第58話 電光と石火
咄嗟に使い捨てブースターを噴かし、軌道を修正し終えた瞬間、サンダーが私の体に到達した。
使いきれなかったブースターが1回分、私の体から剥がれ落ちる。
システムリカバリまで何秒かかる?
試算が終わると同時に、その数字は無意味と化した。
予想通り発射されていたトゲが、私に喰らい付いて、再度エラーを吐かせたからだ。
『んがーーーっ!クソが!またちゃま先輩!?やってんねぇーーーッッ!!』
お嬢様がキレ散らかしている。
言い掛かりかも知れないが、サンダーかトゲどちらかの出所は間違いなく米良様だ。
おのれ許さんぞ。
もがき苦しむ私の横をチャッピーとロイが通過して行った。
2機ともサンダーの影響を受けて、NISCに必要なミニターボを溜められないのだ。
どうにか復帰した私の隣に、青い機影が並ぶ。
ミーガン。
厄介なアイテムばかり引き当てる、迷惑な幸運猫め!
意地で体当たりをブチ当て、バルーンフェイスの攻撃圏内に押し込んでやる。
「ぶに゛ゃー!?なんでウチだけー!?」
間が悪かったと悔やむがよい。
先頭2機は既にゴールに飛び込んでいる。
私も一歩遅れて最終ラップに突入する。
電磁クロー解禁。
『でぇぇーーいっ!かくなる上はやつざき殿が来るまで、燃やし続けて止めるであります!』
『なにおー!そっちこそ風通し良くしちゃる!』
ロイとチャッピーが危険なダート際で格闘戦を始めた。
速度を落としての撃ち合いになれば、その後の展開は加速力に優れる軽量機に有利となろう。
炎城様は、お嬢様が追いつく事を信じて、あえて不利な賭けを買って出たのだ。
この捨て身の献身に、応えぬわけには行くまい!
『っしゃ!ブースター出た!ハル、決めるよ!』
「承知いたしました!」
単発の急加速アイテムでダートを突っ切る。
チャッピーと私の相対距離がゼロに近づく。
揚戸様は、それが見えていてなお、炎城様との戦いに集中せざるを得ない。
これがファイナルラップの魔物だ。
まもなくジャンプ台に差し掛かる。
『来たな狂犬女!あっち行けー!』
:メノたそこっち向いてね?
:ぎゃー!ランス来る!
揚戸様も一か八かの賭けに出た。
あえて逆走コースをとりながら、ブーストランスでこちらに突っ込んでくる。
ランスの推力でロイの火炎を振り切りつつ、私の足をも止めるつもりか。
『き、狂犬…?私が…?』
お嬢様、今さら清楚ぶってショック受けたフリしないで下さい。
とっくにネタは上がってるんですよ。
直進か、右舷側か、どっちの軌道で来る?
飛行もパルスブーストも使えない以上、躱せるかどうかは、読み合いと言う名のギャンブルだ。
これが一対一の試合であればの話だが。
『待ってましたよ、やっさん!ほら、決めちゃって!』
『ぐぇぇぇ、いやいやいや!流石にそれは脳筋過ぎるやろがい!』
ロイが重量差に物を言わせて、チャッピーを後ろから羽交締めにする。
予期せぬ積載量の激増に速度を削がれたブーストランスは、もはや脅威足り得ない。
真正面から鉤爪パリィで打ち払い、持ち主ごと堀の底へと叩き落とす!
『おらよー!こう言う事ですよ、こう言う事ォ!』
『ち、ちくしょう…死なばもろともー!』
チャッピーが最後の悪あがきでロイにしがみつき、諸共に崖下へと転げ落ちて行く。
1位と2位を私達で占めると言うわけには行かないか。
『ごめん、ホムち!絶対勝つから!』
間一髪ジャンプアクションを成功させ、3度目の270°コーナーに飛び込む。
そのまま危なげなく屋内エリアを抜け、最後のNISCが近づいて来た。
背後から小さな機影が複数…?
ミーガンのレーザードローンか!
『今さらこんなもの!ハル、叩き落とせ!』
「はい、お嬢様」
切り札のタイミングを誤ったな、米良様。
電磁クローを数度ふるって小蝿を振り払う。
多少は遅れたが、ここまで差が付けば、お嬢様の1位ゴールはもはや覆るまい。
後続グループの様子はどうだ?
「あに゛ゃーーーっ!?アイテムにスリップ重ねて置いたの誰ぇーーーっ!?」
『ねえぇ〜!これ、ぜったい八津咲でしょ!あいつやってるわ!マジ後で覚えとけよ〜』
あ、私がさっき捨てたスリップゾーン発生装置に、今ごろミーガンが引っかかってる。
はい、それはお嬢様の仕業です。
私は操縦されて仕方なくやっただけなんです。
「なっ!?く、鎖!?」
不意に、最下位付近に居たトロンから素っ頓狂な声が上がった。
ん?鎖?
そんなアイテムあったっけ?
『じゃじゃーん!この度イヴに新しい武装が着きました〜!本邦初公開、電磁クサリガマをご賞味あれっ!』
視界の端に留めたチームメイト視点の画面を拡大する。
先ほどミーガンに追い越され、再び最下位争いに戻ったイヴが、屋内エリアのど真ん中で、手鎌の柄から伸びた鎖をトロンに絡みつかせていた。
あれが先ほど言っていた策か!
よくぞこの土壇場まで隠し通した物だ。
『はなしてー』
左道様は応戦せざるを得ない。
しかしパイルバンカーとは元より、ゴーレム相手に真正面から容易く当てられるような武器ではないのだ。
2機は鎖で繋がったまま、段差を転げ落ちて行く。
再び焦点をカメラアイに戻す。
目の前にゴール。1位は私だ。
少し遅れてチャッピーとロイが続き、その更に後ろからミーガンが滑り込んで来る。
イヴとトロンの姿は見えない。
『ぶえっ、ちょ、まって、やめ』
『あっ、あっ、あっ、やばい…トロン、バンカー』
…どうやら絡まり合ったまま隘路に突入し、2人揃ってバルーンフェイスにボコボコにされているらしい。
左道様がパイルバンカーで反撃し、どうにか道を切り開いている。
イヴはそれにタダ乗りして、漁夫の利を得ている格好だ。
団子になった2機はそのままもつれ合いながらゴールへと飛び込んで来る。
果たして順位は…!
:やたーーー!ベノち最下位脱出!
:これもう優勝でいいやろ
:全亜が泣いた
1位:八津咲ネイル、15pt
2位:揚戸メノウ、12pt
3位:炎城ホムラ、9pt
4位:米良ルリ子、6pt
5位:附子島ベノミ、3pt
6位:左道ヒスイ、0pt
4期生は27pt獲得!
2期生は18ptで9点差。
第1レースの負け分を取り返して、更に6点リードだ。
最終レース、有利なのはこちらだ!
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