第7話 イズミール深度300

『っしゃおら~、イズミール攻略はっじまっるよ~』


:ヒャッハー!新鮮なイズミールだぁ!

:乗り込めー!

:八つ裂きよー!


 なかなかお目にかかれないイズミール・ダンジョンの映像に、コメント欄が盛り上がる。

 未探査ダンジョンへの立ち入り許可はB級以上のライセンス保持が最低条件だ。


 趣味のF級、見習いのE級に始まり、D級でセミプロ、C級で一人前。

 全探索者の7割はこのC級までで現場でのキャリアを終える。


 B級に到達できるのは、調査と狩猟どちらもこなせる一流の探索者だけだ。


 それを前提として更に、先史文明に関する専門知識を認められた者のみが、全体の5%にも満たないA級に名を連ねることができる。


 いよいよお嬢様の配信の価値が世間にあまり認められていない事が不思議でならない。

一体どれだけ自己アピールが下手なんだ。


『まずは前回到達した深度500までちゃちゃっと行こうか。保存ルート3で半速前進。ウォッチャーのパラソルウィングが音響索敵だから、なるべく静かにね。』

「承知しました。巡航ブースターで前進します。」


 低速移動で風切り音を抑えつつ、巨大な筒状の吹き抜けを降下する。

 壁際を延々と這っている螺旋階段は、かつてここで働いていた人間たちの為の物だろうか?


 もう二度と使われる事のない設備を、自動プラントで産み出された作業機械達がせっせと保守点検している。


「…報われんな。」


 私達ゴーレムとは異なり、これら先史文明の機械群に心は無いとされている。

 私も同意見だ。

 もし、あれらに心があるなら、こんな甲斐のない生き方にはとても耐えられないだろう。


 突入から数分かけて筒状構造の底に到達。

 現在の深度は約300だ。


 かつては大型の輸送車が通っていたのであろう通路を、引き続き巡航ブースターのみで飛び進む。

 緩やかな下り坂を700メートルほど進んだところで、ウォッチャーカテゴリのガーディアンを3機確認した。


 いずれも蝙蝠のような形状。

 パラソルウィングだ。


:さすがに、この距離でやり過ごすのは無理かな?


『うーん、すり抜けは前に試したけど無理だった。鳴かれる前に処理しとく。ハル、パルスミサイル。』

「承知いたしました。パルスミサイル、発射!」


 ライトショルダーユニットを起動。

 半魔力兵器、雷精パルスミサイル。

 雷の術を用いて電磁パルスを発生させ、音や光を出す事なく広範囲の電子機器を攻撃することができる。


 薄闇に微かな大気の揺らぎが生じ、3機のパラソルウィングがガシャリと地に落ちた。


 電子部品が焼けてしまうため、なるべく使用は避けたい所だが、イズミールで欲を欠けばかえって赤字を招くと言う事を、お嬢様は既に学習済みだ。


:もったいない

:上手に焼けました~

:お見事


『お見事ありがとー!でも、やっぱこの倒し方もったいないな…パラソルウィングはあんま高い部品ないから、良いっちゃ良いんだけどさ。』

「アタッカーを大勢呼ばれる方が危険ですからね。初めて来た時は散々な目にあいました…」


 正直あまり思い出したくない。

 全高が私の倍はあるガーディアン複数機に全方向から袋叩きにされて、一瞬でスクラップにされたからな。


 あの時は、流石のお嬢様も頭を抱える大赤字だった。

 深度300帯の最大のリスクと言っていいだろう。


『ううう~…やっぱ惜しい!ハル、耳だけもいでおいて!イリジウムメッキの使用量が多いから、500くらいは行くはず!』

「えぇ…そんな小銭拾いに戻るんですか?」


:強欲やつざき発動

:判断が遅い

:へー、知らんかった


…イズミールで欲を欠けばかえって赤字を招くと言う事を、お嬢様は既に学習済みだ。


 大事な事なので2度言いました。

 ほどなくして、通路の入り口が見えて来る。

 まもなく深度400だ。

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