第45話 番外編1 グレイスの憂鬱 後編

 



 グレイスは、ミアたちを地下牢から移動させた。

 ちょうど、みんなが帰って来ていて、昼食も用意されていた。

 ソフィーの料理はとても美味しい、とグレイスは常々考えていた。

 素朴な田舎の料理だが味付けは絶妙で、旅で出会った宝のひとつだ。


 アナスタシアの元へ戻ればこの長い旅も終わり、みんなと別れる時が来るのか。ならば、この料理も味わって頂かなくては。


「美味しいですよね。ソフィーさんのお料理」


 気がつけば、金髪で鼻の上にソバカスを散らした素直そうな少女が隣に座っていた。ミアもいて、二人で仲良くおしゃべりをしている。


「グレイス、彼女はジェニファー。とてもユニークな魔法を使うの。わたしなんかより才能があると思うわ。ジェイクから教わったら、もっとたくさんの魔法を使うことができると思う」


 ミアが大層誉めている。


「それは素晴らしいですね」

「あの地下牢を苔とシダで覆ったのも、ジェニファーの発想よ」


 それは危険――。

 グレイスは言葉を呑み込んだ。微笑むだけで答えず、卵入りのサンドイッチを食べた。


「みんな、うまくいってるみたいだな。俺の方も問題ないよ。防御魔法と結界術もみんな覚えたし、姿を消す魔法もできる。ジニアって、もしかしたら魔法使いの国なんじゃないかな」


 テオドアの言葉にグレイスは頷いた。


「それはあり得ますね。だって、アメリア姫はここでお生まれになられたんですよね」

「クロエも言っていたわ。自分の国は魔法が使える人たちばかりだって」


 ますます、旅の終わりが見えてきた。

 グレイスは、できるだけ浮き浮きした顔を見せないよう、クールに言った。


「これで安心して、ケイン国へ戻ることができますね」


 そう言うと、ミアが黙り込んだ。

 何かまずいことを言ったかしら? と内心、ヒヤリとしながら顔を変えずグレイスは少し首を傾げた。


「ミカエラ様?」

「やっぱり早く戻りたいよね。グレイスはずっと旅に出てるのでしょう?」

「ええ。もう何年も。ああ、アナスタシア様にお会いしたい……」


 ハッ! 


 みんながグレイスを見つめていた。

 もしかして、今、心の声が漏れていた?


「あの……」


 グレイスが一瞬、戸惑いを見せた。ミアが、手を伸ばしグレイスの頭を撫でた。


「アメリアはきっとすぐ戻るよ」


 ああ、アナスタシア様。

 わたしはいつ、戻れるのでしょう。


 ちょっぴり切ないグレイスの心だった。



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