第56話 修羅の路

 キングダムサーキットは大きく3つのセクションに分けることができる。


 第一セクションはダートを避けながら連続カーブを進む平地エリアだ。

 ブーストのアイテムがあれば強引に突っ切る事も出来なくはないが、妨害されてダートの真ん中で停止させられたら悲惨な事になる。


 第二セクションは平地からジャンプ台を用いて、堀を越えた先の屋内エリア。

 入り口に270°コーナーが設けられており、慎重にインコースを維持する必要がある。


 第三セクションは、この屋内スペースから段差を降りて突入する隘路だ。

 この段差を降りる段階でうまく着地地点を調整し、十分なミニターボを溜める事ができれば、支柱と壁の隙間を縫って、ノン・アイテム・ショート・カットNISCを行う事が出来る。

 

 もっとも、このショートカットはアイテムボックス1つの取得チャンスと引き換えになるため、本当にノンアイテムと言い切って良い物か疑問は残るが。


 また、この隘路には人工ガーディアンのバルーンフェイスが配置されているため、押しのけ合いに負ければ、思わぬ二次被害を被る恐れもある。


『ここのNISC難しいんだよね…あたし苦手。』


 附子島様がぼやいている。

 ね、ここ難しいよね。

 私も何べんも壁にぶつけられて、外装ベコベコにされましたわ。


『んー、ベノちゃんはアイテム係だから、そこ使わない方がいいかも。アイテムと引き換えの近道だから、首位争いの時に通らないと割に合わないんだ。』


『あ、そうなんでありますか?炎城てっきり必須なのかと…』


 タイムアタックをするならともかく、実戦で物を言うのは結局のところアイテムだ。


 お嬢様がこのコースを希望したのも、NISCを使うためと言うより、それを餌として襲撃ポイントを明確にすると言う、狩人目線での理由が大きい。


 はたして2期生は、この見えている地雷に対していかなる回答を出すだろうか?

 シグナルが灯る。


 3、2、1、スタート!


『あっれー?ネイルちゃんスタートしくった?』


 第1レースと同じく、揚戸様のチャッピーがロケットスタートで飛び出して行く。


 私はあえてそれに付き合わず、ロイとともに後続集団に紛れ込んだ。


 守備よく4位で最初のアイテムを取得。

 中身は…よし!3連ホーミング衝撃弾だ!


『ふっふぅー!3連ホーミング入りました〜!』

『こちらも無敵バリア獲得であります!前の先輩方をやっちまいましょう!』


 手始めに、私のすぐ前を走っているトロンに狙いを定め、ホーミング弾を構える。


 まだだ、まだ撃つな。

 平地で転ばせても大した効果は無い。


 トロンは連続カーブを抜け、ジャンプ台を蹴って、平地エリアと屋内エリアを隔てる堀を飛び越えようとしている。


 今だ!


「あううっ!?こ、こんなタイミングで…!」


:で、でたー!ストーカージャンプ狩奴ー!

:第1レースでもルリにゃんにかましてたよなw


 よし、狙い通り!

 トロンは堀の底へと墜落し、コースに復帰するために、施設に備え付けられた人工ガーディアンの助けを待たざるを得ない。

 大幅なタイムロスだ!


『ひぇ〜!やべー奴がやべー物もっとる!』

『ファーーーwww甘い甘いwww逃しませんよ、ちゃま先輩!』


 繰り上がりで3位になった。

 次は少し先で2位を走るミーガンが標的だ。


 屋内エリア入り口の270°コーナー直前で2つ目のアイテムボックスを入手。


 標的をしばし泳がせ、問題のNISCのポイントに差し掛かった。

 さあ、どう出る?


『いや、どうもこうも、ショトカ通ろうとした瞬間に背中から撃たれるの目に見えてるし!普通にアイテムの方行くよ〜』


『ま、そりゃそっち行きますよね。それじゃ、2位のうちにボックス触って下さいよと!』


 ホーミング弾発射!

 更に余った1発をあえて無駄撃ちし、空いたスペースに3つ目のアイテムボックスの中身をストックする。


「ぎにゃーっ!死体撃ちはバッドマナー!」


…ホーミング弾だから、無駄撃ちした分もミーガンに当たっちゃうんだよな。

 さーせん、仕様なので我慢してください。


:うーん、引きが渋いな

:これ2周目の反撃に耐えられるか?


 第三セクション到達時点で、私の持ち物は反射式衝撃弾1発と、スリップゾーン発生装置が1つ。


 確かに順位の割にはイマイチな品揃えだ。

 どちらも使い捨ての盾にしかなるまい。


 だが、こちらにはまだロイが居る。


『突撃ーーーッッッ!!!一方的にバリアで轢かれる痛さと怖さを思い知らせてやるであります!』


 第1レース終盤で煮湯を飲まされた、バリア持ち重量機が、今度は味方なのだ!

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