたしは思い付いた提案を細かく説明した。


「どう思う?」

「いい考えだと思う。でも、俺が好きにやっていいのか?」

「わたしはテオを信じてるから、好きなようにやって」

「わかったよ」


 テオが頷いた。


「サポートを頼む」

「了解」


 わたしは胸をポンと叩いた。


「まかせて」

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