第3話 お友達になってくれる?



 出発してから半日、太陽が真上にある頃、休憩のため、旅の一行は止まった。

 

 わたしも一緒に歩きたかったが、この中でも一番幼く、どうしてももたついてしまう。

 テオがおぶってくれたり、他の人たちも代わる代わる手伝ってくれた。


 テオと一緒にポリッジを食べていると、アメリアが隣に座った。


「テオ、この先に川があるわ。あなた、汚れた服を洗いたいって言ってたでしょ。ミアは、私が見ているから、いってらっしゃい」


 テオは、一瞬、驚いた顔をしたが、アメリアに説得されると、すぐに戻るから、と教えられた川の方へ走って行った。


 どこにあんな力があるのか。

 感心していると、隣に座ったアメリアがそっとわたしに囁いた。


「ミア、驚かないで聞いてね」


 その言葉を聞いて、わたしは全身が硬直した。


 まさか。


「あなたはここではないところから来たのね」


 わたしは思わず、お椀を落としそうになった。アメリアが空になったお椀をそっと取った。


「大丈夫よ。大丈夫だから、聞いて」


 と言った。


「驚かせてごめんね。私は他の人たちと違うから。見えてしまうの。あなたは、私と同じくらいの年だったのじゃない? 女の人が見えるわ。けれど、その姿はほとんど消えかけている」


 わたしはあまりのことで、足ががくがくと震えた。

 ドレンテだったわたしが見えている。そして、その姿が消えかけている。

 ううん。それよりも、追い出されるのだろうか。ここを追い出されたら、生きていけない。


「たちゅけて……。おいだちゃないで」


 懇願すると、アメリアはハッと意表を突かれた顔をした。


「違うのよ。そういう意味じゃないのよ」


 アメリアは、わたしを抱き寄せて膝に乗せた。


「あなたは大事な人よ。決して見放したりしない。信じて」


 わたしは両手をぎゅっと握り合わせた。手はまだ震えている。


「ミア。私たちは今、生きているのが奇跡という環境にいる。だから、今すぐあなたにそれを伝える必要があったの」


 アメリアは苦しそうに言った。


「いつ、襲われてもおかしくない。それはゴーレかも知れないし、見知らぬ人間かも知れない。私たちは今しか生きられない。それくらい過酷な世界にあなたはいるのよ」


 今しか生きられない。過酷な世界。


「だから、私を信じて。そうだわ、ミア。まずは、私とお友だちになってくれる?」

「ともたち?」

「ええ。私はあなたのような人を待っていたの」


 どういう事だろう。


「私は救世主である証を持って生まれた」

「あかし?」

「ええ」


 そう言って、アメリアはイタズラっぽく笑った。


「テオが戻ってきたわ。今度、見せてあげるね」

「アメリア姫っ」


 走って戻ってきたテオの手には、わたしが着ていたワンピースがあった。きれいに洗ってくれている。


「テオ、私たちお友だちになったのよ」

「え?」


 テオがキョトンとした。


「アメリア姫と友だち?」

「ええ」

 

 アメリアが私にウインクして笑った。

 アメリアがわたしの事をわかってくれている。それだけでここにいていいのだという気持ちになった。


「ともたち。あたち、アメリアのともたちになったの」


 テオに伝えようとしたが、うまく話せなかった。

 もどかしさもあったけど、あんぐりしているテオを見て思わず笑ってしまった。


「ありあと。テオ。おようふくあらってくれて、ありあとう」

 

 そう言うと、テオが顔を赤くして、うん、と言った。


「アメリア姫、ありがとう」


 とポツリと言った。

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