第57話 血みどろのキングダム

『あ〜ん!ボク復帰したばっかなのに〜!』


:こ れ は ひ ど い

: ルリちゃまカワイソス

:ここからが本当の地獄だ…!


 現在の順位は2位。

 更に無敵バリアを張ったロイが猛スピードで追いついて来ている。


 その過程で、米良様のミーガンが哀れにも復帰直後に轢かれたらしい。


 何と言う不運。

 1試合目のアイテム引きの良さの揺り戻しが来ているのだろうか。


『でもメノウ先輩には結構離された。ホムラちゃん、飛び道具ある?』

『はい、火球投射機がひとつ。間合いに入りさえすればどうにか…』


 お嬢様が米良様を仕留めている間に、揚戸様はNISCを通って、かなり先まで行ってしまった。


 このまま首位を譲ってしまえば、私とロイが2位と3位を押さえた所で、チーム得点は再び21対24だ。


 点数差は6点に広がり、最終レースでの逆転が更に難しくなる。


 上手くゴール直前で止められるよう、飛び道具は確実に当てて行きたい。


『ところがどっこい。こっちも3連ホーミングを引いたんですね、これが。』


 追いついて来たトロンが、先ほど私が叩き込んだのと同じアイテムを構えている。


 私の防御は2枚。

 敵の弾は3発。

 私かロイ、どちらかが一撃は受ける計算になる…!


『えいやー』

「先ほどの返礼です!ハルさん、受け取りなさい!」


 ホーミング弾が来る!

 背後に対空させた反射弾を破壊された。

 続けてもう2発来たら、耐えきれない。


 だが、生憎と4期生は3人居るのだ!

 その最後の一人が今しがた到着した!


『間に合ったぁー!イヴ、無敵バリアONにして!』

「御意。」


 あえて最下位でアイテムを蓄えていた附子様は、その分手札が潤沢だ。


 無敵バリアを張って飛び込んで来たイヴは、そのままトロンに向かって突進し、その巨体と展開中のホーミング弾2発を弾き飛ばして、まるごと無力化した。


:無敵2つめ来ちゃああああ

:これはラッキー

:ベノちゃんナイスゥー


「ああああ!もう!鬱陶しいっ!いちいち理不尽なアイテムばっかり使って来てッッッ!」


 トロンのその魂の叫びは、全マリカプレイヤーが一度は口にした事がある台詞だろう。

 みんなそうやって大人になって行くんや…


 バルーンヘッドの隘路を抜け、最後のジャンプアクションを決めて、ゴールへと飛び込む。


 再び連続カーブ地帯だ。

 第二ラップ最初のアイテムボックスに手が触れた。


『お、ブースト出た!ショトカ行くね!』

『了解であります。後続の足止めは炎城にお任せください。』


 スリップゾーン発生装置を適当に設置して破棄する。

 繰り上がりでチャンバーに上がって来た支給アイテムを起動。


 キングダムサーキットのショートカットは、なにもNISCだけではないのだ。

 使い捨てパルスブースターでダートを飛び越え、先頭のチャッピーとの距離を埋める。


『最初に前に出ちゃうと、こうなるんですよねぇ、メノウ先輩っ!』

『うっわ、みんな聞いたー?今のくっそ露骨なイヤミ!何か今年やべー新人入って来たんですけどぉ!』


 すっかり先輩方からのお嬢様の扱いがやべー奴になってしまった。

 なんでや!弊事務所のクレイジー枠はお宅のルリちゃま先輩でしょ!


 それはともかく、1位のアイテムボックスからはロクな物が出ない。


 とりわけ使い捨てブースター等の加速用アイテムは決して支給されず、こうして詰め寄られた時に再度距離を突き放す手段は、こちらのミスを祈るくらいしか無いのだ。


『前に出るなら早くしたらー?今ならメノたそ何も飛び道具ないよ。』


 揚戸様が挑発して来るが、無論はいそうですかと乗るわけには行かない。


 現在の最下位は米良様、その前は左道様で、いずれも2期生だ。


 両名の内どちらかがトゲを引いていた場合、1位になった瞬間を狙撃され、却って揚戸様との距離を離される恐れがある。


 どうにか相手をクラッシュさせるか、加速して距離の貯金を作るか、自分の足が止まる事を前提とした準備が必要だ。


 ジャンプ台を抜け、270°コーナー前のアイテムボックスを取得。

 中身は…?


:3連ブースターきちゃあああ

:これは美味い

:行け行け行けー!


 よし!加速アイテム!

 それも、トゲで止められた後に再度切り返せる3連タイプだ。

 これで安心して、目の前のチャッピーを抜ける!


『メノウ先輩は何引いたのかなー?あっ、単発の反射式衝撃弾っすか、ふーん。そんじゃ遠慮なく!』


 270°コーナーが終わる。

 屋内エリアの直線をパルスブーストで突っ切り、1位に躍り出る。


 トゲを撃って来るなら来い。

 それ込みで、なお我々が有利だ。


 段差でジャンプアクションを決めて、着地と同時にドリフトに移行。


 トゲに追いつかれる前に、1周目では見送ったNISCを今度は私が利用する!


タイミングを見計らい、支柱と壁の隙間めがけて…


『ハル、コース変更!サンダーが来る!』


 サンダーだと!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る