第49話 ボロボロの機密文書




「私が持っていたあの本……」

「ああ、そうだよ、アメリア。君が持っていたあの本だ。今、どこにある?」


 みんなが一斉にわたしを見た。


「ミア、本を持っている?」

「うん。ボロボロにされたけど、ここにある」


 わたしは魔法でそれを出した。

 アメリアから預かっていた本。

 アメリアは本を受け取ると、愛しそうに表紙を撫でた。


「子供の頃、私はいたずら好きで機密文書を探すゲームをしていたの」

「嘘だろ?」


 スタンリー国王が驚いてアメリアに言った。


「叔父上、ごめんなさい。私とこの本が同時に消えたのはそのせいよ。当時、私は機密文書を読むのが楽しくて、魔法を使ってこっそり読んでいたの」


 スタンリー国王が呆気にとられた顔をしていたが、何も言わなかった。


「それで、たまたまその時、手に持っていたのがこの本だった。ただの聖歌がなぜ、機密文書になったのか不思議で仕方なかったのだけど」


 アメリアは懐かしそうな顔で言った。


「そう、これはルカの使役が書いたのね……」

 

 そして、アメリアが本を開いて落胆した。


「なんてひどい。めちゃくちゃだわ」

「ルカの使役について、君は何か知っているか?」


 スタンリー国王が、ジェニファーに聞いた。ジェニファーは記憶をたどるように考えていたが、ゆるゆると首を振った。


「思い当たりません」

「それにしても、使役を呼び出すって、よほどのことがあったのね」


 アメリアが言うと、ジェイクも頷いた。


「彼は人間を使って実験をしていたんだろう。信用できる相手は人間ではなかったってことだ。強い使役を召喚したのかもしれない。あるいは、聖歌を書かせるために……」

「聖歌を書かせるっていう理由はおかしいわ。もし、聖歌で人間に戻ることがわかっていたのなら、未来を読めたってことじゃ」

「ルカは錬金術師だろ。人間に戻せるという錬金術を組み込むことができるんじゃないか」


 アメリアとジェイクが一生懸命考えていると、テオが言った。


「この本を復元魔法で元に戻してみませんか。この本はマシューが書き換えたから、人間に戻すことはできなくなったけど、書き換える前の状態に戻せるか試してみても……」

「待ってくれ、今、マシューと言ったね」


 スタンリー国王が立ち上がった。


「はい。ウォルター殿下を捕らえてすぐ後にマシューが一人で現れたんです。その時、自分はゴーレを作った錬金術師であると言った。それから、ゴーレの仕組みを書き換えたんです」

「なんてことだ……」


 スタンリー国王は頭を押さえた。


「では、ゴーレの書はマシューの手にある、ということだ。アメリア、俺は兄のミハイルが病気で亡くなったと思っていたが、もし、ゴーレの書がマシューの手にわたっているとしたら、兄は彼に殺されたかもしれない」


 ジェニファーがびくっと震える。


「ゴーレの書を最後に見たのは、兄のミハイルだ」

「兄は……。マシューは、言ってはならない国の皇太子と友達だと言っていました」


 立っているのもやっとだろう。

 ジェニファーが声を震わせて言った。

 わたしは、震えている彼女を支えることしかできなかった。

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