第26話 アメリアの元へ
守りたい。
誰も傷つけたくない。
わたしは必死で、オリーブの木が生えている場所を魔法で探した。
場所を示す魔法をかけると、森の一部分がキラキラと光った。
わたしはゴーレを抱き締めたまま、そちらへ向かって飛んだ。体の大きなゴーレを連れているので、たくさんの力がいったが、絶対に助けたくて必死だった。
そこは、立派なオリーブの木が何本も立っていた。中には実もついている。
ゴーレと共に地上に下り立ち、すぐに魔法を使って手のひらいっぱいのオリーブの実をかき集めた。
実を絞って水と油とに分離させるのが油の作り方だがそんな余裕はない。とにかく、絞った油をゴーレに振りかけた。
ゴーレはケガをしているせいもあって、牙を剥いて威嚇するだけだった。
わたしはゴーレに油をかけると、うずくまったゴーレが大人しくなった。
「生命の泉において 囚われの人たちを 洗い清める」
わたしは聖歌を歌った。
歌い始めるとゴーレがピクッとした。
すると、油のかかった部分から人の皮膚が現れ、人間の形へと変化していった。白いシャツにズボンも履いている。人の姿になっていく。
「テオっ……」
涙で前が見えない。
わたしは彼に抱きついた。
よかった。やっぱり、テオだったのだ。
テオの姿に戻れたが、片腕がない。
わたしは彼を抱き締めて願った。
宝石が熱くなる。青白い光がわたしたちを取り囲んだ。
テオの腕が再生され、元のきれいな腕に戻った。テオに噛みつかれたわたしの傷も無傷な状態に戻った。
「ミア……?」
テオの本当の声は、離ればなれになった時よりも低い男らしい声だった。
「テオっ、よかった……」
「一体なにが……」
ゴーレであった時の記憶がないのだろうか。テオが戸惑っている。だが説明をしている暇はない。
「テオ、大変な事が起きているの。アメリアとジェイクがゴーレに変えられて……」
「……ああ、覚えているよ」
頭を押さえていたテオが、わたしの背中を抱いたまま立ち上がった。
「ミアが助けてくれたのか」
「わたしは……」
「ありがとう」
こんな時なのに。
彼を目の前にしただけで、胸が張り裂けそうだった。テオは、わたしの額に唇を当ててキスをした。
「みんなを助けに行こう」
「うんっ」
わたしたちはお互いを支え合った。
「要塞に戻らなくては」
「テオ、大丈夫? 少し休んだ方が」
「俺は大丈夫だ。早くみんなを助けないと間に合わなくなる」
テオの視線の方向を見ると、要塞から黒い煙が上がり始めた。
「大変……っ」
「ミア、力を貸してくれ。俺は移動の魔法を使える。だが、魔力が足りない」
「力なら渡せると思う」
わたしはテオの手を取って、ぎゅっと両手で包み込んだ。おへその下の宝石が燃えるように熱くなった。
「充分だ。ミア」
テオの顔色がよくなり、精気がみなぎっているのがわかった。
テオが小さく呟くと、彼の背丈ほどの長い杖が現れた。
「バーチで作った杖だ。母上から譲り受けた。丈夫でめったに壊れない」
素敵な杖だった。
テオのお母さんも優れた魔法使いだったのだろう。
テオは杖を地面に立てて呪文を唱えた。
魔方陣が描かれると、二人で中に入った。
「アメリアの元へ行く」
「アメリアはゴーレの姿になってるって」
「わかる。きっと、間違えない」
テオがそう言うのなら信じる。
テオと手を繋いだ。もう、絶対に離れない。
「行こう」
魔方陣が光り、わたしは体が別の空間に引っ張られるのを感じた。
自分たちが揺らいでいたのはほんの一瞬だった。目を開けると、円形ホールにわたしたちは立っていた。
そして、目の前の光景に、わたしは口を押さえた。
「なんて、ひどいことを……」
テオが呟いた。
ホールの中央には、血を流し傷ついたゴーレたちで埋め尽くされていた。
そして、ゴーレの数を上回る兵士たちが矢を向け、彼らを追い詰めていた。
クロエはゴーレのそばにうずくまっていて、彼女は傷を負っていた。
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