第2話 ヒカリ・アシヤ
…とまあ、そんな感じのやり取りがあったのだろうなと言う事は、帰宅したお嬢様の様子から、なんとなく見てとれた。
だってほら、
「ん゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁ~~~~!!!なんなん!?なんなんアイツら!?なんで人がたまにちょっと窓口申請しただけで、いちいちジロジロ見て来るん!?構ってくんなよ!放っとけよ!どうせ私の事笑ってんだろクソがよぉぉぉ!!」
ね?この方たまに外出するといつもこの調子なんですよ。
ほんと毎度毎度めんど臭…もとい、おいたわしい。
「恐れながら、お嬢様…それはお嬢様が破滅的に口下手で、コミュ力のコの字も無いド陰キャであるが故に、延々と世間様に無用の威圧感を垂れ流し続けた末の、自業自得ではないかと推察いたします。」
いった!お嬢様の野郎!私を無言で台パンしやがった!
あ、申し遅れました。
私こちらのヒカリお嬢様にお仕えしております、汎用演算ゴーレムの
ダンジョン生まれのダンジョン育ち、しがない先史文明遺産のレストア品ではございますが、現在はこうして、お嬢様のご厚意により、私室のラップトップ式筐体にコアを収めさせて頂いております。
と、まあ、私の事はいいんだよ。
お嬢様の話をしよう。
所属家系名:アシヤ、個体識別名:ヒカリ、
フルネームでヒカリ・アシヤ様。
それが我が主の名だ。
2000年前の大崩壊で滅亡した先史文明の遺跡、通称ダンジョンを調査し、その資源を持ち帰る探索者という仕事を生業としておられる。
ダンジョンは比喩抜きで、先史文明が残した宝の山だ。
金銀銅に白金類、ニオブにタンタル、果てはウランなど、本来ならば人の手が届かぬ地の底から超高度技術で採掘された有用元素の数々が、高純度に生成された人工物の形で濃集している。
その歴史の末期まで魔導技術を持たなかった先史人類達は、
その知識が、お嬢様にはある。
故にA級。
このお方が、並み居るダンジョン探索者達の最上位に名を連ねている事には、相応の理由があるのだ。
アラーム、アラーム、まもなく16:00です。
「おっと、お嬢様。アラーム設定されたお時間です。件名は『配信』となっておりますが…」
「あ、やべ!もうそんな時間?ベノちゃんのライブ配信始まっちゃう!」
お嬢様が気持ち悪いほどのスピードで私の入力端末を操作し、行きつけの動画投稿サイトにアクセスする。
ここでは、多くの探索者にとってのもう一つの仕事…
危険地帯であるダンジョン内での活動を録画し、ダンジョンの価値と危険性、ひいては、そこから資源を獲得して来る自分たち探索者の社会への貢献を広くアピールする為の、動画配信者としての活動が盛んに行われているのだ。
これらの動画は、広告収入や投げ銭と言った形で探索者の副収入に繋がる一方、個人情報の流出やストーカー被害を誘発するなど負の面もまた無視できず、一部の探索者は自衛のために身元を隠す目的で、仮の名前と姿を用いて配信活動を行っていた。
お嬢様の推しもまた、そうして正体を伏せられた、人気バーチャル探索配信者のひとりだ。
『こんブスで~す!って、誰がブスやねん!おクスリ系ダンジョン探索者の
私のディスプレイ上に、ライブ2D技術で描画された可愛らしいキャラクターが表示された。
深い紫色に染められたゴシックロリータ調の衣装に身を包む、神秘的な銀髪の少女。
明らかに絵でありながら、まるで人間のようにクルクルと表情を変えて、オープニングの挨拶を行っている。
これはリアルタイムで撮影されている、投稿者本人の動きと同期した、いわゆるアバターと言う物だ。
附子島べノミ様
身元を明かしていない以上、自称にはなるが、お嬢様と同じくA級ライセンス保持者として一目置かれている探索者だ。
配信者としての才能にも恵まれており、数千もの同時接続者のコメントが、画面を滝のように流れている。
無論その中には、お嬢様が鉤爪を気色悪くウネウネさせながら打ち込んだ、冒頭挨拶への返答も含まれていた。
:キレイジー!!!
:キレイジー!
:キレイジ~!
:ベノちゃんこんブスー!
:キレイジー!
:ブスちゃ~ん!!
:キレイジ~!
「いえーい!キレイジ~~~!!!ふけへへへ、やっぱベノちゃん可愛ぇなぁ!」
「お嬢様は本当にこの配信者様がお好きですね。どうせなら、喋り方とコミュ力も爪の先くらい見習えばいいのに。」
あだっ!お嬢様の野郎!また私を台パンしやがった!
精密機器なんだから大事にして頂きたい。
そして、附子島様の配信が始まったと言う事は、私たちもそろそろ出発の時間だ。
時刻はまもなく午後4時15分。
附子島様と同じように、お嬢様もまた探索者兼配信者として、自らの探索活動を公開している。
賑やかな配信を二窓で画面の隅に表示しつつ、私は自らの入出力ポートに接続された探査用筐体のコントローラーをアクティベートした。
「うっし!そんじゃ、私たちもそろそろ始めよっか。行くよ、ハル。
「承知いたしました。
状況開始、それが私たちの合言葉だ。
念話に乗せた開示の術により、私のラップトップ筐体と、ガレージに預けてある探査用筐体の間に霊的類似性を作り出し、類感呪術のパスを繋げる。
瞬間、視界が暗転した。
――――――――――――――――――
-テレパスリンケージ接続成功
-疑似コアユニット正常起動
-クオリア同調率:99.7%
-ステータスチェック:全項目クリア
--レプリカント:HAL-
---メインシステム:探査モードに移行します
――――――――――――――――――
『ハイホー!皆様こんリッパー!あなたのハートにアイアンクロー!鉤爪系ダンジョン探索者の
カメラアイと同期した私の視界の右下に、天使が舞い降りた。
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