第46話 ヒスイちゃんは今日もパワフル

『お待たせしました!援護します!』


 ハウスの敵を全滅させた直後、聞き慣れない声がボイスチャットに乱入して来た。

 直後、天井が弾け飛び、そこから落ちて来た巨大な何かが床を叩いて激しく揺らす。


CRAAAACK!!!


「くっ、床が!?」

「な、何事ですかっ!?」


 天井を突き破って現れたのは、萌葱色の重量級ゴーレムだった。

 不明機体は左腕に巨大なパイルバンカーを構え、周囲を素早く索敵する。


 協会支部の備品筐体にこんな趣味的な武器が装備されているはずはない。

 ここに探査用筐体を預けている、登録探索者の誰かか?


『…って、あれ?ひょっとして来るの遅かった…?』


『え、だ、誰…』

『ヒスイ先輩!』


 図らずも、お嬢様の疑問にボルヘス様が答える形となった。

 ヒスイ先輩と言うと…モグライブ2期生の左道さどうヒスイ様か!


『…あっ、あっ、ッスゥーーー…あの、お疲れ様です。2人ともレンタルの筐体で凄い所まで来たんだね。』


 左道様は、お嬢様の2つ前の先輩にあたる、モグライブの2期生ユニットGemmyジェミーの一員だ。

 B級ライセンスをお持ちだと聞き及んではいたが、ここボーパールでも活動されていたとは初耳だった。


 A級ライセンスとB級ライセンスを隔てるものは、ひとえに古代の科学技術に関する知識の多寡に尽きる。


 既知範囲内の探索に限れば両者の間に確固たる差は無く、こと戦闘に感してはA級と互角以上の実力を示すB級探索者も珍しくない。


 こうして応援に寄越されたと言う事は、この左道様も、そんなB級上位の猛者なのだろう。


『…あの、私さっき社長から連絡を貰って、午後の配信の後すぐに潜ったんです。ここからは私と…このトロンがお二人を護衛します…』


 左道様が尻すぼみな声で言い終えると、萌葱色のゴーレム、TRONトロン-八十四が手慣れた様子で後を引き継いだ。


「ここからは私が前衛を務めます。損傷の大きい者は私のすぐ後ろに付きなさい。」

 

 この場で最も損傷が大きいのは私だろう。

 左腕部のハードポイントが破損し、外装前面もシールドの裏でガリガリ擦られて傷んでいる。


 この頼りない湯たんぽブレード一本では、到底前衛の役割を果たし切れそうにない。

 ここはお言葉に甘えさせて頂くとしよう。


「わかりました。よろしくお願いいたします。」

「よろしい。よく頑張りましたね。あとは私にお任せなさい。」


 やはりと言うか何というか、ちゃんとした機体構成のゴーレムが一機居るだけで、進行はまあ劇的に楽になる。

 

 トロンは左腕部に大型のパイルバンカー、右腕部に単発式の重散弾砲を装備した接近戦特化の重量機だ。

 肩部にも散弾砲のリロード間隔を埋めるための機関砲が搭載されており、間合いに捉えた敵を確殺する事に余念がない。


 ここボーパールのような閉所で、熱に晒したくないナマ物を狩るのにピッタリの武装構成と言って良いだろう。

 餅は餅屋に任せるに限る。


「マスター、左腕部パイルバンカー、チャージ完了です。」

『…ん、ご苦労。それじゃ、蔦の部分だけ壊すよ。あ、よいしょー」


CRAAAAACK!!!


 のほほんとした掛け声に凄まじい破砕音が続き、生体ガーディアンの蔦で形成された床が津波のようにたわんだ。


「お、お、お?」

『ぬああ〜!?めっちゃ揺れてる!』


 視界がグワングワン乱高下して、お嬢様が大騒ぎする。

 トランポリンのように波打っていた地面がようやく落ち着くと、パイルパンカーの命中した地点には、ガッポリと大きな穴が開いていた。

 なんで破壊力だ。


『…こんなんアリ?』

 

 ボルヘス様がガチトーンで呆然と呟く。

 心中お察しします。


 しかしながら、法的にはガーディアン由来の一時的な構造はダンジョンの一部とは認められず、保護の対象外なのだ。


 トロンの破壊力を手にした私たちは、ローグ様化した蔦の立体迷路を遠慮なく破壊しながら、下へ下へと突き進んで行く。


『あ、ヒスイ先輩。生体ガーディアンが落とす黄色い樹脂には触らないで下さいね。地脈湧出の影響で富魔力化しちゃってるんで。』


『…おお?よく分かんないけど、分かった。触っちゃいけないんだね…』


『あっ、えと、なんか魔力機構に悪影響らしくて…』

 

 もはや緊張感も何もあった物ではない。

 ぺちゃくちゃとお喋りに興じながら、残りわずかな道程をゴリゴリと埋めて行く。


 たまにナックラヴィーが突っ込んで来たり、ノッカーに集られたりするが、いずれもトロンがパイルバンカーや散弾砲で即死させた。


「さっきまでの私たちの苦労って一体…」

「いつもの体の有り難みがよく分かったな。」

 

 その後もつつがなく消化試合は進み、瞬く間に深度200付近の管理室まで到達した私たちは、そのままお嬢様の指示通りにコンソールを操作して、錬金薬製造プロセスを正常終了させた。


 なお、最深部には特に用はないので、ボスは普通にスルーした。

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