第9話 アメリアの本を解読せよ
隠し事がなくなって、気持ちがとても軽くなったわたしはジェイクに心から感謝したいと思った。
何かお礼がしたい。
そう考えたが思いつかない。そこで、直接ジェイクに何がほしいか聞いてみることにした。
「ちちょー。テオとはなちができまちた。ちちょーのおかけでちゅ。ありあとうごじゃいまちゅ。おれいに、ちちょーのほちいもにょはありまちゅか?」
「………言いたいことはわかった」
さすが師匠。
「欲しいものはないが、本の解読を頼みたい」
何ですかそのカッコいい頼みは。
わたしは冒険ものやサスペンス、推理など大好きで、考察するのが得意だった。
ワクワクと心が踊る。
「やりまちゅ!」
「アメリアが渡したラテン語の本があったろう」
「あい」
「あれの内容を解読してほしい」
解読? ただの聖歌の歌詞だと思っていた。
「作者は不明。散文はわざとバラバラに書かれて、読み手を混乱させようとしているか、もしくは、読まれては困る相手がいて、ばれないようにバラバラにしたのかもしれない。意味がわからない文章が多いんだ」
ジェイクでも解けない本を読んで解読する。
今すぐ本を読み直したい衝動に駆られた。
わたしが取りに戻ろうとすると、まあ、待て、と止められた。
「ミアはまだ知らない事が多いのだろう。アメリアのことも話すから聞いてくれ」
「あ、あい!」
そうだ。
わたしは知らないことが多すぎる。
ゴーレのことも。
口にしてはならない言葉のことも。
「気づいたと思うが、なぜ、俺たちがジニアへ向かっているか不思議に思わなかったか?」
「おもいまちた。どうちて、なんにぇんもかかるとおくのばちょにアメリアがいりゅにょか、ふちきでちた」
「その通りだ。俺の祖父は偉大な魔法使いでな。ゴーレによって滅びそうな世界を守ってもらおうと、救世主を
「えっ。アメリアはジニアにいちゃの?」
「そうだ。だから、俺たちは気の遠くなるほどの距離を移動しているんだ」
「とちて、ちょこにととまらにゃかっちゃにょ?」
「結局、俺のいた国は滅んだからだ。人が住める状態じゃない」
ジェイクは冷静に話しているが、故郷がないなんて、とても辛いだろう。
「俺は没落貴族だ。このアンバーの瞳は中途半端でな。本来ならアンバー色の中に金が混じるはずだったんだが、この通りだ。称号は剥奪され、俺の代から平民になった。だが、俺たちの家族はみんな魔法が使えた。特に祖父は大魔法使いと呼ばれていた。俺にも召喚できるほどの魔力があれば、アメリアをジニアへ還してあげられたんだが」
「ちょれで、いっちょにちゃびをちているのでちゅにぇ」
「まあな」
テオも瞳について似たようなことを言っていた。
この、戦争の引き金は瞳も関係していると。でも、瞳は部分的なことであって、本当はもっと深いところに何かあるのではないだろうか。
「ちぇんちょーとゴーレはかんけいあるにょてちゅか?」
「大ありだな。ゴーレを支配する国が世界を支配する」
ゴーレを支配できる?
ゴーレは人為的な生き物ってこと?
「わかったか? 言ってはならない国は今最も強い力を持っていて、つまり、そこがこの世界を支配したがっているんだ」
「ちたがっていりゅっちぇこちょは、まだ、ちはいちていにゃい」
「ああ。奴らにできることは、俺みたいな中途半端な奴から称号を剥奪すること。だが、奴らの本当の目的は、世界から平民や農民を消し去りたいんだ」
わたしは言葉を失った。
「……ま、ましゃか」
「ゴーレは見境なく人を殺す。それが答えだ」
ジェイクは本気で思っているのだろうか。
でも、もし、万が一、世界から平民がいなくなって貴族だけが残っても生活はできないのではないだろうか。
ドレンテだったとき、わたしがいた村にも貴族はいた。彼らは、洗濯ひとつできないと聞いた。料理も洋服ですら一人で着られない人々がそんなことを考えるだろうか。
「ゴーレは、ガーゴイルとべちゅなんでちゅね」
「ガーゴイル? ああ、石像グロテスクのことか。見て分かるだろう。あれは石だ。しかし、ゴーレは生身だ。すなわち切れば血も出るし、苦しそうな顔もする。ゴーレの牙には細菌がいて噛まれたら感染するんだ。その結果、ゴーレになるんだよ」
「え?」
それってつまり。
「ゴーレの正体は人間なんだ」
わたしは息をするのを忘れるほどショックを受けていた。
空で飛び続けているゴーレは元は人間?
「だ、だりぇがしょんにゃひどいことを……」
「俺たちと同じ魔法使いか? それとも物質を掛け合わせるのが得意な錬金術師か?」
二つを兼ね備えた人間ならできるのかもしれない。
この世界では魔法が使える人と使えない人がいる。この差はなんだろう。
テオは魔法は使えないのだろうか。
なぜ、アメリアとジェイクだけが魔法を使えるのか。
そして、わたし……。
ふと、呟いてひとつの共通点に気がついた。
「みんな、きじょく……」
「魔法使いの共通点か」
ジェイクが笑った。
「確かに。テオが魔法を使えるのか知らないが、アメリアとミアは貴族と呼ばれる人種ではあるな。俺も没落したが元貴族だしな」
テオのこと、まだまだ知らないことがたくさんある。
でも、テオが話さないのは理由があるからなんだと思う。
「テオのおとちは八つだといっていまちた」
「ずいぶん落ち着いた八歳だな。ミアはそれを上回るけどな」
「かいどくはテオといっちょにちまちゅ」
「それはいい考えだ」
ジェイクはニヤリと笑った。
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