第59話 ベビパはもうしょうがない
『やっさんおめでとーーー!』
『ホムちー!やったよぉぉーー!!』
レースから戻ったお嬢様と炎城様は、熱いキャラ崩壊…もとい、熱い抱擁を交わしていた。
もちろんバーチャルなのでアバター同士ではあるが。
『ベノちゃんも凄かった!あのクサリガマっての、色んな使い方出来そうだね!』
それはそう。
あの武器は私も初めて見た。
装備箇所もハードポイントではなく、胸部の格納スペースを利用しているようだし、相当マニアックな代物だろう。
『いやぁ、積載がカツカツだから、付けるの大変だったわ。でも、イヴにおねだりされちゃったからねぇ。』
どや顔の附子島様に対して、イヴはなにやら気まずそうだ。
分かる、こう言うの堂々と人前で言われると恥ずかしいよね。
ノンデリですよ、附子島様。
「今んとこ、ボス達の6点リードか。この分なら勝ち目は十分ありそうだな。」
「ええ、イヴと附子島様が頑張ってくれたおかげで、3点上積みが出来ました!」
もちろん貴機も。
と続けようかと思ったが、やめておこう。
それは野暮と言う物だ。
『第2レースお疲れ様でした〜!いよいよ次が最後のレース!第3レースのコース抽選いってみましょー!』
いよいよ次で最後か。
泣いても笑っても、このレースで決まる。
どのコースが選ばれるにせよ、悔いのない走りにしよう。
さて、最後の戦いの舞台は果たして…
:あっ
:あかん(あかん)
:誰だよ投票したのwww
:よりによって決勝が運ゲーwww
:これは酷い
:負けたな、風呂入って来る
『え、えー…選ばれたのは、はい。みなさんご存知、ベビィパッションです。さ、最終レース頑張ってねー』
ベビィパッション。
その名を耳にした途端、参加者全員のアバターの目がカッと見開いた。
それもそのはず、このベビィパッション、略してベビパは全コース中ダントツで不人気なのだ。
コースの構造はエキサイトダッシュを4分の1以下に縮小した超小型の楕円ループで、そこを通常とは異なり全7周する事になる。
ダートなし。ジャンプなし。ショートカット以前にコース全体が視界に収まっていない時間の方が短いと言う、駆け引きもクソもない単調な道のりに、恐ろしい密度でアイテムボックスが配置されている。
行き着く先は運ゲーだ。
一度ベビパが選ばれたが最後、走者は全員ひたすら引き運を信じて順位を譲り合い、かき集めたアイテムで、打開という名の足の引っ張り合いを延々続ける事になる。
さながら地獄の亡者のように。
『あははははははははwwwwwベwビwパwwwぶっちゃけ、あたしここが一番得意まであるわwwwww』
附子島様が大爆笑している。
うん、このひと後ろの方からアイテムで荒らすの得意技だもんね。
『あっちゃー…最後がこれでありますか。炎城組のみなさん、応援ありがとうございました。次回大会ではもっと活躍できるよう頑張りたいと思います。』
炎城様は早くも〆に入った。
あかん、もう完全に気持ちで負けている。
『っっっはぁぁぁ〜〜〜!?ふざっっっけんなよ!!こんだけ接戦して、最後運ゲーとかあり得なくない!?』
お嬢様は相変わらずガラが悪い。
今日の切り抜きを見た他の参加者のリスナー達からは、間違いなくヤカラ系バーチャル探索者として認知された事だろう。
そして、覚えておいでだろうか?
今日の参加者の中には1人、アイテムの引き一つで散々試合を荒らした、凶運の招き猫が居る事を。
『ふっふっふ…ついに来たぜ。待ちに待ったボクの時代がよぉ〜』
「お前ら、ウチのこと散々ボコにしやがって!覚悟しとけよ!あとウチ別に猫キャラじゃねーから!」
運ゲーコースに決まった途端に強気ですね、米良ルリ子様。
そしてミーガン、その名前と口調で猫キャラじゃなかったのか。
もう途中経過にいちいち言及しても仕方ないんで、結論から言うと負けました。
最終成績は以下の通り。
1位:米良ルリ子、12pt+6pt+15pt=33pt
2位:炎城ホムラ、15pt+9pt+0pt=24pt
3位:八津咲ネイル、6pt+15pt+3pt=24pt
4位:揚戸メノウ、3pt+12pt+6pt=21pt
5位:左道ヒスイ、9pt+0pt+9pt=18pt
6位:附子様ベノミ、0pt+3pt+12pt=15pt
2期生72ptに対して4期生63pt。
附子島様が健闘したものの、お嬢様と炎城様は完全にベビパの魔物に食われた。
てか、レーザードローンってアイテム弾幕と一緒に飛んで来ると、あんなに厄介なのね…
世界よ、これがマリカだ。
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